15.四大名家の話し合いその4
話し合いが終わり、どうしたものかと考えていると私の元に東雲のおじさんがすぐにやって来た。
「清俊、大丈夫か?」
先ほどかばうことはなかったが、心配はしてくれているようだ。
その問いかけにはいと答える。
「悪いな。実は京極からお前の力を借りたいと打診があってな」
「京極からですか?」
「ああ」
「ですが、私は妖を払うことは」
「大丈夫だ。お前には紗夜がいる」
東雲のおじさんのその言葉に思わず返す言葉を失う。
たしかにこうなっては紗夜の力は必要不可欠だろう。いくら私でもそうわかる。
しかしそれは同時に紗夜の身を危険にさらすことにもなる。
「お前の身は必ず紗夜が守る。何も心配することはない」
「ですが」
「紗夜はそのためにいるんだ。そうだろう?」
言い淀む私に東雲のおじさんはきっぱりとそう言う。
それに私は何も言えなかった。
その様子を見て、東雲のおじさんはそれにと付け足す。
「今回は紗夜の力を見せつける機会としてもちょうどいい」
「私は紗夜をそのように利用するつもりは」
「清俊、これはお前たちのことを思ってのことなんだ」
東雲のおじさんはそう言うと私の肩に手を置く。
「紗夜の力をある程度の示さなければ、お前たちの婚姻も破断にされかねない。これはお前たちの将来を思ってのことだ」
そうなのだろうか。
しかしそれでも私は紗夜を連れていく事には躊躇いを覚えた。
「そんな顔をするな。禁忌妖禄に載っているとはいえ、今回は京極の娘もいる。京極の娘は妖退治の実力もそれなりにある」
「柚月さんが?」
「ああ、それに京極も勝ち目もないところに自分の娘を送り出したりはしない」
東雲のおじさんはそう言うと言葉を切る。見ると颯真さんが柚月さんとともにこちらにやってくるところだった。
「如月様、今回はご助力ありがとうございます」
そう言って柚月さんは微笑み、丁寧に頭を下げる。それにわずかに違和感を覚えながらも私は頷く。
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるとふと柚月さんが近づき、耳元で囁く。
「そうゆう訳だから。噂のお嫁さんに会えるのを楽しみにしているわ」
柚月さんはそれだけ言うとにこやかな笑みを浮かべ、颯真さんと一緒に立ち去った。その後ろ姿を私は呆然と見る。
まさか、その為だけに紗夜がわざわざ来るように私を妖退治に巻き込んだのだろうか。
柚月さんとは長い付き合いではあるが、個人的な付き合いはそれほど多くなく、その真意は私にはわからなかった。
「清俊、私たちもそろそろ行くぞ」
私の思考を遮るように東雲のおじさんはそう言う。それに私は慌てて頷き、東雲のおじさんの後に続いた。
高杉家の屋敷を出てすぐのことだった。見覚えのある姿を見つけ、私は思わず驚く。
「紗夜?」
驚いて名前を呼べば、屋敷で自分の帰りを待っているはずの紗夜が目の前にいた。
「清俊様、お待ちしておりました」
「なぜここに?屋敷で待っているはずじゃ」
「約束どおり、話し合いの場には伺いませんでした」
確かにそうだが。
思わず返す言葉が思いつかない私に東雲のおじさんは笑う。
「まあ、いいじゃないか」
東雲のおじさんはそう言うと紗夜の方を見る。
「紗夜がいれば帰りはいいな。気を付けて帰るんだぞ」
東雲のおじさんはそう言うと葉月さんを引き連れて先に行く。それを私と紗夜は見送った。
見送った後、私は紗夜へ向き直る。
「それじゃあ、帰るか」
紗夜に促すようにそう言うと私は歩き出す。紗夜はすぐ後ろをついてきた。
「話し合いはどうでしたか?」
「ああ、そうだな」
先ほど決まったことをどう言い出せば言いだろうか。
そう思って、悩んでいると紗夜が何故か心配そうな顔をする。
「清俊様、どうかされましたか?」
「え?」
