第五十九話 現実
ウィルに特別な才能があると知ったとき、俺は素直に喜べなかった。
さっきのウィルの一撃、あの一瞬だけだっただけど、確実に俺にはできない芸当だった。
心の何処かで、ウィルには越されないと思っていた。きっと今も思っている。偶然だろう、偶々だろう。ウィルが俺より強いはずがないって。
俺は何年も冒険をしてきた、様々な死闘を繰り返してきた。ウィルより、絶対に戦闘経験を積んできた。前世よりも、確実に努力を積み上げてきた。
それなのにだ。
「──現実はいつも厳しいな」
俺は1番になれない。前世も、そして──今世も。
どんどん追い抜かれる。本当の才能を前に、凡才以下の俺はどんどん置いていかれる。
もう彼、彼女らは待ってくれない。もう、俺のアドバンテージは意味が無い。
⋯⋯もう、俺はみんなに、胸を張れない。
「ウィル」
「は、はい」
「俺と一撃でいい、勝負してくれ」
「カインさんとですか!?」
ウィルは「そんなの無理ですよ!」と拒否するも、ナガマサがケラケラ笑いながら快く承諾した。
「この際だ。全力でやってみろ」
「⋯⋯分かりました」
ウィルは渋々立ち上がり、俺はナガマサから木刀を借りて、対面する。
「い、行きますよカインさん」
「ああ、手加減無しで来てくれ」
「⋯⋯わかりました」
すると、ウィルの目付きが変わった。うっすらとウィルの身体が白い靄で包まれ、俺は思わず息を飲んだ。
「もう、使いこなせるんだな」
身体強化ですら、全身纏えるようになるのに俺は何日もかかった。それなのに、ウィルはさっきの1回でもうコツを掴んでいる。再現出来ている。
流石としか、言いようがない。
「行きます!」
「⋯⋯こい」
お互い勢いよく踏み出した。ウィルは支援、俺は身体強化。お互い武器は同じ木刀。条件は一緒だ。
まあ、正直結果は分かってる。才能ある者の爆発力は、簡単に俺たちを蹴落としていく。俺たちの努力を笑うように、嘲笑うように、君たちは俺たちを追い越していく。
⋯⋯こわいさ。すごく、怖いさ。自分は強いと思っていた。そして、思いたかった。
もし、今もこれからも、俺がウィルとの直接勝負から逃げ続ければ、きっとウィルのことだ、俺の方が強いと言ってくれることだろう。
──でもな、それで一番辛い思いするのは紛れもない、俺自身だ。
君との才能の差をどれだけ感じても、俺の方が強い、すごいと言われ、俺は俺の身の丈に合わない期待にいつも押しつぶされそうになる。
もう、十分だろ。十分、夢見させてもらった。
別に諦めるわけじゃない。それは許されない。
ただ、地に足つけるだけだ。そう、たったそれだけだ。
──それだけの、ことなんだ。
////
「今日はこれで終わりだ。ウィル、お前は先帰ってろ」
「わかり、ました⋯⋯」
辺りは静まり返っていた。
ウィルは戸惑った様子でいなくなると、それを確認したナガマサは静かにカインに問いかけた。
「悔しいか」
「⋯⋯」
「まあいい。その、なんだ。どうしてもと言うなら⋯⋯」そこまで言いかけた時。
「ナガマサ、さん」その声は酷く震えていた。
「⋯⋯なんだ」
表情は目元が手で覆われていて確認できない。でも、どんな顔しているかなんて容易に想像ができる。
「俺に、刀の使い方を、教えてください⋯⋯」
「お願いっ、します⋯⋯!」
指の隙間から見えたその顔は予想以上に酷かった。目は真っ赤に充血し、目尻から涙がとまらず流れ落ちている。口元は震え、だらしなく鼻水も垂れている。くしゃくしゃで、せっかくの顔も台無しだ。
──でも。
「オレは厳しいから覚悟しとけよ」
「⋯⋯はいっ」
それが出来る奴は絶対。
「死ぬ気でやれ。オレが絶対」
強くなる。
「強くしてやる」
///
結局、あれからカインさんとは会えていない。寮にも戻ってこなかった。
どうすればよかったのか。一晩考えたけど答えは出なかった。朝になってもそれは変わらず、落ち込む気分を抱えながら、僕は闘技場にむかった。
「あれ⋯⋯」
すると、闘技場から何か風を切る音が聞こえてきた。ブン、ブンと聞こえるそれは、近づくにつれ、どんどん音が増していく。
僕は急いで闘技場に着くと。
「ウィル、遅いよ」
そこには全身汗まみれになった彼がいた。土埃でせっかくの制服が汚れてしまっている。所々破けてしまっている。でも、それが霞むくらい、彼は今までで一番の、いい表情をしていた。
「⋯⋯お待たせしました!」
彼の中でどんな葛藤があって、どんな悩みがあったのか、それは彼に聞かないとわからない。でもひとつだけ僕が自信を持って言えることがある。
──彼は強い。
「一緒にがんばろう」
「はい!」
異論は認めない。
「それで今日は何をするんですか先生!」
「なに、そう急ぐな。それに今日はお前に朗報だ」
すると先生から衝撃的な発言が出た。
「今日からはお前に教えるのは俺じゃない」
「⋯⋯え? それはどういう」
理解出来ずにいると、先生は顎をくいっと動かして僕たちの後ろを見るように誘導した。
ゆっくり振り返るとそこに居たのは年老いた老人、じゃなくて。
「エドワード様!?」
「フォッフォッフォ」
まさかの学園長がそこにいた。




