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第五十二話 試験2

「⋯⋯なんだ?」

 ライゼンはすぐにその異変に気づいた。

 殺す気はなかったにしろ、手を抜いたつもりはなかった。なのに、振り下ろしたはずの拳が空中で静止していたのだ。


「これは⋯⋯骨が折れそうだな⋯⋯」

 正確には、1人の少女の手のひらによって防がれていたといった方が正しいだろう。

 バチバチと白い稲妻が身体を駆け巡っていて瞳は透明に透き通る。


 ビュンッ⋯⋯


 それから放たれた拳をライゼンは避けることができなかった。拳はこの距離において最速、だが同じ拳だとしてもその速度は同じじゃない。


 簡単な話だ。

 ベルの拳は、ライゼンでも捉えきれないほどに、それほどまでに⋯⋯


『速かった』


 ドスン⋯⋯という鈍い音が響き渡った。

 思わず後ずさるライゼンに対し、ベルは追従する。


「くっ⋯⋯」

 四方八方、視界いっぱいに迫りくる攻撃をライゼンは防ぐしか方法はない。

 反撃の機会もなく、ただ、防戦一方になる。

 しかし、攻撃を絶えずし続けるというのは至難の業。


 攻撃とは、いわば無酸素運動なのだ。


 どこかで⋯⋯『呼吸』を入れるタイミングがある。


 今⋯⋯!


 たったコンマ数秒。

 攻撃が止んだ瞬間をライゼンは見逃さなかった。

 防御する腕の隙間からのぞかせていたベルの姿に向けて、殺さぬよう、でも渾身の一撃を放つ。


 ブンッ!と拳が風を切る音が鳴った。

 しっかりと捉えていたはずだった。

 それなのに、拳に込めた力は行き場を失い、ただ空中で静止している。

 捉えたのはベルの姿ではなかった。


「なっ、ざんぞ⋯⋯」

 急いで対象の姿を探した。

 するとそれはすぐに見つかった。伸ばした腕のすぐ下。

 すでに獣毛に包まれた手を握りしめ、反撃の準備が整っていた。


 どうやら、見誤ったようだな⋯⋯


 ──会場にまた、鈍い音が響いた。


 次の瞬間、ライゼンは天を見上げ、大地に背をつけた。

 そしてそれに伴うようにベルも毛色は徐々に戻っていき、その場に倒れ込んだ。

 その光景を見て、ライゼンは「ははっ」と笑うと、静かにそれを宣告した。


「⋯⋯ベルと言ったな⋯⋯わしの負けだ」


『──うおおおおお!!』

 その宣言に会場が沸き上がった。前代未聞の教師の敗北宣言。

 その場にいた誰もが声を上げて興奮を抑えきれない様子だった。

 当然、ウィルも中腰ですこし立ち上がってしまうほどにその会場の熱気はすごいものだった。


 ⋯⋯ただ、一人を除いては。


 皆が立ち上がる中、その者だけは座り込んだまま微動だにしない。

 うつむいたまま、地面をじっと見つめていた。


「⋯⋯見えなかっ⋯⋯」

「すごいじゃないですかカインさん!」

「⋯⋯っ、ああ、そうだな⋯⋯」

 突然名前を呼ばれ、はっとしたように呼ばれた方向を向く。


「まさか入学試験で教師を倒しちゃうなんて! そんなの聞いたことないですよ!」

「俺たちも、負けてられないな⋯⋯」

 そして俺はぎゅっと誰にもわからないように手に力を加えた。


「お、いたいたあ」

「お前は⋯⋯」

「──兄さん、何しに来たの」

 ウィルはなんとか平静を装おうとしたのだろうが、声が震えてしまっている。

 それを聞いたカルロはにっと口角を釣り上げた。


「そんなの、試験が免除されている優秀な俺とは違い、平凡以下のかわいそうな愚弟が、大勢の前で試験に落とされるところを見に来たに決まっているじゃないか。

 ⋯⋯それに、俺に逆らった奴の無様な姿を見にもな」

「カインさんは関係ない!!」

「なんだ⋯⋯?俺に歯向かうのか⋯⋯?」

 声を荒らげてカルロの前に立ちはだかったウィルを見て、カルロは苛立ちを顕にしたが、すぐにまたニヤリと笑って俺の方を見た。

 なんとも想像通りの表情すぎて教科書に載るんじゃないかってレベルだ。


「まあいいさ、もう手遅れだしな」

「それってどういう⋯⋯」

 するとそれを遮るようにして次の試験者の名前が呼ばれた。


「次、人族ウィル!」

「ほら、呼ばれたぞ出来損ない」

「⋯⋯僕にはいくらでも嫌がらせをしてもいいです。でも、カインさんには手を出さないでくださいね」

「ああ、約束するさ。手をださないって」

「⋯⋯」

 そのウィルの震えながらも反抗する姿は俺からしたら凄いとしか言いようがなかった。

 俺は、きっとウィルは俺と同じようにびびりで簡単に言えば、「弱い」と思っていた。

 それは喧嘩がとか、戦闘でとかの弱いじゃない。

 人間として、だ。


 しかし、それは間違いだったようだ。

 ウィルの今の姿をみてどうして弱いと思えるだろうか。

 どう見ても⋯⋯俺よりも十二分くらいに「立派」な人間だ。


「行って来いウィル。そしてギャフンと言わせてやれ!」

「⋯⋯はい!」

 ウィルは元気よく返事をすると張り切った様子でステージに向かって行こうとした。

 しかし⋯⋯


「おい、何言ってやがる」

「ん?」

 カルロは先程の気持ちの悪い笑みをまた浮かべると、それに呼応するかのように試験管の声が聞こえた。


「そして、人族 カイン!!」

「えっ⋯⋯」

 思わずウィルは試験管の方を振り返った。

 これまで一人ずつ呼ばれてきていたのに突然の仕様変更。

 これが誰の仕業かなんて答え合わせをする必要すらない。


「いったいどういうこと! さっき手は出さないって!」

「おいおい、俺は手を出してないだろう? まあ仕組ませてはもらったがな」

「⋯⋯」

 カルロは幼稚な言い分でウィルを見下しているが、正直カルロの狙いがわからない。

 単純に考えれば、戦力が増えて得するのはこちら側だ。


「⋯⋯まあ、今更文句を言っても手遅れだ。どっちにしろ行くしかないんだ、さっさと行こうぜウィル」

「⋯⋯わかりました」

 怒りが収まらない様子のウィルを連れて俺たちは石造りの階段を降りて教師たちが待つステージに向かう。

 舞台袖には人だかりができていてその中心にはベルの姿。

 人混みには慣れてない様子であたふたしているようだ。

 これだけを見ると、ついさっき教師を倒したとは到底思えないな。


「⋯⋯」

 ⋯⋯ぎゅっと俺は静かに手に力を入れた。

 俺だって⋯⋯


「⋯⋯ンさん、カインさん。どうしたんですか?」

「⋯⋯ああ、ごめんごめん、何でもないよ」

「それより、本当にすみません。カインさんを巻き込んでしまって」

「何いってんだよ、俺から巻き込まれに言ったんだ。それに、俺たちも試験官に勝って見せつけてやろうぜ」

 そう言うとウィルは少しうつむいて苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた。


「それは⋯⋯難しいと思います」

「え⋯⋯?」



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