表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/110

第九十四話 こうして、二人は巡り合う

 ボタンの着地直後、地上から一つの光球が放たれた。

 後方、直撃はない。

 それに、感じる魔力も少ない。


 この程度、本来なら気にする必要はないが⋯⋯


「カリオスさん」

「言われるまでもない」

 カリオスの指先に浮かんだ極小の魔法陣から一本の光線が伸びる。

 遥か下空、光球に触れると、球体は突如減速し、内部から膨張を始めた。


 直後、眩い閃光とともに、視界が白く塗り潰された。


「これは⋯⋯」

 光の量に対して、威力は一切ない。

 明らかにこれは──


「カガミ、見て」

「⋯⋯そういうことでしたか」

 ヒマワリが指さした先。

 街の三方、路地の奥から、影が一斉に飛び出していくのが見えた。


「左に二人、右に一人。そして、正面に五人ですか」

「どうする?」

「もとより四方を囲むつもりであったのだから、ちょうどいいではないか」

 カリオスは軽く笑い、竜の背縁に足をかけた。


「殲滅力を考えれば、五人の方にこの竜を向かわせるべきだろう。であれば、左に逃げた二名は我が行こう」

「⋯⋯それでしたら、右に逃げた一人にはヒマワリが行ってください」

「わかった」

「ツバキさん、あなたは僕と正面を」

「──ああ」

 カリオスとヒマワリが黒竜の背から飛び降りたのを見送り、僕は竜の飛行速度を一段引き上げた。

 シモウサの上空を通り越し、すぐに、前方を駆ける五つの人影が視界に入る。


「すまないけど、手荒くいかせてもらうよ」

 黒竜の口元から濁った紫炎が漏れ始める。

 熱気が空中を漂い、皮膚がピリつく。


 第二王子の身長は、たしか中学生くらいだったはず。


 なら──背の高い順から殺していけば問題ない。


 手を挙げて、黒竜に命令しようとしたそのとき。


「⋯⋯っ、止まった?」

 最後列を走っていた影が、ぴたりと足を止めた。

 くるりと振り返り、こちらを真っ直ぐに見上げてくる。


「久しぶり。いや──」


 フードの隙間から覗いたのは、茶色い髪に、あどけなさの残る少年の顔。

 少年は目を細め、大きく息を吸った。


 そして。


「【中学ぶりだな、加賀美】」

「⋯⋯は?」


 その瞬間、脳が焼き付くような感覚に襲われた。


 中学──

 この世界には存在しないはずの単語。

 それを、彼は迷いなく口にした。


 しかも、中学"ぶり"だと?

 よりによって、あの最悪の時間を、彼は知っている。


「⋯⋯ああ、どおりで僕の名前を知っていたわけだ」


 顔はこの世界の住人そのもの。

 だとすれば。


「⋯⋯転生者、ですか」

「カイン、君はやっぱり──」

「なるほど、彼は"カイン"というのですね。気が変わりました」

「ま、待ってくれ!!」


 彼女の制止に耳を貸すつもりはなかった。

 立ち上がり、一歩、前へ出る。


「作戦変更です。残りの四名はあなたと、この竜に任せます。まあ、せいぜい黒竜の邪魔をしなければ、負けることはないでしょう」


 ほんの一瞬、冷静さが戻る。

 もしかすると、これは敵の誘導かもしれない、と。

 でも、それでもだ。


 それでも──


「僕は、あのカインという少年を、確実に殺してきます」

「お願いだ、それだけはっ⋯⋯!」

「あとは頼みました」

 そう言い残し、僕はすぐさま飛び降りた。


 裏切る可能性の高い彼女を、一人にしてはいけないことはわかっている。

 この行動が明確に悪手であることも。


 だが、ルドベキアを潰した時点で、目的はすでに達成されている。

 この作戦がどうなろうと、正直どうでもいい。


 今は、あれの正体の方がはるかに重要だ。


 そして、もしもだ。

 もしも、あの少年が。

 僕を地獄に突き落とした連中のひとりだったとしたら、そのときは──



 ──僕が、本当の地獄を見せてやる。




 ///////




『──善人ぶるなよ』


 振り払われた手の感触は、今でも鮮明に覚えている。


 あいつが本当に助けを必要としていたとき、俺は見て見ぬふりをした。

 声をかけたのは、ただの自己満足だった。

 何かしなければ後味が悪い。

 そんな自分勝手な理由で。


 助けようとする"ふり"をして、"ふり"でおわる。

 本気で救うつもりなんて、当時の自分にはなかった。

 だって、自分は同じ目に合いたくなかったから。


 ──こんなの、見透かされて当然だった。


 中途半端な善意に、人を救う力なんてない。

 むしろ、あのときは逆効果だった。


「後悔してたよ、ずっと⋯⋯」

 それでも、どんな因果か。

 俺たちは再び巡り会った。


 ──こうして、敵同士として。


 ドン、と地を打つ音。

 砂埃が舞い上がる。

 眼前に降り立ったのは、日本人の青年。


 おそらく、この世界と前の世界では時間の流れが違うのだろう。

 あのときの面影が、今尚濃く残っている。


「あなたに──いや、お前に一つだけ、聞きたいことがある」

「⋯⋯ああ」

 もしかしたら、また昔のように、なんて思っていた瞬間もあった。

 だけど、もうお互い、後戻りできないところまで来てしまった。


 俺は、お前を倒さなければならない。

 これ以上、大切な人たちを失わないために。


「名前は?」

「カイン」

「違う。僕は、前世の名前を聞いているんだ」

「⋯⋯」


 ああ、本当に懐かしいな。

 お前は、俺を恨んでいるのだろうか。

 いじめられていたお前を見捨てた、この俺を。


 ──なんて、考えるだけ無駄か。

 今更聞いたところで何になる。


「⋯⋯なら、教えてやるよ」

 俺は、静かに詠唱を始めた。


『我、異世界より来たれり』

 その瞬間、胸の奥で火が灯る。

 それは鼓動とともに広がり、体中を熱で満たしていく。


『名を────【宮野 蓮】』

 刹那、魔力は紅蓮に染まり、内側から溢れ出た焔が全身を喰らう。

 息をするたび、肺の奥が焼け焦げるような激痛が走る。

 それでも俺は、奥歯を噛み締めながら、最後の言葉を口にした。





『──煉転』





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