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18.妖退治


「うわ、こう見るとまじで不気味だな」


 樹希がそう言い、手元の明かりを持ち上げ、その建物を照らす。

 紅娑の館。

 帝都のはずれ、人家も何もない、ただ森だけが広がっているその場所にぽつんと建てられた西洋風の建物。それが紅娑の館と呼ばれ、禁忌妖禄にのる妖が住まう場所であった。

 妖が住まう為かそれとも年月のせいか外観は酷く不気味に見えた。


「幽霊でもでてきそうだな」


 樹希はそう言うと苦笑いを浮かべる。


「幽霊も妖も同じようなものだろう?」

「全然違うだろう!」


 樹希はそう言うと何故か少し怯えた顔をする。

 どうやら樹希は、妖は平気なくせに幽霊は苦手らしい。

 そう言えば、昔からそうだったなと思い返すと懐かしい気分になった。

 思わず笑うとそれに樹希はなんだよと反応する。


「幽霊が出てきたとしても今のお前なら大丈夫そうだけどな」


 私はそう言って、樹希の方を見る。

 普段の格好とは違い、妖退治の為、防具を身に着け、腰に霊刀を下げたその姿はずいぶんと勇ましく見える。


「好きでこの格好している訳じゃないんだよ」

「嫌なのか?」

「当たり前だろう。まるで昔の足軽みたいじゃないか」


 樹希はそう言うとため息をつく。

 そんなに落ち込まなくてもいいのにと思っていると隣に紗夜がやってくる。


「清俊様、大丈夫ですか?」


 紗夜の問いかけに頷く。

 紗夜の格好も樹希と同じようなもので、違うと言えば防具に如月家の家紋が入っているぐらいだ。

 普段とは違う恰好をしている二人を見て、いよいよこれから妖退治が始まるのだと実感がわいてくる。


「京極はまだ来ないな」

「ああ、道に迷っていないといいんだが」


 日が落ちて数十分、未だ柚月さんたちの姿は見えなかった。

 私たちは結界の準備をする為、昼間からこの場にきたからよかったが、日がおち、闇に紛れれば館までの道はほとんどわからなくなる。

 まさかとは思うが迷わないとも言い切れない。その場合は妖退治はどうすればいいのだろうかと思っていると樹希が隣にやってくる。


「今のとこはどうだ?」

「そうだな」


 樹希に尋ねられ、明かりに照らされた館の方を見る。

 妙な感じがした。今は誰もいない静かなはずの館から物音やざわめき声が聞こえた。

 おそらくそのほとんどが妖の気配だろう。


「たくさんいるが今のところは下級の妖ばかりだな」


 上級の妖は出てくれば、わかる。

 獲物を前にする獅子のようにこちらをじっと見てくるのだ。

 わからないはずがない。

 とそこに二人分の足音が聞こえる。


「待たせたわね」


 そう言って、柚月さんが現れた。

 思わずその姿に私も樹希も釘付けになる。


「柚月さん、その恰好は」

「素敵でしょう?今日の為に作ったのよ」


 樹希や紗夜とは違い、柚月さんは防具を一切つけていなかった。

 かわりにいつもよりもより一層派手な柄の刺繍された着物を着ている。

 柚月さんがこちらに見せる様にくるりと回る。すると着物も綺麗に舞った。


「防具はいいんですか?」

「そんなかっこ悪いの着たくないわよ」


 さすがは柚月さんである。

 機能性よりも見た目を重視しているらしい。

 私の後ろで樹希がかっこ悪いと呟き、何故かショックを受けている。


「大丈夫よ。霊刀は持っているから」


 そう言って、腰に下げた刀を見せる。

 柚月さんの後ろには護衛のレオさんが控えていた。

 柚月さんの意向なのか、レオさんも防具をつけていなかった。


「なんか俺たちだけやる気あるみたいじゃないか」

「それは、そのいいことなんじゃないか」

「清俊はいいよな。普段と恰好なんにも変わってないもんな」

「防具をつけなくてもいいと言ったのは樹希だろう」


 私の言葉に樹希はそうだけどと言いつつ、何故か納得できないような顔をしていた。


「清俊は大丈夫だった?夜は妖が多いでしょう?」

「昼間に来ましたから。それに紗夜がいますし」


 そう言って紗夜を見る。

 紗夜はどうしましたかと言ってこっちを見てくる。

 何でもなさそうにしているが、実際ここにくる道中に何度か妖と出くわした。そしてその全ての妖を紗夜がその場で払ってくれた。

 いつものこととはいえ、紗夜がいなければ私は本当に外を出歩くことさえできない。


「それは良かったわ」


 柚月さんはそう言って笑うと紗夜の方を見る。


「期待しているわね」

「はい」


 紗夜は表情一つ変えずにそう答える。

 柚月さんを前にしても紗夜は相変わらずだった。


「結界はひけた?」

「はい。私がひきました」

「さすがは清俊ね。そこいらの結界の何倍も強いわ」


