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12.四大名家の話し合いその1

 

 私が出かける支度を整え、玄関に向かうとそこには既に紗夜の姿があった。

 紗夜は私が来たことに気づくと何か言いたげな顔をする。

 それに私は苦笑する。


「紗夜、そんな顔をしなくても大丈夫だ」


 今日は四大名家の話し合いが行われる日である。当初の予定通り、今日は東雲家の当主でもある東雲大吾様と一緒に行くことになっていた。ついさっき迎えがきたばかりなのだが、出かける直前になってもまだ紗夜はどこか納得していないようだった。

 とはいえ、納得いかなくてもそのことを訴えることはない。


「じゃあ、行ってくる」


 私は出来るだけ明るめに声を出す。それに紗夜はぴくりと反応する。

 私の方をしばらく見てから紗夜はゆっくりと頭を下げた。


「行ってらっしゃいませ」


 紗夜に見送られながら屋敷を跡にする。

 なんとなく後ろ髪を引かれる思いで、何度も何度もつい振り返ってしまい、足は自然と遅くなる。

 出かけることの億劫さから、いっそこのまま屋敷に居たいという思いにかられる。それでも重くなる足をなんとか動かすと屋敷の外に出た。

 屋敷の入り口には東雲おじさんと護衛の葉月さんが待っていた。


「お待たせして申し訳ありません」


 私が頭を下げると東雲のおじさんは笑って、大丈夫だと言う。


「そんなに待ってないよ。なあ、葉月」


 そう言って、東雲のおじさんは葉月さんの方を見る。葉月さんはそれに頷いた。

 紗夜の刀や体術の師匠でもあるからかなんとなく葉月さんの雰囲気は紗夜に似ている。

 紗夜が出かける時と同じように葉月さんもまた刀を常に腰に下げていた。

 背は私よりも少し高い程度だが、羨ましいほど引き締まった鍛えた身体をしている。

 護衛としても優秀であの東雲のおじさんが重宝している程だ。


「無事、紗夜は置いてこられたかな」


 東雲のおじさんは少しからかうようにそう言う。それに私は苦笑いしながら頷く。

 ふと後ろを振り向く。

 紗夜はまだこちらを見ていた。

 その顔は無表情だが、なんとなく心配していることがわかった。


「紗夜は護衛として優秀そうでよかったよ」


 そんな紗夜の様子を見てか、東雲のおじさんはそう言う。

 それに私は頷く。

 確かに紗夜は優秀な護衛だ。私がどこに行こうと文句ひとつ言わずについてきてくれるし、何かあれば身を挺して守ってくれる。

 そうまでして貰って嬉しく思わないわけではない。とはいえ、それは同時に情けないことでもある。

 紗夜はそのことを別に何とも思っていないようだが、やはり男として守られるよりも守りたいというのが心情だ。


「そろそろ行こうか」


 東雲のおじさんはそう言うと先に歩き出す。その後に私が続き、その更に後に葉月さんが続いた。


「清俊」


 ふと東雲のおじさんが私の名前を呼び振り向く。それに私はどうしましたかと返す。


「紗夜はどうだね?嫁として申し分がないだろう?」

「はい」


 前の話の続きをするつもりだろうか。東雲のおじさんの問いかけに私は頷く。


「紗夜はとても優秀です。護衛としても嫁としても」


 それに対して不満はない。

 もしあるとすれば。


「その、もう少し自分の気持ちを考えてほしいとは思いますが」


 私のその言葉に東雲のおじさんはそうかと言い、少し遠くを見る。


「確かに紗夜は少し感情が薄いところがあるかもしれないな。特に他人への感情にはね」


 東雲のおじさんの言う通りだった。紗夜は基本的に感情に乏しい。彼女の生い立ちを考えれば仕方ないことかもしれない。

 紗夜は自分のこともそうだが他人に対しての感情も薄い。その紗夜があれだけ私のことを思ってくれているのだからそれだけでよしとするべきなのかもしれない。


「これは私の我儘です。紗夜に私のことを好きだと思ってほしい。私との結婚自体、私の為に行うようなものです。だからせめて結婚する時は紗夜と思いが通じ合ってからがいい。そう思っています」


 私の言葉に東雲のおじさんは何も言わなかった。

 しばらくしてふむと言い、顎を撫でる。


「なるほど。それが、紗夜との結婚を伸ばす理由だと」

「ええ」

「清俊」


 東雲のおじさんが私の名前を呼び、少しだけ振り返る。それに私は見返す。


「忘れてはいけない。紗夜は人ではない、鬼の血を継ぐものだ」


 突然言われたそれに私は思わず口を閉じる。知っている。紗夜は鬼の血を継いでいる。そのために私と結婚を結ぶのだから忘れるはずがない。だというのに東雲のおじさんはそう言い、何かを諭すように言う。


「清俊は鬼がどうして滅んだか知っているかね」

「いえ」


 その昔、妖よりも人よりも強いとされた鬼。しかし純粋な鬼は今ではすべて滅んだとされている。

 どうしてかは私も知らない。


「その昔、この世に鬼は8人いたらしい。人も妖をも超える存在。誰もが畏怖し、恐れおののいた。ところがある日、8人のうち1人の鬼が人間の娘に恋をした」

「え?」


 あまりの事実に思わず声が出る。それに東雲のおじさんは気にせず、話を続ける。


「それを許せなかった他の7人の鬼達が娘を食らおうとした。そこで鬼は娘を守る為、同族の鬼7人をその手で殺した。7人の鬼を倒し最後の鬼となった8人目の鬼だったが深手を負い、それからまもなくして死んだ。こうして鬼達は滅びた。唯一残されたのはその娘のお腹に残された人間と鬼の子供だけだ」


 全て話し終えると東雲のおじさんは黙り込む。

 私も思わず黙る。

 初めて聞く話だった。もしそうだとしたらあれほど強いとされていた鬼が滅んだのも納得できるかもしれない。

 とはいえ、鬼が恋など、おとぎ話のようにも聞こえる。


「それは事実なんですか?」


 私の問いかけに東雲のおじさんは笑う。


「さあな?昔の本にそう書かれていただけで本当かどうかなんて私にもわからない」


 だがなと言い、東雲のおじさんは続ける。


「清俊、わかるだろう。鬼の愛はそれだけ一途だ。たった一人の為に他の同族全員をその手で滅ぼすほどに。人には理解しえないほどの思いがそこにはある。紗夜は鬼の血を継いでいるからという訳ではないが、あの子もある意味その思いは純粋で、一途だ。それこそ清俊があらゆるものを敵に回しても、あの子は清俊を守ろうとするだろう」


 東雲のおじさんのその言葉に私は押し黙る。おそらくその通りだろう。

 もしも私が世界の全てを敵にしたとしても紗夜だけは私の味方でいて、私を守ろうとしてくれるに違いない。


「清俊が望むものとは違うかもしれないが、そういった愛も存在するんだよ。それを理解してあげないといけない」


 東雲のおじさんはそう言うと足を止めた。

 つられて、私も足を止める。

 どうしたのかと見ると目の前には目的地である、高杉家の屋敷があった。


「さて、話はここまでだ。ついたぞ」


 東雲のおじさんはそう言うと門へと向かう。そこには高杉家の人間と思われる人たちが既にいた。


「如月様、東雲様、ようこそお越しいただきました」


 おそらく高杉家の使用人だろう。私と東雲のおじさんを見ると深々と頭を下げる。


「ご案内いたします」


 そう言って、使用人の後に続き、東雲のおじさんと私は続く。その後ろに葉月さんが続いた。


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