第四十三話 決着1
最初に仕掛けたのはザクだった。
パチンと指を鳴らすと共に複数の魔法陣が生成される。
「──死ね」
その掛け声と同時、その魔法陣から魔法が放射された。
キラキラと何色もの輝きを放つ光線がカインとツバキの視界いっぱいに広がる。
「カイン!」
「⋯⋯はい!」
刹那の瞬間。
俺は刀に手をかざした。
ドォォン!!
光の光線が着弾し、大きく土煙が舞い上がった。
「⋯⋯どうやら一筋縄ではいかないようだね」
パラ、パラと次第に視界が開けてきた先にザクは一点光るものを見つけた。
それは細長く、紅の輝きを放っていた。
「ああ、こちとらグラジオに嫌というほど鍛えられたものでね」
もう魔力の残量を気にする必要もない。
遠慮なく使わせてもらう。
皆とダンジョンを攻略して手に入れた鉱石、それでドワーフのカンナに作ってもらった黒刀。
師匠とダインに教わった剣術と、モモとミリアに手伝ってもらった魔法対策。
そしてグラジオから伝授してもらった技、『剣気』。
──これこそが今の俺の全力。
もう、出し惜しみはしない。
その様子を見たツバキは「よし」と言って刀を抜いた。
「さあカイン、反撃開始だ!」
「はい!!」
俺とツバキは息を合わせ、共に駆け出した。
「いいだろう、かかってくるといい!!」
そう言って、ザクは地面に手を接触させると、すると、そこから次々に複数の魔法陣がツバキ達とザクの間に発現した。
光を放つ魔法陣から鋭く尖った岩石が次々に出現し、ツバキとカインの目の前を塞いでいく。
だがそれほどの大きさの岩石が現れても、俺とツバキが足を止めることはない。
一直線にそれに向かって走っていった。
この程度の障害、今の俺達には通じない。
なぜなら、『剣気』に斬れないものはないのだから。
光り輝く黒刀の一振りで本来切れるはずのない岩は両断。
道を塞いでいた岩石は原型を残すことを許されぬまま排除されていく。
現れた瞬間に俺が斬り伏せ、そしてその間にツバキが一気に距離を詰めようとした。
⋯⋯が、ザクはもちろんそれを読んでいた。
踏み込んで加速した瞬間、ツバキの目の前に風の刃が現れた。
ザクは岩の死角になるように魔法を潜ませていたのだ。
放たれていた風の刃はなんとか体勢を変えたツバキの頬を掠める。
パサッと髪の毛が何本か宙に舞うも、ツバキはそれでもすぐに体勢を立て直し直進する。
間合いまであと一歩⋯⋯!
そんな時、ツバキは地面に赤く光る魔法陣があることに気づいた。
「くそっ!」
ツバキはとっさにその場から離れた次の瞬間。
魔法陣から、轟音とともに炎の柱が噴き上がる。
しかし、これで攻撃を終わらせるはずがない。
退避したツバキと入れ替わるように次は俺が接近した。
魔法師との戦闘における定石は相手に展開させる隙を与えないこと。
だがこれが通用するのは並の魔導師だけだ。
間髪入れずに攻め続けても、ザクの魔法はそれを上回る速度で展開される。
俺がツバキの背後から飛び出したときにはすでに複数の魔法がこちらに向かってきていた。
斬り落とすことはできてもその物量に押し負ける。
怒涛の高威力魔法の連続発動。
普通はどこかで魔力切れを起こすものだろう。
それなのにこれほど連発させているのにザクの魔力が一向に減っている気がしない。
「少しは、休めよ⋯⋯」
刀を盾に被弾は防いだがその衝撃に下がざるを得なかった。
しかもザクの場合、こちらが攻めあぐねるとザクはその間にも魔法を展開させてくる。
これじゃあ、立場が逆だ。
「さっきまでの威勢はどうしたんだい?まさかもう終わりなのかい?」
「⋯⋯まじかよ」
余裕のザクの表情を見て思わず声が出た。
時間稼ぎと言ってもこのままだと長くは持ちそうにない。
どうにかして、流れを変えなくては⋯⋯
「カイン」
俺は名前を呼ばれたので師匠の方を向いた。
「私に、任せてくれないか」
「それってどういう」
「私の一族には初代から伝わる技がある。それを使えばこの状況も変わるだろう」
「師匠の一族って、異世界から来たっていう⋯⋯」
「ああ、そうだ。その技は異世界人にしか使えないらしいが、生憎私には少し血が流れているからな。不完全ながらも使えるんだ」
その技がどんな技かも不明だが、師匠がそう言うなら従うしかない。
「わかりました。それで作戦はどうするんですか」
「なに、私がやつの隙をつくるからそこをカインが仕留めてくれ」
「え、ちょっと師匠⋯⋯!」
こちらの静止を聞かず、一人ザクのもとへツバキは走り出した。
「君の師匠は学ばないのかい?何度来たって同じなのに」
それを見たザクはもちろんすぐに魔法を展開する。
だがそんな余裕綽々のザクをちらりと見てツバキはフッと笑った。
「今に見てな」