 そう言って建物に張られた結界を柚月さんは見る。


「東雲から教えてもらったの?」

「はい」

「東雲のじいさんもたまにはいいことするのね」


 東雲家は結界を得意とする家だ。私の屋敷の結界も東雲のおじさん達がひいた結界だ。その際に東雲のおじさんは私には必要だろうといい、結界の張り方を丁寧に教えてくれた。


「さて、じゃ、行きますか」


 柚月さんのその言葉を合図に私たちは館の前へと移動する。

 正面の入り口へくると樹希がその扉を押した。

 が、扉は開かなかった。

 何度も何度も樹希は押すが扉はびくともしない。


「どうした?」

「いや、なんか開かないんだが」

「扉が錆びているんじゃない?」

「いや、そんなわけ」


 そう言いつつ樹希は再度扉を力任せに押す。しかし扉はやはり動ない。

 見かねて、紗夜も扉を押す。

 しかし扉はびくともしない。


「なるほど私たちを拒んでいる訳」


 柚月さんはそう言うと笑う。

 どういう意味か尋ねようとするとその前に柚月さんが私の声をかける。


「清俊、開けてくれる?」

「え?」

「清俊なら開くと思うわ」


 どういう意味かはわからないが柚月さんがそう言うならそうなのだろう。

 樹希と紗夜が退く。

 私は正面の入り口の前に立つと扉を押した。

 その瞬間静電気のようなしびれが手に走る。


「っ!?」


 思わず手を離す。

 どうしたと樹希が言い、紗夜と共に駆け寄ってくる。

 大丈夫だ、そう言おうとしたその時、あれほど押してもびくともしなかった扉が勝手に開いた。


「開いた」

「さすがは清俊ね。あっちから手招きしているみたい」


 柚月さんはそう言うと私の方を見て嬉しそうに言う。

 それに私は曖昧に笑うしかなかった。


「清俊様、大丈夫ですか?」


 紗夜は心配そうに私を見る。それに大丈夫だと返しつつ、まだしびれる手を抑える。

 あれがなんだったかはわからない。

 ただなんだか嫌な気がした。

 行かない方がいい。

 そう本能が告げていたが、ここで行かない訳にはいかなかった。

 柚月さんとレオさんが館の中へと入る。それに続き樹希が入った。

 紗夜は入らなかった。見れば私の方をじっと見ていた。

 私は大丈夫だと言いながら、紗夜の手をとり、大きく息を吸うと館の中へと入った。

 館の中は真っ暗だった。

 私達の明かりでは少ししか見えなかった。


「まずは妖をさがすんだな」


 樹希に確認すると樹希は頷く。


「いつもなら手分けして探すんだけど」


 そう樹希は言いかけ口を閉じる。

 この少人数では別れるのはあまり得策ではないかもしれない。

 そう思ったのだろう。

 それに私も同意見だった。

 ところが柚月さんは違った。


「手分けして探しましょうか?」

「え?」

「探すならその方がいいでしょう?」

「いや、それは、いくらなんでもこの人数じゃ」

「大丈夫よ。私にはレオがいるし、清俊はその二人がいるでしょう」


 柚月さんのその言葉に樹希は黙り込む。


「別れた方が効率がいいでしょう?」

「確かに効率はいいですけど」

「じゃあ、そうしましょう」


 柚月さんはそう言うとさっそくレオさんと別の方向へ行こうとする。それを樹希が慌てて止める。


「本当に分かれるんですか!?」

「ええ。あ、清俊、くれぐれも気を付けてね。貴方、妖に狙われているから」

「え?」


 聞き返す間もなく柚月さんとレオさんは闇の中へ消えて行ってしまった。

 残されたのは私と紗夜と樹希の3人だ。

 呆然とする樹希に私は声をかける。


「とりあえず、探すか?」

「あ、ああ」

「でも、どこに行きますか?」


 そう言って、紗夜は明かりを持ち上げ、周りを照らす。

 いくつもの部屋の扉が見えた。

 この全てを探すとなると気が遠くなりそうだ。


「清俊、なんか感じないか?」

「なんかとはなんだ?」

「いや、ほら、妖の気配てきな?」


 樹希にそう言われ、私は少し気配をさぐる。

 妖の気配はするがいたるどころにしていて、どれが探している気配かまではわからない。


「とりあえず進んでみるか」


 そう言って、一番近い部屋に私たちは入った。

 入った先は応接間だった。埃まみれではあったが、豪勢な部屋の作りが見てとれた。


「何年も人が来てないにしては綺麗だな」

「まるで時が止まったようですね」


 そう言って、中に入って周りを見ていた時だった。時計の鐘の音が急になる。

 私が何か言う前に、樹希が驚きの声を上げた。


「な、なんだ時計かよ!驚かせやがって!」


 樹希はそう言い、時計を睨む。それを見ながら、紗夜がぽつりと言う。


「さっきまで止まっていましたが」

「う」


 樹希の顔色が一気に悪くなる。

