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14.四大名家の話し合いその3


 柚月さんに連れられ、話し合いの会場に着くとそこには既に人々が集まっていた。

 一番前に座っているのは本日の進行を務める高杉家の人間達だろう。

 その向かい側には四大名家の面々が座っていた。

 一番上座には東雲のおじさんが座る。その横に京極颯真さんが、その横に鳳条家当主である鳳条孝則さんが、そしてその横の席が私の席だった。

 私は頭を下げ、空いている自分の席に座る。

 柚月さんは颯真さんの後ろの席に座った。

 辺りをちらりと見たが会場の中に麗華さんの姿はなかった。


「それではこれより話し合いを始めさせて頂きます」


 高杉家の当主と思われる男性がそう言い、話し合いが始まった。

 四大名家を中心に行われる話し合いの議題は概ね妖退治のことになる。下等の弱い妖については分家を中心に退治していくが上級のより強い妖になればなるほど四大名家の、本家の人間が妖退治を行うことになる。

 特に禁忌妖禄と呼ばれる目録に載っている上級の妖は帝より直々に妖退治を依頼されたもので、そのほとんどを本家の人間が討伐することになっていた。

 とはいえ、私が当主を務める如月家は、今は妖を払う力をもたない為、妖退治を行うことが出来ない。

 そして代を重ねるごとに霊力が下がっているという話が本当なのかわからないが、鳳条家はここ最近、なにかと理屈をこねては妖退治を避けている。

 よって現在妖退治を引き受けているのは京極家と東雲家が主だが、戦力的な問題もあり、その多くは東雲家が担当していた。それにより四大名家の中でも東雲家の権力はより強く、その当主である東雲のおじさんは皆に敬られる立場であった。

 話し合いは高杉家の当主、主導のもとに順調に進んだ。

 今回は上級の妖は少なく、ほとんどを分家に割り振ることができた。更に残った上級の妖もいつも通り、東雲家が担当することになった。

 概ね話が進んだところで高杉家の当主があるものを取り出す。それは帝から直々に送られた妖退治の依頼だ。それを広げるとそれではと声を張り上げる。


「最後に禁忌妖禄に載っている妖についての話し合いたいと思います」


 高杉家当主のその一言にその場の空気が僅かに変わった。どこか重い、ぴりぴりと肌を刺すような緊張感がその場を包む。

 禁忌妖禄にのる妖は四大名家の実力者さえ手をやく、恐るべき存在の妖達だ。妖退治は危険と隣り合わせで、時には命を奪われることだってある。

 現に四大名家の人間でも妖退治に失敗し命を落としたものが多くいる。

 そう思うと自然と手が震えた。


「話し合いも何ももう結果は決まっているだろう」


 緊張に包まれた空気を裂くような声が聞こえた。

 見ると鳳条家当主、鳳条孝則さんが前に進み出ていた。


「どうせ今回も東雲がするんだろう。なあ、東雲じいさん」


 孝則さんのその言葉に東雲のおじさんは笑う。

 禁忌妖禄に載っているような妖を退治するにはそれなりの実力が求められる。当然、そうなれば四大名家の中でももっとも立場が強く安定している東雲が担当することが多かった。


「なんだ?文句があるなら、鳳条に譲ってもいいんだぞ?」

「は、冗談いうな」


 孝則さんは吐き捨てる様にそう言う。

 その態度からはやりたいとはみじんも思っていないようだ。

 東雲のおじさんはそれを見て、ふむと顎を抑える。


「まあ、今回も東雲がやっても良いんだがな、今回は辞退させて頂こう」

「なんだと?」


 その申し出にはさすがに私も驚いた。

 禁忌妖禄に載っている妖を退治するということは帝の命に従うことであり、その功績により、賛辞を受けることもできる。それをわかっているから、東雲家は禁忌妖禄の妖退治の際はいつも先頭にたって妖を退治してきた。それがまさか妖退治を辞退すると東雲自らから言い出すなんて、誰が思っただろうか。


