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8.友人の来訪その2


「清俊」

「なんだ?」

「俺たちずっと手紙のやりとりをしてたよな?」

「ああ、そうだな」

「俺、全然その子のこと聞いてないんだけど」

「書いてないからな」

「なんでだよ!一言かけよ!」


 なんのための手紙だ。というかそんな重大なことなんで書かないんだ。

 昨日食べた夕飯のおかずの内容は書くくせにどうしてそんな大事なことは書かない!

 俺の必死な訴えに清俊はどこかのんびりした様子で答える。


「書く必要があったのか?」

「当たり前だろう!俺たち親友じゃなかったかよ!」

「親友。そうだな。樹希は親友だな」

「じゃあ、なんで」

「すまない。どう書いたらいいかわからなくて書けなかったんだ」


 意図的に隠した訳ではないらしい。

 清俊はすまなそうな顔をして謝った。


「嫁って、なんだよ!いつ決まったんだよ!?」

「5年前くらいか?」

「それって」


 どう見てもさっきの少女は16歳ぐらいの年だった。ということはつまり少女が10歳ぐらいの時に結婚を決めたということか。

 それは犯罪じゃないか。

 一瞬そんな考えがよぎったが、慌てて首を振る。友人の幼女趣味を疑う前にまずは事情を聴くべきだ。

 少女の案内で客室へ案内される。

 俺は少女を盗み見ながら、とりあえず座る。清俊も俺の前に座ったのを確かめると俺は逃がさないとばかりに詰め寄る。


「よし、とりあえず俺のことはいい。お前たちのことを話してくれ」

「話してくれと言われてもな」


 清俊は困ったような顔をして答える。


「私が紗夜に結婚を申し込み、紗夜がそれを受け入れた。それだけだが」

「それだけじゃないだろ!きっかけは!なんで結婚することになったんだよ!」


 大事なことをはしょりすぎだ。そう思い、そう言えば清俊はちらりと少女を見る。


「紗夜、すまないがお茶を入れてきてくれないか」

「はい」


 清俊に言われ、少女は席をはずす。それを待ってから俺は清俊に再度詰め寄る。


「で、どうなんだよ?」

「私の体質のことは知っているだろう?」

「ああ。妖をひきつける体質だろう」


 その体質のせいで清俊がどれだけ苦労しているか俺だってわかっているつもりだ。

 清俊は頷くと少しだけ笑う。


「紗夜は逆に妖を払う体質をもっている」

「なに?」


 妖を払う体質だと?

 霊力をもつ者は妖を払う力も大抵は持っている。もちろん俺もそうだ。しかしそれを体質というだろうか。


「どういうことだ?」

「鬼を知っているか?」


 鬼。聞きなれない言葉に俺は思わず問い返す。


「鬼って、昔いたとされる妖の一種だろう?」

「ああ」


 昔いたが今はいない。その昔、鬼はとあることがきっかけで絶滅したらしい。

 俺も文献で軽く読んだだけなので、詳しくはしらない。鬼とはその程度の存在なのだ。


「その鬼がどうした?」

「紗夜にはその鬼の血が流れている」

「は?」


 鬼の血が流れているだと?

 俺は思わず、さっきの少女を思い出す。どこからどう見ても普通の少女に見えた。とても鬼の子とは思えなかった。


「それ、本当なのか?」

「ああ」


 清俊は何か知っているらしく、深くは言わなかったが、彼女が鬼の血をつぐと断言した。


「鬼はその昔、妖を食らう力を持っていた。故に紗夜は妖に恐れられ、妖を遠ざけることができる」


 なるほど、だから体質か。

 清俊同様、彼女もその血故に生まれ持った力があるらしい。


「紗夜と婚姻を結べばお互いの血が混ざり、私の体質も改善されるかもしれない」

「それで結婚か」

「ああ」

「なるほどな」


 突然結婚なんて突拍子もないことを言い出したと思っていたが、それなりの理由があったことはわかった。わかったがまだ納得できない。


「で?誰だ?」

「誰とは?」

「誰がお前にそんな知恵を与えたんだ?」


 清俊が考えたとはとても思えない。そもそも鬼の血をあの子が継ぐなんていったいどうやってわかったというのか。

 戸惑う清俊に俺は再度尋ねる。


「その子が本物の鬼の血をひいているとしてもそんな子を引きこもりのお前が自力で見つけられるわけないよな?誰があの子を見つけたんだ?」


 俺の問いかけに清俊は苦笑いを浮かべながら答える。


「東雲家のご当主だ」


 東雲家のご当主。そう言われ俺はある人物の姿が鮮明に浮かんだ。


「あのたぬきじじいか」


 東雲家といえば如月家と同じこの国の四大名家のひとつだ。四大名家のなかでも勢力が強く、一番力の強い家といっても過言ではない。

 その当主といえば、現在60を超える東雲大吾という男がそうだった。

 既に隠居してもいい年だというのに表舞台に立っては様々なことをしているその男は古くから清俊と繋がりがあり、あの10年前の事件が起こった際も危機に陥った如月家に援助を申し出た男だ。この男のおかげで 如月家はなんとなく存続できた訳だが、俺としてはこの爺さんにいい印象は全くもっていなかった。

