獣人の街
家に戻りトイレを済ませて水分補給、その後は軽くストレッチしてから家の裏手でジョギングしていると伝達さんから報告、商隊が街に入り商業組合に許可証発行手続きをしたと報告がきたので千里眼さんの所に行き視界投影をしてもらう。右斜め後ろには豹頭の予言者さんがいる、獣人の街なので解説が必要だったりするかもしれないため念の為だ。
街に入った商隊は商業組合に露店を出す許可を取ってから組合の厩舎で馬と馬車を預かってもらい、馬番として槍持ちの兵士2人が残る事になった。その後は武具を扱っている店に素材を売る班と露店で食材を売る班に別れて行動する事になった。積荷は素材がメインなのでそちらの人員が多くなる。露店で食材を売る班は商人1人と剣持ち兵士2人、それから兎と鹿の獣人の予言者とアイン&アストリアだ。素材班は馬車3台分の素材を武具屋まで持って行く。この際全ての素材を同じ店に持って行くのではなく3等分して3つの店に売る事にした。ぶっちゃけ値段はどうでもいいし、初めての街なんだから『この店じゃないと嫌だ!』みたいなこだわりは当然無いので、単純にどの店がどれくらいの値段で買ってくれるのか調べるのと、伝達さん経由で店の人間を直接覗いて誠実な人物かどうかを調べたり、現在の経営状況を調べるつもりである。経営状況が悪いなら安く素材を仕入れてもらって経営改善に繋がれば良いなぁという程度のものだが。それぞれ商人1人と兵士2人の構成で、商人が1箱・兵士が2箱ずつ素材を持って行く。
余談だが組合で対応してくれた受付は毛が柔らかそうな小柄で赤毛の狸獣人だった、可愛かった。
少し経ち、出店許可を得た場所に露店を出し商売を始める。武具屋の方は一番近い店でもまだ少しかかるようだ。千里眼さんと伝達さん、それから現場にいる偵察梟の3者のおかげで現場の音も聞こえる。露店の食材は面倒くさいのでひたすら安さ勝負で売るだけだ、時間かけたくないしね。嗅覚の良い獣人達からすればはるばる外から持ってきたとは思えない新鮮な野菜や果物の匂いがするらしく、疑問に思いつつ手に取って匂いを確かめて買っていく人達がいてそれなりの出だしになった。
最初に買っていったのは見るからにしっとりつやつや~な毛並みをした黄色い目で灰色毛の猫獣人だった、触りたい!。次に買っていったのはモコモコな毛をした羊獣人、モフりてぇ!。次は背が高くサラサラな毛並みをした茶色の犬獣人、どれくらいすんなりブラシ通るか試させろ!次にきたのは象獣人、デッカ!3メートルはある!
象にはあまり食指が動かなかったので少し冷静になり、投影されている視界を広く見る。やはり色んな種類の獣人がいる、犬・猫・熊・羊・狸・象・兎・鹿・ゴリラ・・・見える範囲でもこれだけいるが・・・もし番になる時同じ種族じゃないといけないとしたらこれ相手見つけるの逆に難しくね?それに象だけほんとデカイ、熊獣人だって2メートルくらいなのに頭一つ分どころの差じゃないし・・・いや破壊神様がそういう風に認識するよう設定しただけで実際はそんなに差が無い可能性?・・・これは考えてもわからんか・・・そもそもどういう範囲で認識に補正かかってるかようわからんし・・・
少し考え込む
「私が見えるものでも主様とそんなに大きくは変わりませんよ、象獣人はたしかにあの身長です」
右斜め後ろから声がかかった、豹頭の予言者さんだ。そちらの方を向きながら喋る。
「ん?・・・ああそうか、俺は認識補正かかってるけどカードの皆はかかってないんだもんね。ていうか何?伝達さんから俺の思考リアルタイム中継でもされてるの?割といつもくだらない事ばかり考えてるんだけど」
「伝達殿から連絡がくるのは我々の誰かが答えられる範囲の事だけですので御心配無く、後番になるのはたしかに同じ種族同士だけですけど、基本的に獣人はどの種族も多産ですし種族毎に集まりながら暮らしていますので相手探しはそうそう困る事も無いようですよ」
「そういうもんか」
「主様、1隊目が武具屋に到着しましたよ」
「ん」
投影されている視界に視線を戻すと別の商人さんの視界になっていた。店番をしているのは狐獣人だ。なんか青緑色の毛色をしていて少し不健康に見える、あまり触りたくない。
「いらっしゃいませ~!」
毛色の印象とは違い元気でハキハキした声、どうやら少年のようで父親を呼びに裏へ行きすぐに父親を連れて戻ってくる、父親は細長い感じの狐獣人で毛色は濃緑だった。母親は青いのかな?
