第四十七話 到着
~~~ 数年後 ~~~
「はあっ、はあっ」
青々とした緑が広がる森の中。
木々の間からキラキラと差し込む光と多種多用な鳴き声によって、その自然の豊かさが更に強調されている今日このごろ。
私達は⋯⋯
絶賛、魔獣の群れに追われています。
〜〜〜
「もうー! 二人が余計なことするからーー!!」
バキバキと木々がなぎ倒されていく音に追われながら獣道とも取れる坂道を全速力で下る最中、モモは後方にいる二人に向けて文句を垂れていた。
こうなった事情を手っ取り早く簡単に説明すると、目的地に向かう道中、私達はラッシュボアーの群れを発見。
誰かさんの寝坊のせいで先を急がなきゃいけないっていうのに、食欲の塊二人がそれを見るやいなや突撃。
そして、現在に至るというわけです。
そんな当の本人たちはというと⋯⋯
「いやあ、思ったより数が多かったな! 」
「お肉⋯⋯」
特に悪びれる様子もなく、向かい風でおでこを丸出しながら私の後ろにピッタリくっついてきています。
その内の一人は大きく口を開けながら「あはは!!」とこの現状を楽しんでいるよう。
一体誰のせいでこうなったと思っているんですかね。
もう一人はまだ「おにく⋯⋯」とか言っているし!!
「んんもう⋯⋯」
「いいいやあああああ!!」
溜まった鬱憤を晴らすように叫ぼうとした矢先、私の声はそのさらに上をゆく叫び声によって一瞬にしてかき消された。
あまりの声のデカさに私の鬱憤の矛先はその叫び声の大本に向く。
「ちょっと、うるさいですよ⋯⋯カイン!!」
「いや、しょうがないだろ!!」
私達の最後尾、ラッシュボアーの角とおしりが触れるかどうかのギリギリを攻め続けている彼こそ、今回寝坊した張本人である。
「なんで俺が一番後ろなんだよ!!」
「寝ぼけてたからでしょ!!」
「ほんと、朝から元気だなモモ」
「誰のせいだと思っているんですか!!」
「おにく⋯⋯」
「んああああ!!!」
モモは耐えきれず頭を抱えてガシガシと強く掻く。
この数年でモモのストレス耐性はだいぶ鍛えられたが、それでも彼らはその上を行く。
もちろん、悪い意味で。
──フワッ。
「⋯⋯ん?」
そんなコントみたいな掛け合いをしていると、モモはひんやりとした心地よい風が頬を掠めていったのを感じ取った。
視線を前に向けると道の先に一点の光。
それが意味するのは⋯⋯
「ああやっとですか!!」
モモは地面を強く踏みしめ、勢いよく飛び出す。
宙に舞った木の葉を身にまといながら、広大でどこまでも広がる青空に向かって。
「森を抜けちゃえばこっちのもんです!!」
後ろの二人もしっかりついてきているのを確認するとモモはそのまま合図をだした。
「あとはお願いしますよ、お二人さん!!」
「はいよ!!」
「うん」
モモの指示を快諾したツバキとベルは着地と同時にキュッと回れ右をして各自すぐさま戦闘態勢に入る。
ツバキはカチャッと刀の頭に手を当て、ベルは姿勢を極限まで地面に近く伏せた。
ドッドッドッと何十にも重なった足音とそれに伴って発生する地響きが、その瞬間がまもなく来ることを知らせてくれる。
「いやああああ!!」
ガサッと草むらから飛び出してきたカインを捉えた瞬間、ツバキの合図とともに二人は走り出した。
「よし、行くよ!!」
ヒュンという音がカインの横を通り過ぎると、何十頭ものラッシュボアーがカインと同じように草むらから飛び出してきた。
しかし、次の瞬間。
空中にキラッと何か光ったと思ったら、そのラッシュボアーたちは一斉に切り裂かれていた。
「ま、こんなところだね」
「モモ、火ちょうだい」
ブンと二人は刃についた血を振り払い、ツバキはゆっくりと刀を鞘に収める。
そして空中で分解された血肉がぼたぼたと地に落ちているのを背後に、何事もなかったかのように二人は歩いてきた。
「ベルさん、ご飯は後に⋯⋯おや?」
モモが呆れていると突然、ラッシュボアーがいた場所からグオオオ!!という雄叫びとともに一匹の魔獣が飛び出してきた。
「あれはレッドベアー⋯⋯」
「おや、 血の匂いにつられてきたのかな?」
赤い毛皮に身を包んだ魔獣が猛スピードでこちらに向かってきているのに、ベルは気にする素振りが一切なかったので仕方なくツバキは刀に手をかけようとした。
しかし、
「⋯⋯おっと、どうやらうちの出番はいらないようだね」
すでに一人走り出していたのでツバキもベルと一緒にゆっくりモモの下へ歩き出した。
「ははっ、久しぶりだな⋯⋯!」
3メートルはゆうに超えるだろう巨体を前にカインは真正面で迎え撃った。
グオオオ!!という雄叫びを間近で浴びて肌はピリつき、地面が揺れる。
スピードを緩めること無く突進してきたレッドベアーはボッと両手に真っ赤な炎をまとわせ、その巨大な全身すべてを使って腕をそのまま大きく振りかぶった。
このままこれが直撃すればひとたまりもない。
だがカインはそれを前にしても慌てること無く、ツバキと同じように刀の頭にそっと手を置いた。
「ふっ!」
一太刀。
レッドベアーは自分が切られたことに気づかぬまま、ただカインの横を通り過ぎ、そして、そのまま崩れ落ちた。
あたりには鞘の縁に沿って静かに収められた刀のカチンという音だけが響く。
「よしっ!」
「カインーー!!」
「ん?」
カインは呼ばれた方を振り向くと、モモがぴょんぴょんと飛び跳ねながらある場所を指さしていた。
その先にあったのは、薄っすらと見える背の高い建造物の数々。
「やっと見えた⋯⋯!」
急いでモモたちのもとに駆け寄り、もう一度それを見る。
どこまでも広がる草原の先に佇むその光景にブルッとカインは身震いした。
「どうやら間に合いそうですね」
「ああ、あそこが俺たちの目的地⋯⋯」
「首都 ルドベキア!!」




