21.3人の化け物
樹希は刀を振るい、次々と切り裂く。しかしなにしろ数が多い。いくら切り裂いてもその端から地面からまたわいてくる。
「くっそ、こりゃあ、地獄絵図だな」
樹希は刀を振りながら悪態をつく。
たしかにその様子はまるで地獄の亡者を見ているようだった。ふと、ゆらゆらと揺れる人影の中に少女の姿を見つける。
ここに連れてきたあの少女の姿だ。
「た、すけて」
そう言って、少女の亡霊と思われるものが私に向かって手を伸ばす。
助けてくれ、そう言われても私に出来る事など何もない。
そうわかっているのに、伸ばされた手を思わず掴み返しそうになる。
手を伸ばしかけたその時、少女が悲鳴を上げた。どうしたのかと見れば、少女の身体が真っ二つに割れる。
何が起きたのかわからなかった。
伸ばしかけた手をそのままに呆然と見ていると後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「何しているのよ、ばか」
慌てて声の方を振り向くとそこには柚月さんが霊刀を片手に立っていた。その後ろにはレオさんもいる。
柚月さんはこっちにくると突然私の胸倉をつかむ。
驚く私に構わず、柚月さんはこちらをきっと睨む。
「いい、いくら妖と相性がいいからって、こんな簡単な手に騙されないで」
「騙される?」
「そうよ。あいつはあの妖の半身よ。貴方を取り込んで霊力を補おうとしてたの」
そう言って、柚月さんはそっと私の胸倉から手をはなす。
ちらりと少女がいたところを見る。身体を真っ二つに斬られてなお、少女はこちらに手を伸ばし、助けを求めていた。
その姿から無理やりに視線を逸らす。
柚月さんが来たことに気づいたのか、樹希がそばにやってくる。
「京極さん!無事だったんですね!」
「樹希さんも無事みたいね」
「えっと、まあ無事は無事ですけど」
樹希はちらりと視線を紗夜にやる。それにつられて、柚月さんも紗夜を見る。そしてその姿を見て、小さく笑った。
「なるほど、あれが本性ってわけ。本当に鬼の血をひいていたのね」
「ええ、まあ」
「あんな力があるなら最初からだせば良かったじゃない」
柚月さんのその言葉に私は黙り込む。
戦力的な意味合いを考えれば、その通りだ。しかし、私は出来るだけ紗夜にあの鬼の力を使ってもらいたくなかった。
怯えていた樹希の顔が脳裏に浮かぶ。
今はだいぶましになったようだが、その顔はまだ青い。
「まあ、いいわ。とりあえず、こっちからどうにかしないとね」
柚月さんはそう言うと懐から何枚か札を取り出す。それと同時に後ろに控えていたレオさんが刀を構え、前へ飛び出した。
ゆらゆらとゆれる人影を次々と切り裂く。その動きは手練れの者だ。さすがは柚月さんの護衛である。
柚月さんはその場で言葉を呟き、札を投げると札が燃え上がり、青い火の玉になる。紗夜の炎と同じである。それらは人影を次々と焼き払った。
「すげえな」
あっという間に一掃されていく様子に樹希は思わず感嘆の声を漏らす。
それに私も頷く。
京極家は札の扱いに最も長けた一族だ。札を作るのも使うのも非常にうまい。
柚月さん達のおかげであれだけ湧き上がっていた人影があっという間に消え失せる。
「さて、メインディッシュといきますか」
柚月さんはそう言うと紗夜と戦う妖の方を見る。
妖と紗夜の戦いは未だ続いていた。妖は既に何本か腕は切られ、身体からは血が流し、その身は燃えている。それでもなお、その巨大な目はこちらを睨み、敵意をあらわにする。
「いい加減、こんな埃ぽいところから出たいわ。一気にたたみかけるわよ」
柚月さんのその言葉を合図にレオさんが駆けていく。そして妖に斬りかかった。
いくつかある目玉のうち何個かがレオさんの方を見る。同時に腕が伸び、レオさんを捕まえようとする。しかしその腕がレオさんを掴むよりも前に青い火の玉が飛んできて、腕が燃える。
少し離れた位置から柚月さんが札を次々に飛ばしていた。
「おのれ!人間ふぜいが!」
妖はそう叫ぶと柚月さんの方に向かおうとする。しかしそれよりも前に紗夜が飛び上がり、後ろから斬りかかる。同時に妖の悲鳴が上がる。
その様子を見て、樹希が小さく呟く。
「嘘だろう。禁忌妖禄の妖をたった3人で倒すなんて」
「凄いな」
「凄いどころか、全員化け物だろう」
樹希はそう言うと苦笑いを浮かべる。
普通の妖退治がどの様なものかわからないが、この光景は異常なことらしい。
紗夜が斬りかかったところで再度レオさんが斬りかかる。
今日初めて顔を合わせたはずだが、2人の動きは見事に合っていた。次々とくる連撃に妖は必死に抵抗する。
「そろそろかしら」
そう柚月さんは言うと札を投げるのを止め、刀を片手に今度は自分も妖の元へ駆けだした。そして斬りかかる。
その姿はまるで舞でも踊っているようだった。同じ刀を振るうだけなはずなのに、その動きは舞の様に美しく、流れるようだった。柚月さんが動く度、今日の為に用意したという着物が華やかに揺れる。
3人に斬りかかられ、さすがの妖ももはやまともな抵抗ができなかった。
腕が切り落とされ、目は潰され、最後に残った巨大な目に向かって、柚月さんが最後の一撃が加える。
と同時に凄まじい叫び声が響き渡る。耳をふさぎたくなるような声がした後うって変わって静寂がやってくる。そして遂に妖が力なく倒れた。
同時に部屋に満ちていた禍々しい気配が消える。
「本当に倒しちまった」
樹希は呆然とそう言い、信じられないという顔をする。
本当に倒したのか。禁忌妖禄の妖を。
ちらりと倒れている妖を見る。その体はぴくりとも動かない。倒れ伏す妖の傍に紗夜が立っていた。
見る限りには大きな怪我はなさそうだ。鬼の力のおかげか先ほど負った怪我も治っている様だった。
それにほっと安堵し、紗夜の元へ駆け寄ろうとしたその時、背中にぞくりとした寒気が走った。そして次の瞬間、後ろから何かがしがみついた。
「たす、けて」
聞こえたのはあの少女の声。
ぞくりと悪寒が走り、振り払おうとしたが、身体が動かない。そして急に意識が途絶えた。




