22.初めての妖退治
そこは真っ暗な空間だった。先ほどまでいた屋敷とは全く違う場所だ。
どこを見ても闇が広がり、明かり一つ見えない。
そんな暗闇だと言うのに自分の身体は光ってもないのによく見える。
これは夢なのだろうか。
そう思っていると目の前にあの少女の姿が見えた。
助けてとそう言っていたあの少女が。
「た、すけて」
少女はそう言い、私に手を伸ばしゆっくりと近づいてくる。
その様子になんとなくだが、状況がわかった。
おそらくこの少女が助けを求めて、私をここに連れてきたのだろう。
伸ばされた手を私は掴む。
その手は冷たく、少し震えていた。
「私は君を助けることはできない」
そう、こうなってしまってはもう遅い。
柚月さんがこの子を妖の半身だと言っていた。
妖に取り込まれてしまった時点で、既にこの子もまた妖だ。
じきに払われることになるだろう。
それでも。
「どうか安らかに眠れる様に」
そう言って、名も知れない、少女の為に祈る。
それに少女はほんの少しだけ笑った。とその時、光が差し、闇が消え、同時に少女も消えた。
眩しい程の光に目を細めていると耳元で聞き慣れた声が聞こえた。
「清俊様」
紗夜の声だ。
その声に導かれるように目を開ける。
目を開けると白銀の髪に赤い瞳を持つ、紗夜が静かに私を見ていた。
「大丈夫ですか?」
紗夜にそう言われ、私は小さく頷く。周りを見れば、そこは先程妖を倒した部屋だった。
どうやら戻て来たらしい。
そっと目の前を見る。
少女の姿はなかった。
「あの子なら倒しました」
「そうか」
最後に笑った少女の姿を思い出す。
ずっと私に助けを求めていた少女。少しでも彼女の気持ちが救われればいいが。
そう思っていると樹希が私の名前を呼びながら走ってくるのが見えた。
「清俊、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「良かった。心配したぞ」
樹希の後ろから柚月さん達がゆっくりと歩いてくる。
心配そうな樹希達とは対照的に柚月さんは落ち着いていた。
「大丈夫?」
「ええ」
「そう、良かった。まあ、本体を倒したから、あれもへたなことはできないと思ってはいたけど」
柚月さんはそう言うとちらりと紗夜の方を見る。
「それでその力はどうなの?」
「どうとは?」
「鬼の力、それってずっと消えないものなの?」
柚月さんの問いかけに紗夜は首を振る。
「いえ、もう少しすれば自然に戻ります。これは一時的なものですから」
紗夜の答えに柚月さんはふうんと頷く。その目は興味津々といった感じだった。
「人間の血を飲むと必ずそうなるの?」
「いえ、血ではなくても霊力が手に入れば大丈夫です」
「なるほど。霊力の濃い清俊の血だからこそできるってわけ。ということはある程度霊力の強い人間の血出ないと鬼の力を発揮することはできないのね」
柚月さんはそう言うと何かを考え込む。
それに私は釘をさすように言う。
「柚月さん、このことはくれぐれも内密にしてください」
「わかっているわよ」
そう言いつつ、その顔はとてもそう思っているようには見えなかった。
あまり信用できなかったが、今はその言葉を信じるしかない。
私は傍にいる、紗夜の方へと視線を向けた。
「紗夜、怪我は大丈夫か?」
「はい、傷は全て直りましたから。清俊様こそ、怪我をさせてしまってすみません」
そう言って、紗夜は私の腕の傷を見る。
「いや、これぐらい大丈夫だ」
確かに血は流れているが、傷自体はそれほど深くない。
私は今度は樹希の方を見る。
「樹希は平気か?」
「なんとなか、な」
樹希はそう答えると笑う。相変わらず顔色は悪いが、とりあえずは大きな怪我もなく、大丈夫そうだ。
柚月さん達の方も見る。
2人とも怪我はなさそうだ。
とりあえず全員無事であることに私はほっと安堵した。
「この人数でほとんど怪我もないとか、逆にこわえよ」
「あら、私たちの実力を考えれば当然じゃないかしら」
柚月さんはそう言って、笑う。
それに樹希は苦笑いを浮かべた。
「さて、後は首だけね」
柚月さんはそう言って、床に倒れている妖の元へ行く。
どういうことかわからないでいる私に樹希が教えてくれる。
「妖を倒したら、証拠に首を持っていくんだ。それで本当に妖を倒したことになる。だから最後は妖の首を切って、本当におわりだ」
「そうなのか」
柚月さんはレオさんに目で何か合図する。するとレオさんは刀を妖の首につけ、そして首を切り落とした。途端に先ほどまで大きかったものが見る見る間に縮み、片手で持てるほどの大きさになった。
「小さくなるのか?」
「ああ、詳しくはわからないが、たぶん本体と別れることで霊力が切れて、本来の大きさに戻るんだろう」
「そうなのか」
レオさんは妖の首をためらいもなく掴むとそれを袋に入れる。
それと同時に柚月さんがぱんと手を叩いた。
「はい、これで妖退治もお終い。さあ、帰りましょう」
そう言って柚月さんは笑う。
こうして私にとっての初めての妖退治は終わった。




