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第十九話 攻略完了

二部構成にすればよかった

 俺たちはこのダンジョンの最深部と思われる場所のすぐ手前に到着した。

 ここからはいわゆるボス戦。

 今までのモンスターとは比較にならない強さの敵が待っていることだろう。


 適度な緊張が体を震わす。



「それじゃあ、準備は良いね」

「⋯⋯はい」

 先導するツバキに合図をおくる。

 初めてのボス戦で不安がないと言ったら嘘になる。

 だが、このダンジョンを通して、今の俺にはこんなにも心強い仲間がいるんだって再確認することができた。


「ふぅ⋯⋯」

 少し荒ぶる呼吸を落ち着けるため、大きく息を吐いた。

 ⋯⋯よし、大丈夫だ。

 武器を握りしめ、ツバキを先頭に最深部の部屋に入る。


「これは⋯⋯」

 辺りを見渡すと今までの洞窟のような場所と違い、ここだけが広い空間になっていた。

 Theボス部屋という雰囲気だ。


 しかし、肝心の(ぬし)とやらの姿が見えない。


「一体、どこに──」


「カイン気をつけろ!」

 ツバキの叫び声が耳に届くと同時に、体が反射的に動く。瞬時に回避行動をとると、直後に地面が激しく揺れ、轟音とともに多量の土埃が舞い上がった。


「なっ!」

 何とか受身をとって体勢を整える。息を切らしながら、さっきまで立っていた場所に視線を戻すと、そこには無数の透明な糸の束が突き刺さり、地面を抉り取っていた。


「カインさん、大丈夫ですか!」

「はい、なんとか。それより⋯⋯」


 天井を見上げると、そこには口からキラキラと輝く糸を垂らし、鋭い顎をバチンバチンとぶつける不気味な生物、巨大な蜘蛛型のモンスターがいた。


 そのモンスターは、自分の居場所がバレたことを悟ると、八本の足を一気に天井から離し、宙を一回転してから地面に着地する。


 『シャーーー!!!』


 モンスターの強烈な威嚇が全体に響き渡る。全身に鳥肌が立つ。


 人の身長を優に超えるであろう巨体。体高だけでも三メートル近くはあるだろうか。


 そして、あの巨大な顎。

 挟まれたら、ひとたまりもないだろうな⋯⋯

 想像するだけで、その恐ろしさに全身が震え、鳥肌が立つ。。


「これがこのダンジョンのボスモンスター⋯⋯」

 一気に緊張が走る。


「いくよ!」

「──はい!」

 ツバキが鋭い声で号令をかけ、俺もその声に応じて飛び出す。


 瞬間、それに呼応するかのようにモンスターも勢いよく飛び出してきた。


「なっ、避けろ!!」

 ツバキの指示が響き、俺たちは咄嗟に左右へ飛び散るように回避する。



「グラジオさん!」

 俺たちの間をすり抜けたモンスターが、後衛の三人に向かって突進していく。


「大丈夫です。任せてください」

 二人の前で盾を構え、踏みしめるグラジオ。


 モンスターはそのまま、凄まじい勢いでグラジオに突撃する──


「ふんッ!」

 ゴーーーン!! と、地響きのような轟音が響く。圧倒的な巨体が、グラジオの盾にぶつかるが、彼は一歩も退かず、その場で完全に止めてみせた。


「バケモンかよ⋯⋯!」

 ツバキがこう漏らしてしまう気持ちもわからなくはない。端から見れば、化け物VS化け物だ。

 だが、おかげで動かぬ巨体に、全力で剣を振り下ろすチャンスができた。


「くらえ!」

 渾身の一撃を叩き込む。確かにその巨大な体に直撃した──はずだった。


 しかし、響いたのは『カーーン!!!』という甲高い音。俺の剣は、まるで岩にぶつかったかのように弾き返されてしまった。


「なっ、硬すぎる⋯⋯!」

 異常な魔力が渦巻く環境で成長したこのモンスターの外骨格は、まるで鋼鉄のように硬く、俺の力では傷一つ付けることすらできない。


 一撃を弾かれ、体勢を崩した俺を見逃すはずがない。モンスターは標準を俺に合わせると、再び突進してきた。


「やばっ!」

 空中だと体勢をうまく戻すことができない。

 このままだと、直撃する⋯⋯!