「先ほどから難しいお顔をされていますが」
「ああ、いや」
ごまかそうとしたが当然ながらそれでは紗夜は納得しなかった。私の顔を黙って見てくる。それに耐えきれず、私は何でもないことの様に今日あったことを紗夜に話すことにした。
「今度の禁忌妖禄の妖退治に私も参加することになった」
「そうですか」
紗夜は別に驚かなかった。
ただ淡々とそう返す。
それに違和感を覚えながらも私は続きを言う。
「それでなんだが、紗夜には屋敷を任せたくて」
そう言いかけた時、紗夜の足が止まった。
「清俊様」
いつもよりも私を呼ぶその声が低い。どうやら怒っているようだ。
思わず姿勢を正す。
「は、はい」
「今、なんて仰いました?」
「だから紗夜には屋敷を」
紗夜の目がきつくなる。
やはり怒っている。
「紗夜?」
「清俊様がいかれるなら私も行きます」
「だが」
「清俊様」
言いかけた言葉を遮るように名前を呼ばれ、私は思わず黙る。
恐る恐る紗夜を見ると紗夜は真っすぐと私の方を見ていた。
「私は清俊様を守る為に存在するんです。貴方が危険なときにどうしてお傍を離れられるでしょうか」
「それは」
その気持ちはたしかに嬉しい。だが、それでも紗夜の身を危険にさらすことはどうしても私には出来なかった。
「禁忌妖禄の妖だ。危険な戦いになるかもしれない」
「なおさら、ついて行きますが」
「紗夜に怪我でもされたら、私は」
紗夜の身になにかあれば私はそれこそ自分を責めずにはいられないだろう。
そう思った時、清俊様と先ほどよりは幾分か優し気な声で紗夜が私の名前を呼んだ。
「私は大丈夫です」
紗夜は真っすぐと私の目を見ながらきっぱりとそう言った。
「私は人ではないのです。そう簡単に死にません。それは清俊様が一番わかっているはずですが」
鬼の血を継ぐ者。それがどういうことかもちろん私はわかっている。
わかっているがそれでも、どうしても好きな相手を危険なめには合わせたくなかった。
「紗夜、私は」
「清俊様」
紗夜は私の名前呼び、そしてほんの少しだけ笑った。
「清俊様が私に怪我をしてほしくないように清俊様の身になにかあれば私は自分で自分を許せません。清俊様を守るのは私の役目ですから」
そう言って、紗夜は笑ったまま私を見つめる。
「一緒に行きます」
例え何があったとしても。
そう言われ、私は思わず苦笑する。
そうまで言われてしまえば、もう私に言えることなど何もなかった。
ここで私が何を言っても紗夜は一緒にくるだろう。紗夜はそういう子だ。その意思の強いところが紗夜のいいところであり、私が最も惹かれているところでもあった。
ここまで思われているのだ。それなら、私も覚悟をきめるしかない。
「紗夜。頼みがある」
私がそう言うと紗夜ははいと言い、答える。
「私を守ってくれるか?」
何とも情けないお願いだった。しかしそれに紗夜は呆れることなく、笑みを浮かべ、頷く。
「はい。清俊様は私が守ります」
そう言われて、正直ほっとした。紗夜が傍にいてくれる。そう思うだけでも不安が幾分か和らぐことができた。
止まっていた足を動かし、紗夜は私の隣に来る。
どうしたのか見ていると紗夜がそっと手を差し出す。
「紗夜?」
「手つなぎますか?」
「なっ、なんで!?」
「いえ、前回手をつないだら喜んでおられたので」
突然の紗夜のそれに私は思わず慌てる。紗夜はそれを不思議そうに見る。
「嫌ならいいですが」
「い、嫌じゃない!」
私はそう言うと差し出された紗夜の手に自分の手を滑り込ませる。
ずっと外で待っていた為だろうか、繋がれたその手は少し冷たく感じられた。
ただ手を繋いだだけだ。それでも私の胸はやかましく鳴っていた。
「それじゃあ、帰るか」
平静を装いつつ、そう言う。それに紗夜ははいと頷き、私たちは手を繋いだまま帰路についた。




