第五十話 試験開始
魔法学園グレースに入ってすぐ、俺たちは試験会場に案内された。
「私達が最後だったようですね」
「ギリギリだったな」
そう言いながら少し駆け足で俺たちは人混みの最後列につく。
どうやらちょうど始まるところだったみたいだ。
円形の広場。その中央には正方形のステージがあり、何人もの大人が立ち並んでいる。
「皆のもの、よくぞ集まってくれた」
ステージ上に立っている大人たちの中でも特に歳を取っているであろう老人のその優しい一声であたりのざわざわした音が忽然と消えた。
白い髪に白いふさふさの髭、まさにその姿は仙人と呼ぶにふさわしいものだろう。
そして流石の俺でもわかった。
あの人は、この場にいる誰よりもそれも圧倒的に強いってことが。
「なあウィル、あの人って一体⋯⋯」
「カインさんはあの方をご存知ないのですか? 」
ウィルは驚いた様子で俺を見つめた。
⋯⋯あれ、これもしかして知らないとヤバイヤツ?
「あの方は、この学園の初代校長、エドワード様ですよ」
「⋯⋯ふーん、こうちょうね」
うん、知らないとヤバイヤツだったね。
そういえば、俺、冒険に夢中で学校のこと、全く調べなかったな。
前世で例えると、ろくに大学を調べずに受験するあれね。
いやあ⋯⋯危なかったあ。
「さて、堅苦しい挨拶は必要ないからのう、さっそく始めるとしよう。試験内容は至って簡単、お主達の実力を、ここにいるわが校の教師達に見せてくれ」
おほんと咳払いを一度挟んで、エドワード校長は高らかに宣言した。
「ではこれより、魔法学園グレースの入学試験を開始する」
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「くそおお⋯⋯!」
「不合格です」
「まだまだ⋯⋯」
「不合格」
試験が始まって数十分が経過した。
正方形のステージ上で待ち構える教師達はダインから教えてもらっていた通り、相当な実力者のようで、今のところまだ一度も技を受けていない。
見たところ志願者の実力だって、決して低くないはずなのにだ。
「それでは次、小人族モモ!!」
「⋯⋯どうやら私の番のようですね」
名前を呼ばれたモモはゆっくりと立ち上がり、杖を片手にステージに向かう。
今思えば、モモの対人戦を見るのはこれが初めてかも知れないな。
石階段を上り、モモはステージ上の丸い眼鏡を懸けた若い女性の教師と相対する。
「あなたがモモさんね、私の名前はモネ・ラーコーツ。よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそ、お手柔らかにお願いします」
見たところ、教師も魔法主戦型。
モモはどう戦うのか⋯⋯
「それじゃあ⋯⋯」
モモは杖の先にある魔石に意識を集中させた。
すると魔石に淡い火が灯る。
「いかせていただきます」
モモがそう呟いた瞬間、モモの背後に複数の魔法陣が広がった。
それは投影まで時間がかからない中級程度の魔法を常に発動できる状態にして、敵の接近を一切許さないがその分、術者の負担が大きい戦闘スタイル。
その戦い方をしていた者を俺は知っている。
どうやら、あの戦いを通して成長していたのは、俺だけじゃなかったようだ。
モモが杖を振り下ろすと、魔法陣から同時に炎、岩、水の三色の光が飛び出していった。
その軌跡が眼の前のモネに降り注ぐ。
さあ彼女はどうやってこれを防ぐのか。
魔法で遮蔽物を作るのか。
それとも回避するのか。
だが、彼女がしたのはそのどれとも違った。
彼女はふっとやさしく微笑んで手を前に突き出すと、コンマ数秒にも満たないうちに「ブンッ」と彼女の全身は半透明の球体に包まれる。
「なっ⋯⋯」
モモの魔法が直撃して、彼女は大きく舞った土埃に覆われた。
いくら中級魔法といっても、その威力は馬鹿にできないもの。
だって魔獣をいとも簡単に殺せるんだぜ?
それをたったあれだけで防げるはずが⋯⋯。
「⋯⋯っ」
パラパラと風が土埃を運び、徐々にその全貌が明らかになった。
結果は⋯⋯
無傷だった。
「まじ、ですか⋯⋯」
流石のモモでも想定外だったようだが、それでもモモは間髪入れず魔法を繰り出した。
立て直しを図るため、あの半透明の球体の情報を少しでも手に入れるためにはそうするしかない。
しかし、それを許してくれるほど相手は甘くなかったようだ。
モネはモモの魔法の切れ目に合わせて、地面にいくつもの魔法陣を出現させる。
「ではこちらの番ですね」
モネはその言葉の通り、魔法陣を発動させた。
パステルカラーに近い、緑の発光とともに魔力に包まれた新芽が地面から顔を出し、すぐに枝葉が広がり始める。
時間の経過を感じさせない速さで、花が咲き、つるが絡まり、それらは高く伸びていく。
「そんなっ⋯⋯」
モモはなんとか防ぐ手立てを模索するが、時すでに遅し。
一瞬の内に、伸びたつるは手足に絡まり、モモの身動きは封じられてしまった。
いくらもがいてもびくともしない。
モモは諦めたように大きく息を吐いた。
「⋯⋯まいり、ました」
「⋯⋯」
モモが降参するとすぐさま拘束が解かれて、シュルシュルと逆再生のように成長したつるが縮んでいく。
そして、その様子を見届けたモネは一瞬の沈黙のあと、やさしい笑みを浮かべて一言こう言った。
「合格です」
「⋯⋯えっ」
「よし!!」
それを聞いた俺は思わずガッツポーズをした。
モモは力が抜けてカクンとその場に尻もちを着く。
⋯⋯どうなることかと思ったけど、これで一人。
すると、ホッとしたのも束の間、すぐさま次の名前が呼ばれた。
「次、獣人族ベル!!」
「⋯⋯いってくる」
「おう」
モネの手を取って立ち上がるモモを見届けて、ベルも立ち上がる。
俺はベルの背中を見届けて次の教師を確認した。
さて、ベルの相手はっと⋯⋯。
「⋯⋯まじか」
俺は思わず声が出た。
ステージ上にいたのは剣士でも魔法使いでもない。
武器を持たず、あるのは素手のみ。
それが意味するのは唯一つ。
ステージに立つ男はベルが到着すると帯を強く締め、力強くその言葉を放った。
「押忍っ!!」