「カイン!!」

 ツバキはその状況を見逃さず、即座に跳躍すると、カインを抱き上げ、なんとかその攻撃を回避した。


「あ、ありがとうございます」

「ああ気にするな。そんなことより、だ」

 ツバキは俺を抱えたまま地面に着地し、投げ捨てるように俺を下ろす。


「あの機動力を封じなきゃ、だな」

「そうですね⋯⋯」

 確かに、あの巨体で動き回られてはこちらの攻撃も十分に狙いを済ますことができない。


「狙うならやはり、『足』ですね」


 主モンスターの体全体は外骨格に覆われていて、下手に攻撃しても弾かれてしまう。

 しかし、足には可動域を確保するために隙間があり、そこだけは外骨格に守られていない部分がある。

 そこなら俺の斬撃も通るはず。


「そのとおり! それじゃあもう一回仕掛けるよ!」

「はい!」


 ツバキのタイミングに合わせて再び一斉に飛び出すと、接近してくる俺たちを確認した主モンスターは次にその大きな顎を開いた。

 それに気づいたツバキが急いで指示をだす。


「飛び道具!」

 その言葉の通り、蜘蛛の口からは無数の糸が弾幕のように放たれた。

 なんとか左右に避けながら距離を縮めようとするが、数があまりに多すぎる。


 避けきれない糸に対して、ツバキはそれを切り落とそうとするが、

「やば、ネバネバして切れない!」

 ツバキの刀にネチョっとくっつく白い糸。その粘着力はいくら振ってもびくともしなかった。


 俺に対しては、

「くっ、硬い⋯⋯」

 剣で弾くたびにキンキンと金属音が響く。ツバキに放たれた糸とは違い、こちらの糸はさっき地面をえぐったものと同じ、鋼鉄並みの硬さを持つ銀色の糸。


 弾幕の中に二種類の糸が混ぜられていて防御で手一杯だ。

 だからといって無理して近づこうとすれば俺たちが一方的に蜂の巣にされる。


「くっそ、近づけさせてくれない」

 このままじゃ、攻めるどころの話じゃない。


 一体どうすれば⋯⋯


「任せてください!!」

 その声に気づき、ばっと振り向くと、杖をかざすモモと両手を前に出して魔力を貯めているミリアの姿があった。


「こういう系は炎に弱いのがお決まりなんですよ!」

 足元の魔法が輝き出すと同時にモモが杖を振り下ろすと二人の背後に無数の火の玉が生成された。

 それも、広い壁一面を覆い尽くすほどの数が。


「弾幕には弾幕です!」

「いきます! 『上級魔法 フレイムバレット』!!」

 2人の声が重なって放たれた魔法は中級のさらに上、上級魔法。

 俺ですらまだ扱うことのできない、優れた魔術師にしか使えない高威力魔法。


「すげえ⋯⋯」


 詠唱にあわせて、背後に現れていたいくつもの火の玉がボスモンスターに向かって発射されていく。

 糸と火の球がぶつかることで発生する破裂音と共に、次々に白い弾幕は赤い弾幕に侵食されていった。


「よし、これなら⋯⋯!」

「キシャーーー!!」

 その瞬間、火の球がモンスターに直撃した。そのひるんだ隙を見逃さず、俺とツバキは一気に距離を詰める。


 そして、

「はああああ!」

 俺たち二人が放った狙いすました一撃が、モンスターの前足を切断した。

 支えを失ったモンスターの体は崩れ落ち、大きな顎を持つ頭部も無力なまま地面に叩きつけられる。


「それでは、トドメは私が」

 ミリアとモモを守っていたグラジオが、いつのまにか俺とツバキの後に続いていた。


 でも、あのモンスターはあの硬い外骨格に包まれている。

 ただの斬撃じゃ、さすがのグラジオさんでも難しいんじゃ⋯⋯


 俺の心配はお見通しだったのか、グラジオは俺に向かって爽やかな笑みを浮かべた。


「そんなカインさんにひとつ技を見せましょう」

 グラジオは剣に手をかざす。

 すると、そのかざした部分から刀身が緑色のオーラに包まれていく。


「これは『剣気』と言って、剣に魔力を纏わせる技なんですが⋯⋯」


 そう言って一振。


「シンプルイズベスト。最強の技と言っても過言ではありません」

 十二分の魔力濃度で異常に硬く育っているはずのボスモンスターの外骨格は俺の斬撃を弾いたとは思えないほどに、いとも簡単にそれも綺麗に⋯⋯


 ──両断されてしまった。


「まじかよ⋯⋯」

 グラジオと俺の実力の差を痛感した。

 俺が苦戦したあのモンスターを、彼は一撃で仕留めてしまった。

 たとえ足がない状態だとしても、俺には到底倒せなかった相手だ。


 グラジオ、それにツバキの本気は一体どれほどなのか。

 今の戦いでもこの二人だけは俺らに合わせて戦ってくれていた感じがした。

 一体、二人はどれだけの力を秘めているのか。

 ⋯⋯想像すらつかない。


 すこしでも勝てるなんて思った以前の俺を殴ってやりたいな。

 天を仰ぐように大の字で地面に寝転がる。


 ま、でも今はとりあえず⋯⋯


「これで、攻略完了です」


 この喜びを噛み締めよう。


 /////


 戦闘が終わり、俺たちは少しの休憩を挟んだ後。

 冒険者恒例の素材採取が始まった。


 蜘蛛の魔獣の死骸を割くと中から紫色の血液が溢れ出てくる。

 毎回この作業が嫌なんだ。

 手にその液体が付着するたび、吐き気がしてくる。


