エピローグ
「⋯⋯」
目が、霞む。
視界がぼやけて、何も考えられない。
揺れる頭を支えようとして、腕を上げた。
──ああ。
手首から先が、細かな灰となって風に消えていた。
視線を落せば、下半身はすでに無くなっていた。
痛みは感じなかった。
⋯⋯そうか。俺、死ぬんだな。
タイムリミットが刻々と迫っているのが、はっきりと分かった。
両断された雲の隙間から見える、青い空。太陽の光。
前世に比べて、遥かに良い最期だな。
なんせ、前世はトラックのフロントが俺の最期にみた景色だったからな。
⋯⋯で、どうだった? 俺。今回の人生は。
それはもちろん。
やり残したことだらけだ。
特に、ミリアが使ってた、あの超級魔法。
なにあれ、かっこよすぎだろ。
俺が目指してたのは、まさにああいうのだったのに。
なんでこんな最後で使ってくるかな。
もう試せないじゃないか。
ほんと、やり残したことだらけだよ。
「⋯⋯もっと、生きたかったな」
そして、みんなと、もっと一緒にいたかった。
せめて最期くらい、みんなに──
「カインさんっ!」
「⋯⋯っ!」
反射的に振り返った。
焦点が合わなくても、すぐに分かった。
「おい、カインッ!」
「カインちゃん!」
「カインくん!」
こちらに向かってくる、大勢の影。
嬉しさのあまり、表情がうまく作れない。
胸の奥が熱くなって、思いが溢れ出してくる。
前世では、俺の周りには誰もいなかった。
死ぬ寸前でさえ、悲しんでくれる人なんていないと思っていた。
でも、今回はちがう。
こんなにも、俺を思ってくれる人たちがいる。
こんなにも、大切だと思える人たちがいる。
今、俺はどんな表情をしているんだろう。
消えてしまうというのに、俺は今、どんな顔をしているのだろう。
前世と変わらず、今回も後悔だらけの人生だった。
でも、胸を張って言えるよ、この言葉を。
「カイン!」
「カインさん!」
後悔はある。けれど──
「みんな⋯⋯ありがとう」
こうして、俺の意識は消失した。
///
目を開けば、そこは広い草原だった。
雲一つない青空から、心地よい風が吹いてくる。
俺はそこで、彼女を見つけた。
風に揺れる毛並み。誰かを待つその背に向かって、俺はゆっくりと歩き出した。
──そして、ここにいたのは俺と彼女だけじゃなかった。
「リンドウさん!」
「⋯⋯っ!」
「お父さん!」
「おっと、みんなどうしたんだい? そんな慌てて」
「ったく、ヘマこきやがって」
「まさか師匠が自分の仇のために、黒竜に挑んでいたなんてびっくりしましたよ」
「ハッ、うるせえっての」
それは、家族との再会。
「ふぉっふぉっふぉ、こうしてゆっくりできるのも久しぶりじゃのう」
「そうですね。正直、働きすぎだとずっと思っていましたよ」
「それは心配かけたのう」
それは、愛する人との再会。
「──グラジオさんっ!」
「はい、えっと、どちら様でしょう?」
「えっ」
それは、尊敬する人との再会──のはずだった。
ショックのあまり、思考がどんどん滞っていく。
体は重く、呼吸は苦しく。
⋯⋯しかし、それもそのはずだった。
自身の身体を見て、その理由がわかった。
「これって⋯⋯」
引き締まっていない、やせ細った手足。
気だるさも、この息苦しさも、すべて、覚えがあった。
「⋯⋯前世の俺、か」
「どう、されました?」
「すみません。人違いだったようです」
グラジオがわからないのも当然だ。
心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じる。
もし、ベルにも同じように言われたら、俺は立ち直れないだろう。
それでも、ここで引き返すわけにはいかない。
もう二度と、会えないはずだったのだから。
「──ベル」
勇気を出して、その名を呼んだ。
「ん?」
振り返ったベルの顔をみて、より一層心臓が引き締められる。
言葉を出そうと口を開けても、息が出ない
手が震える。足に力が入らない。
俺は──
「カイン、だよね」
「──っ。俺が、わかるのか」
「うん、当たり前。カインはカインだから」
感情が込み上げ、喉が震える。
ベルの顔が涙でかすんだ。
「驚かないのか? 俺がこんな見た目していても」
「びっくりはした。けど、見た目が変わっても、カインなのは変わらない」
「⋯⋯ああ。ほんと、ベルはすごいな」
ずっと、気にしていた。
もし、前世の俺を見たら、みんなはどう思うのかって。
でも、杞憂だった。本当はわかっていたじゃないか。
ようやくこれで、真正面からベルと向き合える。
「ベル、すこし俺の話を聞いてくれないか。俺の──」
そして、すべてを話したら、この気持ちを伝えよう。
「後悔だらけだった人生の話を」
///
それは、遠く離れた場所で。
「よいしょ」
「あら、危ないわよ」
窓辺の少女が、青空を見上げながらつぶやいた。
「おにい、ちゃん⋯⋯?」
ここまでお読みいただき、本当に、ありがとうございました。
およそ三年近く、こんなナメクジのような速度で更新してしまって、本当にすみませんでした。
どんな時間でも、どれだけ間が空いても、更新のたびに反応を届けてくださった読者の皆さまには、心から感謝しております。
顔も、名前もわかりませんが、あなたたちがいたからこそ、ここまで書ききることができました。
そして、この作品を書きながら、こんな私ですが、本気で物語を作る人になりたいと思いました。
目指すは映画作品!
これからも見守り、応援していただけたら、これ以上の幸せはありません。
最後に、もう一度。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。




