第四十六話 また会えたら
今日の天気は、あの日のような綺麗な青空が広がっていた。
心地の良い風を浴びながら、4つの人影がアイルを見渡せる丘の上にやってきた。
その丘の上には、一つの石碑とボロボロになった盾が。
「⋯⋯3日ぶり、ですね。ようやく、ゆっくり話せますね」
一人の少年が手に持った花の束をそっと飾るように置くと、四人は石碑に向かって整列した。
「あのあと、こんな事があったんです」
少年は優しく、尊敬する人に向かって話し始めた。
あれだけいた衛兵たちは、ザクが死んだと分かった途端、全員がすぐに武器を手放しました。
まるで、最初からその予定だったかのように。
無音は、ダインと熾烈な戦闘を繰り広げていたところ、忽然とその場から姿を消したそうです。
俺は、あなたにトドメを刺したサイレントのこと、許すことはできませんが、無音も結局、ザクから依頼されたから実行したに過ぎません。
知っていますか?
一番あなたを大切に思っていた彼女がそのザクを恨まないって言ったんですよ。
ほんと、あなたが言ったとおりでした。
彼女は誰よりも優しくて、そして、誰よりも強かったです。
なので、俺もそんな彼女を見習って、恨まないことにしました。
まあ、どうせあなたのことです、『それで良いんです』とでも言っているのでしょう。
ちなみに国の方は、誰よりも妖精族の未来を考えていた王子の死で国民による暴動が起きそうになったそうですが、そこは、さすがあなたが仕えた国の王様だ。
国王の『息子の意志を無駄には、私が絶対にさせない』の一言で解決したそうです。
「⋯⋯とまあ、こんなところですかね。さて、ここからは俺たちの話を聞いてもらいますよ。みんな、あなたに伝えたいことがいっぱいあるんです。ちゃんと、聞いててくださいね」
少年がそう言うと、一人の小人族の少女が前に出た。
「⋯⋯ここにきて、ようやく実感しました。もう、お会いすることができないんだって。
私、このパーティーで旅ができたこと誇りに思っています。そして、自信を持ってこのパーティーのこと、姉に会った時に胸を張って言えます。私のパーティーこそが、世界で一番だって」
涙をこぼしながら、彼女は笑顔で言った。
次に、人族の女性が前に出た。
「旅において、死は常に付きまとうものだ。私は、今まで何人もの死を見てきた。見てきて、見てきて、見てきたのに⋯⋯この瞬間だけは、いつになっても慣れないな。
──あんたと出会えて良かった。そっちでも元気にやれよ」
ニコッと笑って彼女は言った。
そして最後に、人族の少年と妖精族の少女が前に出た。
「最後は俺たちです。じゃあ俺からいきますね」
少年は深く息を吸った。
「あなたと出会った時のこと、今でも昨日のことのように思い出せます。
覚えていますか? 最初は俺、彼女から避けられていたんですよ。あれは、割とショックでした。
あと、みんなでダンジョンに行きましたね。あのときは忘れもしません。俺のせいでたくさん迷惑をかけました。
⋯⋯まだまだありますよ。
みんなでギャンブルもしました。それで勝ったお金でカンナに装備を作ってもらいましたね。
みんなで特訓もしました。あの地獄の特訓のおかげでポーションが嫌いになりましたよ。
そうだ、アイルに入るために変装もしましたね。
あれは強烈でした。
でもまさかうまくいくとは誰も思いませんでしたけどね。
あと、あと⋯⋯」
少年が思い出を語る度、自然と涙が溢れてきた。
「ああもう、思い出がありすぎて言い切れないじゃないですか」
少年は涙を袖で拭いて、改めて、石碑を見つめる。
「──あなたと過ごした日々、その毎日が⋯⋯」
「最高に楽しかったです」
少年も、笑って言った。
「ようやく、私の番ですね」
少女は待ちかねたように石碑を見つめる。
「あなたと出会ったのは私が小さい時でしたね。いじめられていた私はいつも一人でした。
毎日が寂しくて、つらくて⋯⋯。でもそんな時、あなたが手を差し伸ばしてくれました。
いじめはなかなか無くなりませんでしたが、それでもあなたがいたから私は、ここまで頑張ってこれました。
何度、自分なんていなければと思いました。生まれてなんて来なければ良かった、とも思いました。
でもそう思う度、あなたは私を照らして助けてくれました。
そういえばあの時、あなたはこう言ってましたよね。
あなたは、私の光だと。
⋯⋯でも、それは少しちがうんです。
私があなたを照らしていたのなら、あなたはそれ以上に⋯⋯
──私を、照らしてくれたんです! 」
彼女は胸に手を当て、世界で一番の最高の笑顔で言った。
「この世で一番、あなたのことが大好きです! グラジオ!」
彼女のこの思いが本人に届いたかどうかは、俺たちに知るすべはない。
だが、俺たちは確信していた。
確実に俺たちの思いは届いたと。
四人は盾と一緒に石碑にかけられていた綺麗なペンダントを見つめた。