 モモとミリアは早々にリタイアし、当初の目的であった魔力効率の高い金属を含む鉱石『タイト』を採取をしている。

『タイト』は戦いの場となった広い空間に点々と生えており、見つける度に掘るといったように行っている。

 そちらは二人に任せるとして。


「よし、それじゃあ⋯⋯」

 ぶすっと死体の中に手を突っ込む。

 変な感触が手全体を覆っていて既に抜きたい⋯⋯

 急いで手探りで探していると硬い物体があったので思い切り引き抜いてみる。


 ズボっ⋯⋯

 生々しい音と共にそれは引き抜かれた。


「お、なかなかの大きさじゃん」

 俺が引き抜いた物体は、ツバキはまるで普通のように言うが、俺からしたら過去に見たことがないくらいに大きい魔核だった。

 モモの杖にはめられているものと同じくらいだろうか。

 拳大くらいはあるだろう。


 今までに倒した魔物からは絶対取れないサイズ。

 このダンジョンを攻略したんだと改めて実感する。


 ──今に思えば、離れ離れになったときは一時はどうなることかと思ったけど、結果的にはすごく成長できた時間だったな。


「こっちも終わったみたいですね」

 そんな余韻に浸っていたら、グラジオがこちらに向かってゆっくり歩いて来た。


「二人も既に終わったようですし⋯⋯」

 グラジオが見ている方を見るとバックいっぱいの鉱石を持ったミリアとモモの姿。

 顔に土がついているのにも気づいてない様子だ。


「ダンジョンは帰るまでがダンジョンですからね」

「はい」


 素材が詰まった袋を背負って俺たちは、ボス部屋を後にするため、来た道を戻ろうとしたときだった。


「ん?あれは⋯⋯」

 入口付近に生えているタイトの中に一つだけ、他とは明らかに違うものがあった。

 近寄ってみるとそれはタイトの橙色とは違って透明な比較的小さい鉱石だった。


「これって⋯⋯」

「お!『ミスリル』じゃん。カインよく見つけたね」


 後ろから、師匠がこの鉱物の正体を言う。

 ミスリルって、たまに小説とかで聞くやつじゃないか。

 まさかこの世界でも同じ様な物あるとは。

 いや、ドラゴンがいるならいてもおかしくないか。


「カインさんすごいじゃないですか!」

 ツバキに続いてグラジオも駆け足でこちらに向かってきた。


「これは鉱石の突然変異でできるものなので滅多に見つけることができないんです」

 グラジオいわく、手の平に収まる程度しか生えていなかったが、それでも十分珍しいものらしい。


「ミスリルは異常なまでに硬く、武器に使えば折れることがないことで有名なんです」

「それならグラジオさんが使ってみてはどうですか」

「いえ、私は今使っている武器が気に入っているので、ぜひカインさんが使ってあげてください」


 武器の損耗が激しいグラジオにぴったりだと思ったのだが、すんなりと断られてしまった。


「ツバキさんもそれでいいでしょうか?」

「ああ、もちろん。こういうのは見つけたやつのもんだからな」


 まあ、グラジオと師匠がそう言ってくれるなら、ありがたく使わせてもらおう。

 こうして、想定以上の収穫を得て、俺たちは今度こそボス部屋を後にした。


 ///


 来た道を戻るように歩いて数時間。

 通路の先にまばゆい光が見えた。


「外だーー!」

 最初にこのダンジョンに入った入口から、俺たちは大量の荷物を持って倒れこむように外に出た。


 入ったときの倍以上の荷物量のせいと、ただでさえ疲労が溜まっているのもあいまって、帰りは俺とミリアはもうぶっ倒れる寸前だった。


 道中の魔獣と主の素材に当初の目的の『タイト』。

 そして、たまたま見つけた『ミスリル』


 ミスリルは良いとして、まだ七歳のガキにこんな重いものを大量に持たせてはいけないと思う。

 まあ、俺達の倍以上持っている他の三人にそんなこと言えるわけないけどね⋯⋯


「一刻も早く宿に戻りましょう」

「賛成です」

 うつ伏せに倒れている俺とミリアを見て、爆笑する三人。


 すると師匠が何やら荷物からゴソゴソとものを取り出す。


「そういえば、カイン。忘れ物だ」

 そういってひょいと師匠が投げたものを受け取る。

 確認するとそこには赤色の甲羅のようなものが。


「これってーーあの時の変異種の!」

 それは調子に乗った俺を成敗した変異種のキラーアントのものだった。


「変異種の素材は武器や防具にするには最高級だ。戒めの意味も込めて使ってあげるんだな」

 ツバキはケラケラ笑っているが、正直、自分としてはなんとも複雑な気持ちだ。


「わかりましたよ⋯⋯」

 その反応を見てくすくすとミリアが笑う。

 その様子を見て、ふと俺もつられて笑ってしまった。


「さ、いきましょうか」

「はい!」


 こうして、俺たちは無事五人揃ってニースに戻るのであった。

ここまで御覧いただきありがとうございます。

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次話もぜひ読んでください。

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