第四十八話 出会い
「うわあ⋯⋯」
街に入るとそこは別世界だった。
どこを見渡してもそこには目新しいものが目に写った。
どれもこの世界では初めて見るものばかり。
床は石タイルで敷き詰められていて、眼前には左右びっしりと店が立ち並んでいる。
「首都というからにはレベルが違うとおもっていたけどこれは⋯⋯」
「はい、私も初めて来ましたけど想像以上です⋯⋯」
俺とモモはつい足を止めてその光景に息を飲んだ。
何より、驚いたのが⋯⋯
「カイン、あれはなんですか!」
「⋯⋯え?」
それを見た俺は思わず声が漏れた。
まさか、この世界で見ることができるとは⋯⋯
それはブルルル⋯⋯と音を立ててこの大通りのど真ん中を堂々走っていた。
黒光りする胴体を四つの車輪が高速で回転することで、地面を駆けることを可能にしているそれは、前世では総じてこう呼ばれている。
「くるま⋯⋯だって⋯⋯?」
前世で実際には見たことがない形状だが、昔見た教科書に乗っていた気がする。
この世界の見てきたものの中でも特別異彩な存在感を放つそれに、思わず俺の目は釘付けになった。
「それにしてもすごいですよね。あれも全部魔力で動いているなんて」
「ああ、そうだな」
モモの言う通り、あれらの動力源は全部、魔力だ。
なぜならこの世界に、雷はあっても電気という概念は存在しないからな。
ちなみに、魔核が重宝されている理由もこの要因が大きかったりする。
魔核は魔力の塊、これほど燃料に適したものは他にない。
電気が存在しないのも、ある必要がないからだろう。
「そういえば、このルドベキアってここ数十年で急激に成長したって言っていたよな?」
「はい、私も詳しくは知らないのですが⋯⋯」
モモは「うーん」と顎に手を当てて、なんとか喉まで出かかっている情報を引き出そうとする。
⋯⋯なんか小動物を見ているみたいで可愛いな。
すると、どうやら無事に出たみたいで「あ!」とモモは人差し指をピンと立てた。
「たしか、『トゥールース』という一族がこの街を治めるようになってから一気に変わったとツバキさんが」
「へえ、『トゥールース』⋯⋯ね」
数十年でここまで発展させることの難しさ、そんなの俺でもわかる。
さすが首都⋯⋯治める人もそりゃあ、すごいに決まってるよな。
「おーい!!何してるんだい二人共!!」
「⋯⋯はあ、相変わらず、すごい食欲ですね」
その声がした方を向くとそこらの出店が買い占めたのであろう食べ物を両手いっぱいに抱きしめる師匠とベルの姿があった。
ほんと、身体のどこにその量が入るスペースがあるのやら。
「それじゃあ、行こうかモモ」
「はい!!」
///////
「⋯⋯にしてもアイルの城も大きかったけど、ここはその倍近くありそうだな」
ベルの上に大量に積まれた食べ物の中から一つバレないように取った食べ物を口に入れて、俺は天を仰ぐようにして、はるか先でそびえ立つ城をじっと眺めていた。
あまり城にいい思い出はないけれど、それでもやはり男心がくすぐられてしまう。
「⋯⋯かっこいいな」
中世ヨーロッパにありそうな造形が俺の秘められた中二病魂を震わせる。
「ぐっ、おさまれ!」と試しに心臓のあたりを押さえてみたが⋯⋯
「なにやってるんですか」
「はやくいこうぜ」
「うん」
「⋯⋯」
うん、みんなから白い目で見られるだけだった。
あー、死にたい。
今度は猛烈なダメージを受けてボロボロになった心を押さえていたら、視界の片隅にある光景が目に入った。
「おい、まさかお前、本当に受かれるとか思ってんじゃあねえよな!」
「⋯⋯!!」
店と店の間の路地。
一人の男の子が複数の背の高い男共に囲まれている。
⋯⋯なるほど、どうやらどの世界にも存在してしまうようだ、いじめというやつは。
まったく、どういう事情があるかはわからないがあれを見て、俺が黙って見過ごせるわけがないじゃないか。
「⋯⋯みんな、ちょっと行ってくる」
「はい、わかり⋯⋯ました」
このときの俺はきっと、すごい表情をしていたのだろう。
つい、昔のことを思い出してしまって。
思い出したくない記憶。
でも忘れてはいけない記憶。
ったく、胸糞悪いな。
自分に腹が立ってくる。
「おい、一体何してるんだ」
「ああ?」
俺の声に主犯格であろう金髪の男が反応すると振り向きざまに俺を睨めつける。
ガンを飛ばす、とはこのことなのだろう。
「おいお前、俺が誰だかわかって聞いてんのか?」
「⋯⋯」
ああ、これも人生で二度目かな。
前回俺は腰が抜けて何もできなかった。
次の標的になるのが怖くて俺はその場から逃げ出した。
⋯⋯友だちを見捨てて。
そして、一度見捨てたら次、手を伸ばすのは困難に近かった。
「──知らないけど、それがどうした」
同じ過ちは、しない。
そう、心に誓った。
「ハッ、まあいいさ、その威勢がどこまで続くか楽しみだな。どうせ、お前も入学試験受けに来たんだろ?」
「そうだと言ったら⋯⋯」
「こいつを助けたこと、後悔させてやるよ」
そいつは俺を覗き込むようにしてその言葉を吐き捨てた後、「いくぞ」と言ってその場から立ち去っていった。
それを確認して周りに誰もいなくなったことを確認した俺は壁によりかかりながら静かに座り込む。
「ふう⋯⋯」
どうやら、トラウマというのは簡単には無くなってくれないらしい。
以前の俺とは違うとわかっていても走馬灯のようにあのときの記憶がフラッシュバックしてきた。
微かに震えた手を視認して、俺はギュッと拳を作る。
すると「あの⋯⋯」と小さくうずくまっていた金色の髪をした少年がこちらに話しかけてきた。
「ん? ああ大丈夫だった? ごめん、情けないところ見せちゃったな」
「いえっ、それより、こちらこそごめんなさい。僕が不甲斐ないばかりにあなたを巻き込んでしまって⋯⋯」
「なに、俺がしたくてしたんだ、謝らないでくれ。それに、なんか後悔させてやるとか言ってたけどどうせこけおどし⋯⋯」
「違うんです!!」
突然の声量に俺は少し驚いて、うつむく彼をじっと見つめた。
手はズボンの裾を強く握りしめていて、声は少し震えている。
「きっと今回のことで、僕もあなたも試験で仕組まれて不利になるでしょう」
「⋯⋯それはどういう」
「彼は⋯⋯、彼の名は⋯⋯」
少年はゆっくりとその名を口にした。
「カルロ・トゥールース」
「『トゥールース』⋯⋯」
その名を俺はついさっき聞いたばかりだった。
それが意味するのはおそらく⋯⋯
「はい、彼はこの国の──『第一王子』に当たります」