そう自分にしか聞こえない声量で呟くとツバキはぐっと刀の柄を握りしめ、ふぅと息を吐く。
『我、異世界より来たれり』
それは詠唱だったのだろうか。
そうツバキが唱えた瞬間、うっすらとツバキの引き締まった美しい肉体から燃え盛る紅の炎のような得体のしれない何かが浮かび上がってきた。
「⋯⋯!」
本能でそれを危険と判断したザクは待機させていた魔法をすべて放射した。
だが──
ツバキの姿がふっと掻き消えた。
瞬間、揺れる魔法の軌跡と、淡い光の残滓だけが宙を舞っていた。
そして、気づいたときには、すでにザクの背後にツバキが立っていた。
「なっ──」
ザクが振り返るよりも先に、刀が振り下ろされる。
直後、ザクの体は弾かれるように吹き飛び、遠く後方の壁へ叩きつけられた。
「ガハッ」
鈍い衝撃音とともに壁が揺れる。
ザクの身体が跳ね返るように叩きつけられ、そして、膝を着いた。
額からはポタポタと赤い液体が滴っていた。
⋯⋯ようやくだ。
ようやくザクにダメージを与えることができた。
これまで触れることすら叶わなかったのに。
まさか、本当にこの一瞬で状況を変えるとは、さすが俺の師匠だ。
「⋯⋯」
そんなことを考えていたらパラパラと瓦礫が舞う中、ザクは何事もなかったかのようにゆっくりとそのまま立ち上がった。
「どうやら、見くびっていたようだ⋯⋯」
ザクは気づいたようだ。
今のツバキには全力を持って相手しないといけないということに。
パチンッと指を鳴らすと今までの二倍近くの量の魔法が一瞬にして現れた。
やはり今までのは余力を残していたようだ。
ツバキが駆け出すのと同時に魔法は放たれる。
ものすごい応戦だった。
数秒にも満たないうちにツバキによって何十もの魔法が切り消されるが、それに合わせてそれ以上の魔法がザクの手によって展開される。
もはや俺の入る隙はない。
だが、それでいい。
俺は蚊帳の外でいい。
俺はただ最高一撃をぶちかませるその瞬間が来るのを最善の準備をして待つだけなのだから。
黙って二人の様子を見ていると最初は優位に立っていたツバキは徐々に押され始めてきていた。
ツバキが不完全と言ったのは長くは続かないということだったのだろう。
身体を包む炎のようなものも徐々に薄れ小さくなっている。
それにはもちろんザクも気づいていた。
「これで、終わりだ」
ザクは確実にトドメを刺すため、魔法を更に展開。
ツバキの周りを囲むようにして魔法陣が立ち並んだ。
あれだと、さすがのツバキも避けられないだろう。
ザクが容赦なく一斉放射しようとした次の瞬間、俺は地面を強く蹴り出した。
そう、ザクは確実に殺るために上限近い数の魔法を発動させるはず。
今しかない⋯⋯!
俺は大きく振りかぶった。
「──そうは、させないよ」
こちらに視線だけを移したザクはその台詞の通り俺とザクの間に魔法陣を出現させた。
「まだ残していたのか⋯⋯!」
俺は少しずつ光が増していく魔法陣をじっと見つめることしかできなかった。
すると、ヒュンッと風を切る音が聞こえたと思えばその魔法陣に一本の刀が突き刺さった。
師匠のものだった。
それを見て俺はフッと笑って、そして叫んだ。
「くらえええ!!」
パリンッと砕け散った魔法陣とともに俺はザクへと踏み込む。
今度こそ防がせはしない。剣気を纏わせた刀を、勢いそのままに振り下ろす。
刃が叩きつけられた瞬間、肉と骨が裂ける手応えと共に、ザクの左肩から脇腹にかけて深々と斬り裂かれた。
そして、それに呼応するかのように、ツバキを囲っていた魔法陣も砕けるように霧散した。
「まだっ⋯⋯」
俺はそのまま第二撃を繰り出そうとしたが、それはザクの残った右腕から放たれた魔法で吹き飛ばされたことでそれは叶わなかった。
「くっ」
ザクは血が溢れ出る左肩に右手を当て炎魔法で傷口を止血した。
そしてふうと息を吐くとザクはいつもどおりの表情に戻った。
「くそっ⋯⋯」
師匠は技の反動かガハッと血反吐を吐いていてもう立っているのも限界そう。
俺はこれまでのダメージが募ってもう手足が動かない。
カツ、カツと近づいてくるザクの足音が聞こえる。
⋯⋯ここまで、か。
『死』、その考えがよぎった瞬間、声が聞こえた。
「よくぞ、持ちこたえてくれた」
「⋯⋯えっ」
突如、俺とザクの間に巨大な炎の壁が出現した。
一体これは⋯⋯
俺は何が起こったのかも理解できていなかった。
そんな時、どこからか俺を呼ぶ声がした。
「カインさーん!!」
「⋯⋯その声ってまさか」
聞き間違えるはずもない。
声がしたほうを見ると2つの影があった。
一つは見知らぬ男の影。
もう一つは俺たちの勝利を告げる者の影だった。
間隔空いてしまって申し訳なく思っております。