商人さんが5箱ある素材を見せてすぐに商談に入る、狐店主が素材を調べて「この素材量ですと」、と値段を言うのでそれで売る。狐店主は少し驚いたようだがすぐにお金を払ったので3人は店を出る・・・調べる・・・
(あの値段で即決?相場の7割程なのに?相場を知らない?粗悪品?いや匂いからしてそうは思えない・・・つまり・・・あの値段で売っても問題ない程余ってて持て余してる?もう少し高値で買った方が次に繋がったか?・・・いや・・・どちらかと言えば金持ちの道楽みたいな臭いがするな・・・さっさと作って軍に売りつけるか・・・と考えていますね。2隊目が店に入ります。)
次の店は犬獣人が店ば ハスキー系の子犬だ可愛い!こちらも親を呼んで来 静観で凜々しい顔つきしてる!服とエプロンの上からでもわかる筋肉!良い男犬獣人の見本!
・・・興奮していたら商談が終わっていた。調べる。
(相場の7割で売る?・・・てか素材は基本的に組合・・・今は軍がいるから武器はすぐに売れるから助かるが・・・まぁ女房の作った借金返済の足しになるなら良いか・・・と考えています)
「借金・・・ああいや、今の人が言った・・・思った組合って?」
「彼等の場合は鍛冶組合ですね、あの街の鍛冶屋は基本的に鍛冶組合で素材を買うみたいですよ、店主2名の7割というのは鍛冶組合の値段が基準ですね」
「そんな組合があるならそっちに売らないとまずくなかった?大丈夫?」
「素材は組合だけが買い取るといった取り決めがあるわけではないので大丈夫ですよ、3隊目はその組合に売りに行っています」
予言者さんの言葉を聞いて3隊目が組合につくまで露店の視界を見ていたら商品がそろそろ完売しそうな感じだ、少し待つと鍛冶組合に付いたようで投影された視界が変わり受付が見える、狐青っ!あの受付さっきの緑の嫁じゃね!?と驚いて見ていたらいつの間にか獣人が増えていて商談が終わっている。査定をしたのは象獣人のようだ。調べる。
(・・・今日の晩御飯チーちゃん何作ってるかなぁ~・・・と考えています)
値段わからねっ!チーちゃん誰!?
「組合の方が少し高い値段で買い取ってくれてましたよ、店主達の思考から考えるとおそらく8割といった所かと、チーちゃんは娘をそう呼んでるようですね」
「つまり組合は80円で買ったものを100円で売ってる感じと」
「いえ基本的には100円で買っているんですよ、我々が値段交渉をして引き上げていないからその額になっているだけです」
「ああ、そういやそうか、時間かけたくないから即決してるもんね」
「それとここは組合といっても鍛冶職人達の情報の交換所や溜まり場、それから素材の保管庫のような扱いになっているようですよ、素材も100円で仕入れ100円で売るというのが基本のようです。経営が苦しい所には少し値段を融通して素材を売ったりもしているようです、それに出来たのもそう古くないので組合と言いつつ奥まった場所にありますし建物も大きくありません、組合の運営費用は年会費から出ているようです、それと受付や査定官も鍛冶職達の持ち回りで行なっているようです」
「ふ~ん」
(主様・・・え~と多分緊急かと・・・すぐに露店の方の視界を御覧頂きたく・・・)
歯切れの悪い伝達さんの声を聞くと投影される視界が変わる、今回は露店を斜め上から見てるので偵察梟の視界だとわかる。その視界には跪きながらうちの兎獣人さんの手を取る知らない兎獣人が見える。