 大丈夫かと声をかけようとしたその時、足元が不意に引っ張られた。


「っ!?」

「清俊!?」

「足が引っ張られている」


 私が言うやいなや紗夜が霊刀を抜き、振るう。

 刀の刃が何かを貫き、同時に足が引っ張られるのが止んだ。

 と途端に悲鳴のような声が上がる。

 見ればそこには下級の妖の姿があった。

 何か言いかける妖に目もくれず、紗夜は容赦なく刀を振るう。

 そしてそのまま妖は切り裂かれ、闇へと解けた。


「清俊、大丈夫か!?」

「ああ」

「やっぱり、出てくるのが早いな」


 樹希はそう言うと周りを見る。


「本物が出てくるのも時間の問題だな」


 そう言って樹希も刀を抜く。

 あれは下級の妖だ。下級の妖なら命を奪われることはない。

 そうわかっているのに、私の身体は僅かに震えていた。

 そんな私を見て、紗夜は私の元へやってくると手を差し出す。


「清俊様手を。下級の妖なら私の力で近寄らないはずです」

「あ、ああ」


 紗夜にそう言われ、手を握る。

 繋がれた手は暖かかった。

 そんな私たちを見て、樹希は心配そうにしながらも着いてくる。


「次の部屋いけるか?」

「ああ、大丈夫だ」

「じゃあ、行くぞ」


 そう言って、応接間を出て次の部屋の扉を開けた。

 何個そうして扉を開けただろう。

 最初のそれ以来妖がでることはなかったが、妙な気配がずっとつきまとっている気がした。

 それを言えば樹希や紗夜に心配かけるため、あえて言わなかったが先に進めば進むほどその気配は濃くなっている気がした。


「にしても広いな。金持ちの家っていうのは間違いないな」


 樹希がそう言い、次の扉を開ける。と同時に寒気がした。

 思わず紗夜の手を握る力が入る。

 駄目だ入っちゃいけない。

 そう言う前に樹希が中に入り、部屋の中を照らす。


「これは」


 樹希はそれを見て言葉を飲み込んだ。

 樹希の明かりによって照らされたそこには床一面に赤いしみができていた。


「血じゃないよな」

「……わからない。ただ嫌な気がする」

「そりゃあ、これなら俺でも嫌な気がするぞ」


 樹希がそう言ったその時、樹希の後ろに別の気配を感じた。

 思わず息をのむ。

 見ればそこには外人の少女の姿が見えていた。


「女の子」

「は、ば、な、何言って!?」

「いや、さっき、そこに」

「ば、ばか!妖じゃなくて幽霊が見えたとかいうなよ!」


 私の一言に樹希が取り乱す。それを紗夜は冷静に見ている。


「私には見えませんでした」

「そ、そうか」

「やっぱり幽霊じゃないか!」

「その部屋を指さしていたように見えたが」


 少女がさしていた扉を指さす。

 その扉を見て、樹希は情けない声を出した。


「い、行くのか?」

「やめておくか?」

「いや、行くよ、行く。でもちょっと待ってくれ」


 そう言うと樹希は何度か深呼吸し、そしてよしと言うとその扉を開けた。

 樹希が入った後に私と紗夜がそれに続く。

 あれほど嫌な気配が感じていたというのに部屋の中は普通の部屋だった。


「普通の部屋だな」

「ああ」


 そう言ったその時、部屋の扉が急にしまった。

 それに樹希が悲鳴のような声を上げる。

 慌てて紗夜が扉を押したが、扉はびくともしなかった。


「ゆ、幽霊!?」

「いや、妖の場合もあると思うが」

「どっちでもいいよ!」


 樹希がそう言ったその時、紗夜と繋いでいた手とは逆側の手がひかれた。

 驚いてみれば、そこにはさっきいたあの少女がいた。


「清俊様!」


 紗夜の声が聞こえ、紗夜と繋いでいた手が離れた。しかし私は足を止めることが出来なかった。

 少女はぐいぐいとあり得ないぐらいの力で私を引っ張る。

 とそのまま、少女に引っ張られるまま、連れていかれる。

 恐怖はなかった。

 ただ少女の切ないような声だけが聞こえる。


「たすけて」


 確かに少女はそう言っていた。

 何からかはわからない。ただそう言い、私の手を強くひく。

 と気づくと見知らぬ部屋に私は1人立っていた。


「な」


 どこかなんてわからない。

 辺りをいくら見渡してもそこは家具も扉も何もない部屋が広がっていた。

 さっきまで私の手をひいていた少女の姿もなかった。


「清俊様!」


 部屋の壁の向こう側から紗夜の声が聞こえた。

 どうやら壁の向こうに紗夜と樹希がいるようだ。

 声のする方へ駆け寄ろうとしたその時、足が止まった。


「うまそうだ。うまそうな匂いがする」


 すぐそばで声が聞こえた。

 後ろを振り返るとすぐそばに巨大な目玉が見えた。


「みいつけた」


 そう言って、その目玉がにたりと笑った。


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