第六十話 俺の弱点
「どうして学園長様がここにいらっしゃるんですか?」
ウィルが急いで気をつけするのを見て、俺も姿勢を真似る。
「フォッフォ、ナガマサに頼まれたからのう」
「ああ、オレが呼んだんだ。学園長はこう見えて支援魔法の使い手だからな」
その言葉にウィルは震えながらキラキラした眼差しで学園長を見つめる。
「まさかあのエドワード学園長に教えを乞うことができるなんて⋯⋯!」
ウィルの反応を見る限り、どうやらエドワードは学園のトップにふさわしい実力の持ち主なのだろう。
一見するとただのおじいさんに見えるが、目の前に来てよくわかった。なぜかは分からないけど、勝てる気が一切しない。
「今日からウィルの指導はエドワード学園長が行って下さる。そして⋯⋯」
ナガマサはニヤリと笑ってこちらを見た。
「お前はオレ様がみっちり教えてやるからな。感謝しろよ」
嫌味っぽく言われたその言葉は、今の俺にとっては救済の一言。
教わるならこの人しかないない。
「はい、よろしくお願いします」
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ウィルとエドワード学園長は別の場所に移動して、俺はナガマサと2人きりになった。
そして、ナガマサは開幕早々俺に向かってこう言い放った。
「まず、お前の戦い方は間違っている」
「⋯⋯っ」
それは俺の全てを否定する言葉だった。
「初めて俺と戦った時、お前は一撃目で様子を見ようとした。なぜそんなことをした」
「それは⋯⋯相手の力量が分からなかったからです」
俺は当時のことを鮮明に思い出しながら自分が考えていたことを振り返る。
「最初見たとき、ナガマサさんは武器を持っていませんでした。だから自分だけが届き、相手からは攻撃が届かないギリギリの間合いを取れば負けることは無いと考えて⋯⋯」
「ああ、たしかにその考えは間違ってはいない」
「それならなぜ俺の戦い方が間違っていると」
ナガマサは食い気味に答えた。
「『一撃必殺』これが刀の全てだ」
「それは⋯⋯」
それは、俺が一番気にしていたことだった。
ダンジョンのボス、ザクとの決戦。
俺はこれまでの戦いで全て、渾身の一撃を防がれてきた。
グラジオや師匠、誰かが俺の分まで体を張ってくれたから俺は今、生きることが出来ている。
逆に言えば、俺は、俺ずっと、みんなの足を引っ張っているんだ。
「それにだ、お前が様子見のために放った一撃。それのせいでお前の勝ち筋は無くなったんだぞ」
「⋯⋯っ」
するとナガマサは壁にかけてある木刀を腰に差し、居合の体勢をとった。
「カイン、ギリギリで避けてみろ。お前が言う間合いを意識してな」
「わ、分かりました」
俺は流れるようにナガマサが手をかけている木刀に目をやった。
それはもちろん木刀の長さを測るためだ。
「あっ」
「わかっただろ」
ここで俺は初めて気づいた。ナガマサが居合のために腰掛けた木刀、それが俺からの目線では完全に隠れていたのだ。
低く、腰を捻った体勢をとるナガマサの体でちょうど刀身の大半が覆いかぶさっている。これだと、間合いが把握できな⋯⋯
「お前は唯一、俺が間合いを把握できていない瞬間を無駄にしたんだ」
ナガマサが繰り出した一撃がちょうど俺の喉元で静止する。
結局、刀の全長は腰帯から全て抜かれる寸前まで分からなかった。もしこれが本当の死合だったら俺は確実に死んでいた。避ける隙も与えられず、確実に。
「これからお前には『一撃』、たった一撃に全てをかけてもらう」
「できるな?」というナガマサの問いに俺は迷うことなく答えた。
「はいっ、もちろんです」
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「そういえばお前、どうやってあの技を知ったんだ?」
「あの技って⋯⋯ああ、あれは師匠が使っているのを真似しただけです」
「その師匠とやらは、異世界人か?」
「ええっと、たしか祖先が異世界人だったはずです。ちなみに師匠の名前は『ツバキ』って言うんですけど、さすがに知りませんよね」
もしかしたらと思って師匠の名前を言ってみると、ナガマサがその名を聞いた途端、大きく口を開けて笑った。
「はっはっは! そうかお前、あいつの娘の弟子だったのか!」
「え、師匠を知っているのですか?!」
ナガマサは腹を抱えながら、俺の疑問に答えた。
「当たり前だろ! なんたって、そのツバキの父親、『リンドウ』を鍛えたのはこの俺だぞ」
「リン、ドウ⋯⋯?」
「ああ。 たしか冒険者ランクで、『プラチナ』をとったんだっけな」
「⋯⋯え?」
──『プラチナ』ってたしか。
「さ、最高ランクじゃないですか!」
あのダインや師匠たちのパーティーでゴールドなのに、そのさらに上。しかもナガマサはその師匠だって?
「⋯⋯ナガマサさんって本当にすごい人なんですね」
「あ? 俺の弟子なんだから当たり前だろ」
さも当たり前かのように言うものだからますますこの人の実力が計り知れない。
それにしても、師匠の父親か⋯⋯。
「あ、そういえば⋯⋯」
この学園に来る前、師匠と別れる時に「父の手がかりを探している」と言っていた。
すぐさま、俺は食いつくようにナガマサに質問した。
「ナガマサさん!」
「お、おう。なんだ」
「師匠がそのリンドウさんを探すために冒険者をしているって言ってたんですけど何か知っていませんか!」
きっと、リンドウさんの師匠ということなら、詳しいことを知っているはず。
これで少しは師匠の役に立てる。
そう意気込んでいたら、ナガマサは答えてくれた。そのリンドウについて。
「──ああ、知ってるよ」
ただ、予想に反してナガマサの顔から笑顔が消えていく。
「そうか、まだ知らなかったのか」
静かに沈んだ声でナガマサは答えた。
「あいつはとっくの昔に、死んじまったよ」
「え⋯⋯?」
それは、俺が生まれるよりも前の話だった。




