第二十三話 ギャンブル
『ルーレット』
それは回転する円盤に球を投げ入れ落ちるマスを当てるゲームだ。
それらのマスには0から36までの数字が0を除く偶数が黒色、奇数が赤色、0だけは緑色になって配置されている。
掛け方は様々あるが俺たちがやる方法はその中でも明快単純。
色を当てるのみ。
モモ大先生が胸を張っておすすめしたこのやり方は、赤か黒、どちらに落ちるかを予想するんだ。
0に落ちたら勝ち目がないが、37個中1つしかないマスに落ちることは滅多にない。
だから勝率はほぼ二分の一。
そして倍率は二倍。
「ちなみに掛け金はいくらにします?」
「それはもちろん」
一呼吸置いてモモが提示した金額は
「⋯⋯金貨三〇〇枚で」
さすがモモだ。ギャンブルで大金を使うことに一切のためらいがない。
一体いくら使ってきたらこうなるのだろうか。
「更に!万が一の保険として、一人金貨二十枚を好きな数字に掛けましょう! これで合計四〇〇枚です!」
「⋯⋯え?」
どうやら俺たちはモモを見くびっていたらしい。
モモは単なるギャンブル中毒ではなく、身を滅ぼすタイプのギャンカスだったみたいだ。
もしすべて外したら資金が底をつく。
そのヤバさを普通の俺たちならちゃんとわかって止めていただろう。
だがギャンブルを目の前にすると人は、勝って大金を手に入れた自分をイメージする。
もし今辞めたらそれを味わえるチャンスを逃すかもしれない。
そう考えた瞬間、やめられなくなるんだ。
「わかりました、それでいきましょう。
では最後、いちばん重要な色は⋯⋯どうしますか?」
グラジオにすぐに返事を返せる人はいない。
それもそのはず、簡単に言えば色を決めた人が全責任を追うようなもの。
それには中々の勇気が必要だ。
「⋯⋯黒でいきましょう」
俺の突然の発言にみんながこちらを見る。
しかしこれは誰かは追わなきゃいけない責任。
ここは一番払わなきゃいけない金額が大きい俺が背負うべきだ。
「みんな良いかな?」
「もちろん」
「カインさんに託します」
「もちろんです」
「え?え?」
ギャンブルとは程遠い生活を送ってきたミリア以外同意を得られたようだ。
「よし、絶対勝つぞ!!」
「おお!!」
掛け声とともに金貨三〇〇枚をテーブルに書かれたBlackに、そして各々自分が信じる数字に金貨二十枚を置く。
もうこれで俺たちは引き返せない所まで来た。
後は、当てるのみ!
「それでは失礼します」
ディーラーが手に持っていた球をルーレットの縁に沿わせるように密着させ、素早く転がした。
一周、二周と回り続け、徐々に地球の重力に引っ張られ、マスの方へと落ちていく。
「たのむ!」
みんな両手を強く握り締めながら掲げる。
コロンと、マスとマスの仕切りにあたり、マスの上で飛び跳ねる。
コロンコロンと何度か跳ねたあと、カコンとひとつのマスに収まった。
「色は⋯⋯」
そのマスに書かれた色は黒でも、そして赤でもなかった。
『0』
唯一の緑色の数字。
「そんな⋯⋯」
ギャンカスたちは膝から崩れ落ち、地に伏した。
終わった⋯⋯
俺たちのこれまでの働きが全て無に帰してしまった。
これだからギャンブルは⋯⋯
「あ、当たりました」
「えっ?」
その声の方を見ると、「やったー!」とぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶミリアの姿。
テーブルをみると、0に二十枚の金貨がぽつんと置かれていた置かれていた。
「これ、ミリアの⋯⋯?」
「あ、はい。一つだけ色が違ったのでなんとなく⋯⋯」
ビギナーズラック。
これに敵う者はいない。
そう思った一瞬だった。
空いた口が中々ふさがらなかった。
「ちなみに倍率は⋯⋯」
表を確認するとそこには三十六の数字。
三十六倍といったら、そこに金貨二十枚がかけられると、
「七百枚越え⋯⋯?」
まさかの予定より百枚多い三〇〇枚勝ち。
「大勝ちだ⋯⋯」
ハハッと笑いがもはや漏れてくる。
試合には勝ったが、勝負に負けたせいですぐには素直に喜びが出てこなかった。
散々はしゃいでいた自分が恥ずかしい。
「⋯⋯」
俺たち何をやっていたんだろう。
少し落ち着いて頭が正常に戻ってきた。
ギャンブルは人を変えちまう。
皆はギャンブルにハマりすぎないようにな。
こうして俺たちのギャンブルは、初心者ミリアの大勝利で終わった。




