第三十一話 決戦前日
目が覚めた。
小鳥のさえずりが聞こえ、カーテンを開き、眩しい朝日を浴びる。
いつもよりだいぶ早く起きてしまったようだ。
ベッドから起きて階段を降りると、リビングにはモモとツバキ、そしてミリアがいた。
「皆さん、もう起きてるんですね」
「なんだか目が覚めちゃって」
どうやら皆同じだったようだ。
明日のことを考えると今からでも緊張してしまっている。
「グラジオさんは?」
「グラジオは今、庭で素振りをしてますよ」
そう言われて庭の方に様子を見に行くと、ブンッ、ブンッと風を切る音が聞こえた。
それはグラジオが大剣で素振りをしているときの音だった。
「おや、カインさん。おはようございます」
人の気配に気づいて、素振りを中断したグラジオはいつもどおりのグラジオだった。
「おはようございますグラジオさん」
軽い挨拶を交わすがそれ以降会話がうまく続かない。
昨日、あれから結局、他に良い案がでなかったため二人が囮になる作戦で決まってしまった。
この作戦はグラジオの負担が明らかに大きいんだ。
ザクは目的であるミリアを全力で殺しに来るはず。
それをほぼグラジオ一人で、俺たちが任務完了するまで防がなくてはいけない。
二人を危ない目に合わせたくない。
その思いが故にその作戦に最後まで同意することができなかった。
「⋯⋯」
「カインさん、ありがとうございます」
沈黙の空気を破るようにして言われた突然の感謝の言葉。
それだけで、少しだけあった気まずい雰囲気が消え去った。
「⋯⋯明日、絶対無事でいてくださいね」
「もちろんです」
決行は明日。
いつまでも駄々をこねるわけにはいかないからな。
そろそろちゃんと覚悟を決めないと。
「もう大丈夫そうだね」
その声の主の方を見ると、そこにはツバキが立っていた。
「⋯⋯はい、お待たせしました」
俺の表情を見て、納得したのかツバキは優しく「うん」と頷いた。
「よしそれじゃ、みんなで作戦の復習をしようか」
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昼下がり、ツバキに呼ばれてリビングに行くと、テーブルには全員が揃っていた。
「みんな集まったようだし、これから作戦を順を追って説明するね」
今回もシオンが代表して進行していくようだ。
「私達はまず二手に分かれて行動します。
一つは、前回も言ったグラジオとミリア、そしていざというときのためにツバキを後につけさせます。
もう一つは私、シオンとモモ、カインの三人でグラジオたちが時間を稼ぎつつ、衛兵の注意を引きつけている間にミリア様のご兄妹を救出します。
ここまでは大丈夫よね?」
シオンの確認に皆それぞれの同意の返事を返す。
「救出に成功したら私が空に魔法で合図をだします。
それを見たら、ミリアさんとグラジオさんは国王のもとに。
ツバキさんは敵の足止めを。
私はご兄弟を保護しますのでカインさんとモモさんは急いでツバキさんのもとに向かってください」
そして続くように言った「誰一人として失敗は許されませんからね」というシオンの言葉がこの作戦の一つ一つがどれほど重要か再認識させる。
だが、そういった覚悟は既にできているさ。
絶対、誰一人として欠けさせることなく、無事終わらせてみせる。
そう俺は心に強く誓う。
「必ず成功させましょう」
「おう!」
こうして作戦会議は終了し、今日一日の残った時間は各々自分にとって必要な準備を進めることで決定した。
ツバキは部屋で正座をして精神統一をし、モモとミリアは道具の手入れ、グラジオは技の確認、シオンはまた偵察に出かけることにしたそうだ。
俺も師匠を見習って、隣で同じように瞑想をした。
一時間、また一時間と時間がいつもより早く感じた。
気づけば夕日が沈み、あたりは暗くなってしまっていた。
夜、それぞれの部屋に行く前に、今日最後のあいさつを交わす。
『それじゃあ、また明日』
緊張が混ざりながら放たれたその言葉はいつも聞いているはずなのに全くの別物になっていた。
できるなら明日なんて来ないでほしい。
そう思うことが何度もあった。
今だってそう思っている。
でも時間は必ず進むもの。
ベッドに入り、目をつむっている間に上った月が沈み、新たに太陽の光が大地に差し込み始める。
「⋯⋯よし」
決戦の日がやってきた。