 人をみすかしたような笑み。何を考えているかわからない薄気味悪いところがどうも好きになれなかった。


「あの野郎何を考えていやがる」


 思わず出たその言葉に清俊は苦笑する。


「樹希。言葉に気を付けた方がいいぞ」

「ああ、わかっているよ。でもな、清俊。あの野郎をあんまり信用しない方がいいぞ」

「わかっている。だが、今のところ東雲家は如月家に一番友好的だ。それに今の如月家は東雲家の力がなければやっていけなかった」

「そうだけどよ」


 とはいえ、その援助だって無償でしている訳ではないだろう。なにか考えがあって行っているに違いない。

 俺の思っていることに清俊も気づいたのか、そうだなと頷く。


「私だって全てを信用している訳じゃない。あちらにも考えがあるのはわかっている」

「なら」

「それでも今の如月家には東雲家の力が必要だ」


 きっぱりとそう言われ、俺は押し黙る。その通りだからこそ何も言えない。

 しばらく黙っているとあの少女がお茶の用意をして戻って来た。


「清俊様、お茶をいれてきました」

「ありがとう、紗夜」


 清俊は少しだけ嬉しそうにお茶を受け取る。

 どうやら仲はそれなりにいいみたいだ。

 差し出されたお茶を受け取り、飲みながら俺は二人を観察する。


「せっかくだ。紗夜も一緒にお茶を飲んでいきなさい」

「ですが」

「いいだろう?」


 清俊にそう聞かれ、俺はもちろん頷いた。

 あの清俊の妻になる少女だ。どんな少女か気にならない訳がなかった。


「ありがとうございます」


 少女はそう言うと清俊の隣に座った。

 俺はその様子をじっと見る。

 あまりにも見すぎたのか、少女は俺の方を怪訝そうな顔をしてみる。


「あの、何か?」

「いや」


 鬼の血を継ぐと言われてもやはり見た目は普通の少女だ。角もなにもなく、鬼らしいところはどこにもない。


「なあ、紗夜ちゃん」


 紗夜ちゃんと呼んだら一瞬少女は不快気な顔をした。怒られるかと思ったがそれに何も言わず、なんでしょうかと返す。


「紗夜ちゃんは清俊との結婚のことどう思っているわけ?」

「っ、た、樹希!?」


 紗夜ちゃんに聞いたのに何故か清俊が動揺する。

 あまりの動揺に飲みかけていたお茶をこぼしそうになる清俊を俺は無視し、紗夜ちゃんに再度同じ質問を問いかける。

 紗夜ちゃんは清俊がこぼしたお茶を素早くふきながら、俺の方を見る。


「どう、とは?」

「だって、清俊の方がずっと年上だろう?」


 少なくとも清俊と紗夜ちゃんでは十以上年が違う。十も違ければ、若い子からしてみれば清俊はおじさんと言ってもいいだろう。


「如月家の地位はあっても、本人はひきこもりで生活力もない」


 俺の言葉に清俊はせき込む。それを無視して続ける。


「おまけにあの体質だ」


 なんの体質かは言わなくてもわかるだろう。同じ屋根の下に住んでいるなら嫌でもその体質はわかるはずだ。


「そんな清俊と本当に結婚していいのか?」


 俺の問いかけに紗夜ちゃんは何も言わない。ちらりと清俊を見れば酷く緊張した顔をしていた。

 何でお前が緊張するんだよ。そう内心突っ込んでいると紗夜ちゃんが静かに口を開く。


「約束しましたから」

「約束?」

「はい」


 どんな約束かはわからない。ただ清俊を見ると何故か顔を赤くし、黙り込んでいた。

 つまり清俊となにか約束をしたらしい。

 だから結婚する。

 その答えに俺は少しだけ苦笑した。


「別に清俊のことを好きな訳ではないんだな」


 俺の言葉に清俊の肩がびくりと動いた。

 清俊は気まずげに咳払いをすると俺の方を少しだけ睨む。


「樹希、そのへんでいいだろう」


 清俊はそう言うと紗夜ちゃんを見る。

 紗夜ちゃんは先ほどから表情ひとつ変えない。どうやら感情の乏しい子のようだ。


「別に私だって無理強いをするつもりはない。紗夜がいいと思うまで待つ気だ」

「私はいつでも結婚してもいいですが」

「それは、その、ありがとう」


 清俊は少し顔を赤らめて笑う。

 顔を見合わせて笑い合う二人を見ながら俺はお茶をすする。

 あの清俊が結婚。しかも相手は十も違う若い女の子。

 俺はなんとも言えない気持ちになりながらお茶を飲み切った。


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