「じゃあ、どうするんだよ。いったいどこが退治するっていうんだ」

「京極がやりますよ」


 孝則さんのその言葉に颯真さんが答える。

 一気にみんなの視界が颯真さんへと集まる。それに怯むことなく堂々とした様子で颯真さんが前に出る。


「今回はお許しが頂けるのであれば京極がやらせてもらいたのだが」

「はあ、お前さんがやるっていうのか?」


 孝則さんは納得いかなさそうにそう言う。それに颯真さんがにこやかに答える。


「いえ、ぜひとも娘にさせて頂きたいと思いまして」

「娘だと」


 思わず柚月さんの方へ視線をやる。突然のそれに柚月さんは表情を変えることなく、静かに聞いていた。


「いいな、柚月」

「お父様のご命令とあらば」


 颯真さんのその一言に柚月さんはそう言い頭を下げる。

 今まででも京極家が妖退治をすることはたしかにあった。だがそのほとんどは孝則さんが中心になり妖退治していたはずだ。

 今回のように柚月さんが名指しされ、退治することは今までなかった。


「は、娘に妖退治をさせるとは京極の跡取り不足もいよいよ深刻だな」


 孝則さんはそう言うとあざ笑うかのように笑う。

 京極家は数年前、妖退治で跡取りであった息子を亡くした。現在、京極の跡取りになりえるのは柚月さんのみだった。

 孝則さんのわかりやすい挑発に颯真さんは静かに笑って答える。


「なに、私の娘は妖祓いでも優秀でして。鳳条のとこの容姿だけがとりえの娘とは違うのですよ」

「なんだと」


 おそらく麗華さんのことを指して言っているのだろ。

 颯真さんのその言葉に孝則さんは身を乗り出す。それに颯真さんはにこやかな顔をしながらも引かない。

 その様子を見て東雲のおじさんが呆れたような声を出した。


「おいおい、ここはけんかする場じゃないぞ」


 東雲のおじさんのその一言で颯真さんはすぐに申し訳ありませんと謝った。孝則さんもさすがに東雲のおじさんに盾つくようなことはせず、黙ってそれに従う。

 それを見て東雲のおじさんは満足そうにし、それから柚月さんの方を見る。


「柚月は本当にそれでいいんだな?」

「はい」


 柚月さんは頷く。しかしすぐに不安そうな顔を作る。


「ですが私はまだまだ若輩者です。一人では少々心細く感じます」

「ほお、そうか。東雲から誰か出すか?」

「いえ、もしも可能であるならば如月様のご助力を頂きたいと思います」

「え?」


 突然名前を呼ばれ、私は思わず声を出す。

 驚いて柚月さんを見ると柚月さんはにこやかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「どうでしょう?如月様にご助力頂けないでしょうか?」

「私に妖を払う力は」


 ない。そう言いかけたがそれよりも前に颯真さんが身を乗り出して言う。


「それはいい。ぜひ如月様にお力ぞい頂ければと思いますがどうでしょうか?」

「あの、私は」

「如月家も四大名家のひとつ。禁忌妖禄の妖退治にぜひとも力をお貸し頂きたい」


 颯真さんはまるで私の逃げ口をふさぐようにそう言う。この状態で断ることは難しい。

 普段なら私をかばってくれる東雲のおじさんも今回は何故か何も言わずに聞いているだけだ。


「おいおい、如月には無理だろう。妖を払うことができないんだぞ」


 さすがに見かねたのか孝則さんがそう言う。

 それに颯真さんが笑って答える。


「如月様の実力があれば妖を払えずとも娘の助力になるでしょう」


 颯真さんは再度こちらを見て言う。


「どうでしょうか?如月様、ぜひとも娘に力をお貸し頂きたいのですが」


 そうまで言われれば断ることなどできるはずがなかった。

 私は意を決するとその言葉に頷く。


「わかりました。微量ながらお力添え致しましょう」


 そう言うしかなかった。

 私のその言葉を最後に話がまとまったと判断したのか高杉家の当主がしめる。


「それでは本日の話し合いはこれで終了とさせて頂きます」


 それと同時に、高杉家の面々が頭を下げる。

 こうして四大名家の話し合いは終わった。


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