第四十四話 決着2
〜数十分前〜
はあっ、はあっ。
カインさんと別れてから、私は父が囚われている部屋を目指し、一直線に向かっていた。
一秒でも早く着くため、横腹が痛いのをぐっと手で抑えながら、今の自分が出せる最高速度を保って。
「いたぞ!」
「もう!またですか!!」
ゾロゾロと私の先を塞ぐようにして現れる衛兵を見るや否や、即座に杖に魔力を集中させる。
「道を、開けてください!!」
杖のてっぺんを相手に向け、私はためた魔力を開放した。
光り輝く魔法陣とともに、突如出現した突風がミリアの前の道を切り開き、そしてその間を吹き飛ばされる衛兵たちを傍目にミリアは走り抜けていく。
──ごめんなさい衛兵の皆さん、でも私はこんなところで止まるわけにはいかないんです。
私のために戦ってくれている、仲間たちのために⋯⋯!!
衛兵達を突破すると、ミリアの視界には通路の終着点に薄っすらとそびえ立つ大きな扉が映った。
⋯⋯見えた!あそこに、お父様が!
高まる鼓動に合わせ、ミリアは更にスピードを上げた。
だが、
「そ、そんな⋯⋯」
思わず声が出た。
なぜなら目的の扉の前には、大量の衛兵たちが待ち構えていたのだから。
ズラッと何重にも重なりながらも綺麗に整列させられた衛兵たちはまるで巨大な分厚い壁のようだった。
⋯⋯なるほど、そういうことだったんですね。
通りであの時、扉に向かって走っていった私に見向きもしなかったんですね。
おそらく、これはお兄様からのメッセージなんでしょう。
君一人にはこれで十分だって。
「⋯⋯」
きっと、いつもの私だったらここで心が折れていたことでしょう。
ここで膝をついて絶望してたことでしょう。
それにお兄様言ってましたね。
私はグラジオがいないと何もできないって。
ええ、ほんとうに、そのとおりだと思いますよ。
今だって、怖くて怖くて仕方ないんです。
グラジオがいたらその後ろに隠れたくなるくらい不安でいっぱいで⋯⋯!
でも、そんなんじゃだめなんです。
そんなんじゃ⋯⋯いつまでたってもグラジオが安心できないでしょうが!!
短い間でしたが、カインさんたちと旅をして、冒険をして、時には危ない目にも合って、でも最期には笑い合って、私は強くなれた。
その成果を、今見せないでいったいいつ見せるんですか!!
私は杖の柄をギュッと握りしめる。
そちらで見守っていてください、グラジオ。
そして見届けてください。
私の、成長した姿を⋯⋯!
「もう、以前の私じゃ、ないんです!!」
そう言い放ち、私は勢いよく走り出した。
/////
おじょうさ⋯⋯、お嬢さま⋯⋯
暗闇の中で声が聞こえた。
誰かが私を呼んでいる。
「ん⋯⋯」
薄っすらと目を開くとそこには、
「ミリアお嬢様!」
「⋯⋯シオン?」
「そうです、シオンです!」
目尻に涙を貯めながら喜ぶシオンの姿があった。
「あれ、ここは⋯⋯」
私は何をしていたのか、ぼーっとする頭をなんとか回転させて直前の記憶を呼び起こそうとする。
たしか、私⋯⋯
「そうだ、衛兵たちは⋯⋯!」
ハッと思い出して、私は勢いよく体を起こした。
急いであたりを見渡すと、そこには立ち並んでいた衛兵の姿はなく、衛兵たちはもれなく、地に伏すように倒されていた。
⋯⋯これは、シオンがやっつけてくれたのでしょうか。
結局、私一人じゃ何もできなかったんですね。
「すみません。また、助けて頂いて⋯⋯」
落ち込む気持ちを隠せないままシオンに礼を言うと、シオンはぽかんとした表情で首を傾げた。
「何を言ってるんですかお嬢様。ここにいる衛兵は⋯⋯」
「お嬢様がやっつけたんじゃありませんか」
「え、私が⋯⋯?」
まさかの事実に理解が追いつかなかった。
「私が来たときには衛兵はすでに全員倒されていたんですよ」
「それは、ほんとうなのですか⋯⋯?」
「はい、ほんとうです」
あの人数を、ほんとうに私一人で⋯⋯?
未だに信じることができないミリアに対して、シオンはさらに続ける。
「私もびっくりしました。あのお嬢様がここまで強くなられているとは⋯⋯」
「成長されましたね」
「⋯⋯!!」
その言葉を聞いた瞬間、胸のうちからなにかがこみ上げてきているのを感じた。
一番に言って欲しかった人はもういないけど、それでも十分すぎるくらい嬉しかった。
色んな感情が混ざってつい涙が溢れそうになるが、そこはギュッとこらえる。
だってまだカインさんたちは戦っているのだから。
「シオンさん、手を貸してください」
「はい、お嬢様」
シオンの手をとって私は立ち上がる。
泣くのは後からでも遅くありません。
今は、やるべきことをしましょう。
私とシオンはお互いに目を合わせ、扉を開いた。
するとその扉の先に衛兵の姿は一つも無く、あったのは部屋の中央に鎖に繋がれた一人の男性だけだった。
しかし、その一人の男性こそが⋯⋯
「⋯⋯お父様!!」
目的の人物であった。
ミリアとシオンは急いでその者のもとへ駆け寄り、すぐさま鎖を破壊した。
鎖はジャラッ!と部屋に音を響かせながら地面に落ちた。
「⋯⋯ミリアと、シオン。そうか、情けないところを見られてしまったな」
その男の白い髪は薄暗い部屋でも存在感を放ち、妖精族特有の長い耳と綺麗な顔立ちは、薄く入ったほうれい線によってその良さがさらに引き立てられていた。
「お父様、実は⋯⋯」
ミリアは急いで本題に入ろうとしたが、男は、
「よい。全て、わかっている」
そう言いながら静かに立ち上がった。
「⋯⋯私が不甲斐ないばかりに、迷惑をかけた。これでは国王失格だ。
だがこれで、ようやくけりをつけることができる」
男は二人を連れて、部屋を出た。
「さあ、ゆこうか。馬鹿息子の元へ」
その男の名はカリオス・フォンルード。
ザクとミリアの生みの親である。




