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第五十七話 試験後

三度の飯より土下座

「いつまで落ち込んでいるんですか」

「⋯⋯」

 あの後、クラスが違えば教室も違うのは当たり前、ベルたちと別れることになってから俺はずっとこの状態だ。

 頬に手を付き、ため息が絶えずこぼれてしまう。


 なんというか、心が折れたみたいだ。

 もうポッキーみたいにポキっと⋯⋯ふふっ。


「おや、君は例の刀神から合格を勝ち取った生徒じゃないか」

「えっと、君は⋯⋯?」

「ははっ、一応僕も同じ試験を受けていたんだけどな⋯⋯。まあ、こんな底辺クラスに入る奴なんかのをきちんと見てるほうがめずらしいか⋯⋯」


 ポリポリと指先で頬を掻く銅色の髪をした清潔感の漂う好青年がそこにいた。


「僕の名前はルーク、よろしくね。カインくんと⋯⋯王子様」

「ああ、よろしく、ルーク」

「よろしくお願いします」


 俺とウィルはルークと軽い握手を交わすとタイミングよく、ガラッという扉が開かれる音が教室に響いた。


「⋯⋯ったく、なんで俺が担任なんかやらなきゃいけねんだよ」


 愚痴を垂れながら入ってきた人物に俺は思わず口を大きく開けてしまった。

 今、できれば会いたくないランキング一位の人物が入ってきたんだ、当然だ。

 まさか、こんなすぐに再会することになるとは⋯⋯


 ガツガツと中身のない袖を揺らしながら、そいつは壇上に立った。


「あー、今日からお前らの担任をすることになったナガマサだ。まーなんだ、お前らはこの学園に何を期待されて入ったかは知らねえが、ここは最低クラス。つまり、この学園で一番弱え奴らの集まりってわけだ⋯⋯ハッ、まったく、なんでこの俺がお前らみたいな雑魚のお守りをしなくちゃいけねえんだって話だよな」

「⋯⋯」

 明らかな挑発、明らかな侮辱⋯⋯でも、そのナガマサの言葉を俺も含めて、それを否定できるものはここにはいない。

 なぜなら、ナガマサの言う通り、ここにいる俺たちは試験を通してDクラスという烙印を押されたのだから。

 この学園においては最弱という烙印を。


「⋯⋯いくらなんでもそれは言いすぎなのではないでしょうか」

 ただ、どうやらその侮辱に耐えられなかったものがいたようだ。

 先程の好青年、ルークがただひとり立ち上がった。


「たしかに僕たちは最低クラスに配属されてしまった。しかし、高い倍率を勝ち抜いてあの試験を通過したのも事実です。それなのにその物言いはいくら担任といっても⋯⋯」

「ハッ、何いってんだ。──あんな試験、通過して当たり前だろ」

「なっ⋯⋯」

 しかしどうやら、ルークの詭弁は不発に終わったようだ。


「これだからお前らは話にならん。身の程をわきまえろ」

「くっ⋯⋯!」

 まあ、刀神とも呼ばれた男にそう言われては為すすべがないな。

 反抗するだけ無駄、そんなことはルークもわかりきっているだろうに、ナガマサが耳の穴を小指でほじくりながら言うものだから腹の虫が収まらないのだろう。


 ⋯⋯にしても、なぜあんなにも煽り性能が高いのだろうか。

 つい先程、完膚なきまでに敗北していなかったら、きっと俺も彼と同じことをしていたことだろうな。

 まあ、さすがにあれだけの実力差を味わってしまった今は、そんな気は一切起きないけど。


「いいか、そんなお前らに言うことは一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()

「⋯⋯は?」

「なんだ、聞こえなかったのか? 俺はここで、授業なんてくだらないことはしないって言ってんだ」

 それは予想すらしていなかった宣言だった。


「ふ、ふざけんなよ!」

「いくら先生が偉くてもそんな勝手なことは許されません!!」

 それまで静観していた生徒たちも思わず立ち上がって、ルークを先頭に立ち上がるが当のナガマサは一切気にしていないようだった。


「お前らがなんと言おうと、このクラスの担任は残念ながら俺だ。お前らに決定権はねえよ」

 そう言い残し、ふわあと欠伸をしながらナガマサは教室を後にした。


「⋯⋯」

 生徒だけが残された教室は、唖然とした空気の中、ナガマサの扉を閉める音だけが響いた。


 //////


 ナガマサがあの宣言をしてから一時間近く経過した現在、本来なら最初の授業を行う時間なのだが⋯⋯


「──ほんとにこないですね」


 ナガマサは宣言通り、授業の時間に姿を見せることはなかった。


「大陸一の学校だっていうから受験したのに⋯⋯やってられっかよこんなの!」

「私も⋯⋯最低クラスだからってこんな扱い耐えられないわ」

 そして、時間が立つたびにしびれを切らした生徒が次々と教室からいなくなっていった。


「こんな蛮行、許されるはずがない⋯⋯学園長に直談判しよう」

「お、おれもついていくよ」

「わ、わたしも⋯⋯!」

 どうやらルークも我慢の限界が来たようだ。ルークも教室に残った人を連れて何処かへ行ってしまった。

 まあ、行き先は明白だけど。

 結局、教室には俺とウィルだけが残ってしまった。


「カインさんはこれからどうするんですか?」

「俺は、まあこうなったら仕方ないし、刀の整備でもしようかなって。ウィルはどうするんだ?」

「僕は⋯⋯これからナガマサさんに会いに行こうと思って」

「⋯⋯ウィルも直談判に行くのか?」

「いえ、ナガマサさんは僕たちに教える気はないと言っていましたが、今の僕を変えるためにはあの方に教わるのが一番だと思ったので、ダメ元で行ってみようかなと」

「そっか⋯⋯、まあ、何事も行ってみないと分からないからな」

「はいっ! それではカインさん、また後で」

「ああ」


 俺は手をひらひらと振りながら駆け足で教室を出たウィルの背中を見届けた後、一人、教室の真ん中でまた静かにため息を吐いた。

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