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16.作戦会議その1


「それで清俊どういうことだ?」


 俺の問いかけに清俊は少し困ったような顔をして言う。


「だから、その、柚月さんと妖を払うことになった」


 その一言に俺は痛む頭を思わず抑える。

 何が柚月さんと妖を払うことになった、だ。

 相変わらず言葉が少ない。肝心な部分を端折りすぎだ。


「どうしてそうなったのかって聞いているんだよ」

「そうだな。何故なったのかは私もよくはわかっていないんだ」


 なんだそれは。

 思わずそう怒鳴り返したいのをぐっと堪える。

 柚月さんというのは京極の一人娘のはずだ。京極柚月。実際に見たことはないが、噂ではそれはそれは美人な娘だと聞いている。


「京極の娘がお前に言ってきたってことか?」

「ああ、妖退治を一緒にしてほしいと」

「お前が妖を払う力をないのを知っていてか?」

「そうだ」

「禁忌妖禄にのっている妖を?」

「そうだな」

「それでお前は断らずに引き受けたのか?」

「そう言うしかなかったんだ」


 清俊の言いたいこともわかる。

 京極家から正式に如月家へ協力を依頼してきたのならそれを公の場で断るわけにはいかないだろう。

 もちろんそれはわかるが。


「何で引き受けるんだよ」


 俺は思わずそう言ってしまった。

 断れないとしてもそこは無理してでも断ってほしかった。


「だいたい、いつもでしゃばってくる狸じじいはどうしたんだよ」

「東雲のおじさんのことか?おじさんは紗夜がいるから大丈夫だと」


 紗夜ちゃんがいるからね。

 俺はその言葉に思わず首をひねる。

 そもそも俺は紗夜ちゃんの実力を見たことがない。鬼の血を継ぐといっていたが、それが妖退治にどれほど役に立つものなのか、全く予想もできない。

 ちらりと紗夜ちゃんの方を見れば、清俊の話を聞いてもとくに表情を変えず、相変わらず淡々としていた。


「紗夜ちゃんはそれでいい訳?」

「いいも何も清俊様が決めたことですから」


 紗夜ちゃんの答えは相変わらず夫婦というよりも使用人の答えだった。

 こんなんで本当に夫婦になれるのかと思って、清俊を見れば、清俊は苦笑していた。

 清俊も思うところがあるのだろう。

 とその時、紗夜ちゃんが付け足すように言う。


「大丈夫です。清俊様は私が守りますから」


 女の子が言う台詞としては勇ましいものだ。

 そう思っているとびくりと清俊の身体が動く。

 見れば、清俊は顔を僅かに赤くさせ、固まっていた。

 本当にわかりやすい奴だ。

 紗夜ちゃんがどう思っているにしろ、清俊は間違いなく紗夜ちゃんのことが好きなのだろう。

 それならなおさら今回は受けるべきじゃなかっただろうに。


「で、いつ行くんだ?」

「え?」

「だから、いつ退治に行くんだ?」


 確認するようにそう尋ねると清俊は驚いたような顔をする。


「樹希、もしかして一緒に行ってくれるのか?」

「当たり前だろう。お前達だけ行かせられるか」


 とはいえ、相手は禁忌妖禄にのっている妖である。

 たかが分家の俺程度の力ではどれほど助けになれるかわからない。

 だというのに清俊は酷くうれしそうな顔をする。


「本当にいいのか?」

「そう言ってる」

「危険だぞ」

「わかってるよ」


 本当は俺だって好きで行きたい訳じゃない。それでも友人とその妻になるかもしれない相手が危険な場所に行くのに、ただ黙ってみている訳にはいかなかった。

 それに、もう一つ俺がついていかなければいけない理由がある。


「だいたいお前、妖退治したことあるのか?」


 俺の問いかけに清俊はすぐにないと即答する。

 当然だ。そもそも妖を払う力をもっていない清俊が妖退治をしたことがあるはずがない。


「紗夜ちゃんは?」

「清俊様を狙ってでてきた妖は払ったことありますが」


 つまり正当な妖退治をしたことは二人ともないのだ。


「なおさら俺がいないとだめだろう」


 俺のその言葉に清俊が首を傾げる。


「妖退治にやり方なんてあるのか?」

「当たり前だろう。ただ行って倒せばいいってもんじゃないんだよ」


 妖退治をしたことがない二人に俺はさっそく説明する。


「いいか、妖退治の基本は妖を見つけるところからだ。最初にまず結界をはる。これは妖を見つけて倒す際に逃がさないようにするためだ。そのあとに妖を探す必要がある」


 これが実は当たり前の様でいて意外と難しい。妖退治の準備を整えていざ退治にいっても倒すべき妖がいくら探しても見つからないなんてことはよくあることだ。


「上級の妖ほど、人に見つからないように姿を隠している。特に妖を払う力をもつ人間に対しては用心深くて、姿を見せることはほぼない」

「出てこないときもあるのか?」

「まあな。その場合は何日間と通ったり、とにかくいろんなところを探したり、妖退治よりもへたするとこっちの方が大変な場合もあるな。まあ、今回の場合は出てこない心配はしなくてもいいかもしれないけどな」

「どういうことだ?」

「清俊がいるからな。妖にとって清俊はごちそうだ。清俊がいるのに出てこないなんてまずあり得ない。おそらく京極もそれが狙いで清俊に協力させたのかもしれないな」


 そう考えれば、納得できる。言わなくてもわかることだが、妖を探す必要がなければ妖退治は間違いなく楽になる。

 とそれまで黙って聞いていた紗夜ちゃんが責めるような目でこちらを見る。


「清俊様を囮にするつもりですか?」


 紗夜ちゃんの顔が怖い。どうやら怒っているようだ。

 俺は苦笑いを浮かべながら、そおっと視線をそらす。

 別に俺が言い出したことじゃない。だから俺を睨むのは頼むからやめてくれ。


「そういうことなら、私は行くだけでも意味がありそうだな」

「そりゃあそうだろう」


 最もそれだけじゃないだろうが。

 そもそも如月家は他の四大名家の家よりも妖の気配を探ることに優れていて、妖の位置を特定することも容易い。霊力も高く、あらゆる分野に応用がきく、器用な家系だ。

 清俊も妖を払う力はないがその霊力は高く、おそらく京極の娘よりも高いだろう。それだけ霊力が高ければ結界を張るだけでも俺が張るよりもより強固な結界が張れる。

 妖が払えないからといって、清俊が妖退治の邪魔になるかと言われれば、その心配はほぼない。

 もちろん当の本人は全くそのことに気づいていないようだが。


「どうした?」

「いや」


 そのことはあえて清俊に言わなかった。

 言えば今後清俊は積極的に妖退治に参加するようになるかもしれない。それは危険だ。妖を払う力がないということは同時に妖から自分を守る術をもたないことを意味するのだから。


「樹希」


 清俊が俺の名前を突然呼ぶ。

 なんだよと返せば清俊は少しだけ照れたように笑う。


「いや、ありがとう」

「なんだよ急に」

「今回のことも、その前のことも」

「私の為に色々してくれて本当にありがとう。感謝している」


 突然の感謝の言葉に思わずむずがゆさを感じて俺は黙り込む。

 感謝なんてされる覚えはない。そもそも俺がしたくてしているだけだ。

 そう言えば、清俊はそうだなと言って、それでも嬉しそうににこにこと笑った。


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