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第三十八話 再会

「⋯⋯はは、まじかよ」

 俺たちの前に現れた男の正体に思わず、笑ってしまった。

 一年ぶりくらいだろうか。

 まさかこんなところでとは考えもしなかった。


 きれいな濃い赤髪に腰にはいつも素振りに使っていた剣。

 服の間から見えるしなやかについた筋肉はいつ見てもかっこいい。

 そして、その無邪気な笑みも一年前と少しも変わっていない。


 でも⋯⋯


「さすが、俺の父さんだ」

 これほど来てくれて頼もしい人は他にいないだろう。

 数的不利なことには変わりないけど、それでも戦況が一変する。


「⋯⋯おい、なにか勘違いしてるようだが、俺だけじゃねえぞ」

「⋯⋯え?」

 辺りを確認してもダイン以外にそれらしき人影は見当たらない。

 首をかしげる俺を前にしてダインは後ろを振り返り、「そう恥ずかしがるなって」と無理やり自分の後ろに隠れていた少女を前に出す。


「まさか⋯⋯」


 一瞬誰だかわからなかったがすぐにその正体に気づいた。

 茶色の髪に褐色の肌。

 そして口元を隠すように巻かれた赤いマフラー。

 それは紛れもない、俺がただ一人の少女だけにプレゼントしたものだ。


「もしかして、ベル、なのか⋯⋯」

 驚きを隠せない俺に対して、少女は風でマフラーが飛ばないように手で抑えながら返事を返す。


「⋯⋯うん、ひさしぶり」


 そう微笑みながら言ったベルの姿は一瞬で俺の目を離せなくした。

 たった一年会わなかっただけなのに、今目の前にいるのは本当にベルなのかと疑ってしまうくらい、そのくらい彼女は魅力的になっていた。


 もちろん、別に一年前が魅力的じゃなかったと言いたいわけじゃない。

 俺からしたらその時ですら十分心惹かれるものがあったのに、身長も伸び、胸も⋯⋯その⋯⋯大きくなって、磨きがかかったとでも言うべきなのか。

 以前のような子供っぽさは微塵もなく、今はもう大人びた印象を受けた。


「おう、ひさし⋯⋯ぶり」

 つい、視線を逸らしてしまった。

 どうしてもベルの目を直視できない。

 少し前まで平気だったのに⋯⋯


 あたふたとする俺をみて、ダインはハアとため息をつく。

「おいカイン、目的を忘れるな」


 ダインのその言葉に俺はハッとする。

 まったく、ダインの言う通りだ。

 大事な場面で何考えてるんだよ俺。

 今はそれよりもザク達のことに集中だろ。

 パシッと頬を強く叩き、切り替えるように自分に促す。


「すみません、もう大丈夫です」

 その様子を見たダインは「よし」と言ってザク達の方を見る。


「それで、俺達は何をすればいい?」

 それをきいて俺とミリアはお互いの顔を見て頷き、ミリアが一歩前に出る。


「私がお父様のもとに行くまで守っていただけないでしょうか」

 胸に手を当て、威勢よく前に出てきた少女の眼差しを見て満足そうな笑みを浮かべる。


「ああ、それは了解だが、そのお父様はどこにいるんだ?」

「それは、あちらです」

 そう言ってミリアはザクや衛兵たちを越えた更に向こう側を指差した。


「この長く続く廊下の一番奥、閉ざされた扉の先にお父様はいます」

「なるほどな、ということはまずあいつらを突破しなきゃいけないわけだな」

 まるで絶対に通さないとでも言わんばかりに道を封鎖する衛兵の数を見て、ダインは「これは骨が折れそうだ」とつぶやきながらもすぐさま武器に手をかける。


「⋯⋯おや、お話はもういいのかい?」

 俺たちの様子を傍観していたザクは気だるそうにあくびをする。


「いいのか?そんなに油断してて」

「⋯⋯なに、安心しなよ」

 そう言ってザクはゆっくりと手を上げる。


「僕は一秒たりとて⋯⋯

 ──油断なんかしてないさ」

 いつもと変わらぬ表情でザクはその手を振り下ろす。


 それは仲間への指示でもあって開戦の合図でもあった。


『うおおおおお!!』

 振り下ろされた瞬間、それに呼応するように衛兵たちが一斉にこちらへと押し寄せてきた。


「これは、なかなかの数だな⋯⋯」

 一人ひとりは脅威ではないとしてもその圧倒的物量に、俺は一歩、後ずさりしてしまう。

 が、それとは逆に前に出る二人の姿があった。


「先陣は俺たちに任せな。

 さあベル、カインにいいところ見せるぞ!」

 ベルもそれに「うん」と返事をしてダインと並ぶようにして立って見せる。


 一年前は一人じゃ行動できなかったベルが今ではこんなにも自身に満ち溢れた顔をしている。

 俺と会わなかった間にベルがどれだけ成長しているのか、もはや想像もつかない。



「それじゃあ──いきます」

 ベルは静かに目を閉じ、拳を強く握りしめた。

 すると身体からバチ、バチと稲妻のようなものが身体を駆け巡りはじめた。

 その光が徐々に強まっていくと、首元ぐらいまでしかなかった髪は突如、背中に届くほど伸び、腕や足は獣そのもののような形に。

 そしてベルの瞳はきれいな金色(こんじき)へと変化していった。


「それってまさか⋯⋯」

 その姿に近いものをベルと出会って間もない頃に俺は一度見たことがある。

 以前は動物の要素が身体全体に強く出て、その力を抑えきれず暴走してしまっていたが今はそのような様子は見られない。


「そうさ、お前がいない間、ベルは一秒でも早くお前に会いに行くために死にものぐるいで特訓したんだ。その成果が⋯⋯」


「『半獣化』の完全制御だ」

 ダインは自分のことのように自慢気に満面のドヤ顔で言った。


「まじ、かよ⋯⋯」

 たった一年、まさかこれほどの成長をしているとは。


『半獣化』といえば、それは獣人だけが扱える最強のバフ。

 ただでさえ身体能力が人族と比べて何倍もあるのに、それがさらに強化されるのだからその効果は絶大だ。


 ベルは地面を強く蹴り出すと、光の残像を残したと思えば目にも留まらぬ速さで敵陣へ突撃していった。


「これは、負けちゃいられないな」

 それを見届けたダインも鞘から静かに剣を抜いた。


「いやー、にしてもようやくできるぜ、仕返しが」

 カツ、カツと歩き出したダインは迫りくる衛兵との距離をさらに縮めていく。


「俺の仲間を傷つけといて⋯⋯ただで済むと思ってんじゃねえよな、お前ら」

 一瞬にしてダインの周りの空気が重くなった。

 その圧は俺のところまで届いてしまうほどに。


「っ⋯⋯!」

 はじめてみた。

 こんなにも怒る父を。


 でも、その思いに俺たちが負けるわけにはいかない。


「さあ、俺たちも行こう」

 二人が戦場を荒らしてくれたおかげで、衛兵で完璧に防がられていた道にも綻びができた。


「はい!」

 俺とミリアも武器を構えて、走り出す。


 ──さあ、戦闘開始だ。

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