そのペンダントの先には、一際目立つ宝石が飾ってあった。
その宝石は雲の切れ目から差し込んだ太陽の光に照らされ、それはそれは綺麗な、翠緑 色に輝いていた。
/////
次の日の朝。
「ミリア様!!」
衛兵がバーンと扉を開けた先にはシオンとルド。
そして美しい佇まいで外を見つめるミリアの姿があった。
その姿を確認した衛兵はミリアに向けて息を切らしながら報告した。
「門番に確認したのですが、朝早くに人族の一行が出ていくのを見たと⋯⋯!!」
「あははは! 全くあいつららしいな」
その知らせを聞いたシオンは腹を抱えて足をばたつかせながら笑い転げた。
「⋯⋯そうですか、行ってしまったんですね」
ミリアは窓の外を見つめ、儚げな表情を浮かべながらここから見つかるはずもないのに彼らの姿を探す。
その様子を見たルドはそっとミリアの横に立ち、同じ方向を見つめた。
「彼らには、感謝してもしきれない恩ができてしまいましたね、ミリア」
「はい、お兄様。ですけど皆さんなら恩を返そうとしたら、きっとこう言うはずです」
ミリアは彼らのことを思い浮かべながら空を見上げる。
「『俺たちは仲間なんだから気にすんな』って」
ルドはそのときのミリアの表情を見て、つい柔らかな笑みを浮かべてしまった。
「⋯⋯どうやら、良い仲間と巡り会えたようだね」
だってその表情は以前のミリアでは一度も見ることが出来なかったから。
「──はいっ!」
こんなにも、気持ちの良い笑顔は。
「さて! それでは皆さん、そろそろ行きましょうか」
ミリアはそう言うと、くるりと扉の方へ振り返った。
「国民達が待ってますから」
「⋯⋯おう!」
ミリアの掛け声に従って、その場にいた者たちは立ち上がり、扉に向かってそれぞれ歩き出していった。
シオン、ルド、そして最後にミリアが部屋を出て扉を閉めようとした時、ミリアは窓から入ってきた心地よい風の存在に気づいた。
「あ⋯⋯」
するとミリアは突然、その窓に向かって走り出し、上半身を乗り出して息を大きく吸い込んだ。
「皆さん! ほんとうに、ありがとうございましたー!」
そう喉がはち切れんばかりに叫んだあと、ふわりと風でなびく髪を抑えながらミリアは最後に心のなかでぼそっと呟いた。
またお会いしましょうね、カインさん。
//////////
「これで本当に良かったんですか?」
さっきからモモが黙って先頭を歩くツバキとカインに不安そうに尋ねるも、二人からはそれに「いいんだ」とだけ返ってきていた。
「だってせっかくのルドさんとミリアさん、お二人の戴冠式なんですよ? それに、ミリアさんの晴れ舞台を一番見たいのは、カインさんじゃないですか」
「たしかに、それはそうだけど⋯⋯」
「じゃあ⋯⋯!」
今から戻りましょうとモモが言い切るその前にダインが静止に入った。
「ここは、大目に見てやってくれ。うちの息子と馬鹿が必死に我慢してるんだ。あの場に、人族はちとふさわしくないからな」
ほら、見てみろとダインの指示どおりに二人の前に立つと、今にも涙が零れ落ちそうなのを必死に抑えている顔がそこにあった。
「まったく、ほんと素直じゃないんですから」
呆れるようにモモはやれやれと首を振った。
「でも、それがカインらしい」とベルが言った言葉にモモは「まあそうですけど⋯⋯」とちょっと照れくさそうに同意していたのをダインは見逃さなかった。
ダインは顎に手を添えて、「ほう⋯⋯」と、なにやらいやらしい笑みを浮かべていると、ふと声が聞こえた。
「⋯⋯ん?」
「今の⋯⋯」
それはダインだけではなく全員に聞こえていた。
風に乗って微かだが確かに聞こえた。
「⋯⋯よし!」
すると、次の瞬間には先頭にいたはずの二人がダッと走り出していた。
そして遥か後方にあるアイルに向かって、ツバキとカインは思い切り叫んだ。
「こちらこそ、ありがとなー!」
それをみたモモも続いて「ありがとうー!」と叫んで、ミリアがいるであろうアイルの街を3人で眺めた。
「⋯⋯必ず、また会おうな、ミリア」
数十秒ずっとアイルを見つめたあと、カインはそう言い残し、3人は今度こそアイルの街に背を向けた。
「さて、それでは行きましょうか!」
こうして俺たちは次の目的地への一歩を踏み出した。
次、いつミリアと再会できるかなんてこと、それは誰にもわからない。
一ヶ月後かもしれないし、一年後かもしれないし、もう二度と会えない可能性だってもちろんある。
でも、それでも俺たちがやるべきことは変わらない。
俺たちは成長し続ける。
ミリアに負けないくらい成長し続けて、そして、もし再会できた時に俺たちは胸を張ってこう言うんだ。
「どうだ、すごいだろ! 君がいた仲間は!!」って!
そして俺は空を見上げて手を太陽にかざした。
だから、安心して見守っててくれよ、グラジオ。
俺たちはもう⋯⋯
──前を向いてる。
〜〜〜 第二章 完 〜〜〜




