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第5話 ピリリとスパイシーな毒入りクッキー作り

 レンガ作りの窯に鉄の扉がついたオーブン。沢山の調味料が入った大きな棚。

 種類豊富な調理器具。作業をする大きな木製テーブル。


 イメルダは、いつ見ても立派なキッチンだと感心した。

 今日は母の勧めで月に一度通っている料理教室の日だ。


 イメルダの今日の服は、白の布のドレスに赤いリボンのついた、いつもよりシンプルなドレスだ。その上から小花柄のエプロンを身につけている。


頭には髪の毛が入らないように、白い布を三角頭巾にして被っている。


「お嬢様、本日はクッキーを作りましょう」


 焦茶色の髪を高く結い、目元に泣きぼくろがある女性は、微笑みながらイメルダに言った。

彼女はお料理教室を開いているメラン・マギサ先生だ。


「クッキー……丁度いいですわ」


イメルダは顔に影を落とし、不適に笑う。


 先月のザーグベルト王子に婚約破棄を言い渡した際、自分を愛していると言いながら、セイラに心を動かしているのを見て、イメルダは我慢がならなかったのだ。


 イメルダとの婚約破棄の拒否をザーグベルト王子はし続けるのだが、舞踏会ではセイラと王子の婚約が発表される。


 その舞踏会の直前にザーグベルト王子はもう一度だけ話し合おうと、この後に及んで手紙で伝えてきた。


 往生際の悪い男。セイラとわたくしどちらにもいい顔をして。

 それならば、いっそ会う時に王子を毒殺でもしてやろうと、イメルダは暗殺計画を企てたのだ――。


 今日作るクッキーは持ち運び易く、毒を染み込ませやすいだろう。王子に食べさせてあげるわ!


 大きな木製のテーブルの上で、ボウルにバターと砂糖を入れて泡立て器で混ぜる。砂糖がバターと混ざり、ザラザラした感触がイメルダの手に伝わってきた。


「メラン先生、本当にこんなザラザラしたものが、サクサクのクッキーになりますの?」


「はい、ご安心ください。なりますよ」


 イメルダは、女性が嗜む様な趣味を好まない。刺繍はすぐに飽き、母マリアとのピアノも嫌々弾いている。

 父のボザックに似たのか、乗馬や狩りが好きなのだ。


 だがそんなイメルダも、メラン先生との料理は好きだった。


「次はボウルに少しずつとき卵を加えていきましょう」


 メラン先生の指示で、イメルダは籠に入った卵を手に取り、別の小さなボウルに破り入れようとする。

 しかし加減が分からず、卵を思い切り机に叩きつけ、粉々になった残骸が手に残り、白い殻と中身がどろりとボウルに落ちた。


「先生、卵が上手に割れませんわ……」


「あらあら、この卵ったら。ちゃんと割れないのはとっても悪い子ね! それでは先生が割ってみます。良く見ていてくださいまし」


 メラン先生は不器用なイメルダを呆れる事も、笑う事もしない。優しくフォローしてくれるのだ。

 度々プライドが高すぎるイメルダも、このお陰で苛立つことも無く料理という趣味を楽しむことができた。


 先生のフォローのお陰か、クッキーは無事にオーブンに入れる工程まで進み、後は焼き上がりを待つだけとなる。


 焼けるのを待つ間、片付けをしているとメラン先生がイメルダに話しかけてきた。


「イメルダお嬢様、次の教室で作るお料理は何にいたしましょう?」


 イメルダは作りたい物を考えた。


 ――どうせなら誰かの喜ぶ物を作りたい。

 ……そうだ、ロイクはいつも私の作った料理を味見してもらっている。


 イメルダは時には派手に失敗した料理も食べさせており、ロイクには可哀想な事をさせていた自覚があった。


だから、ロイクの好物シュトレンを作ってあげたい……。


「シュトレンがいいですわ!」


 つい大きな声で言ってしまったが、キッチンの外で待っているロイクには聞こえていないだろうか。 そうイメルダは心配になり、慌てて声を小さくする。


「……その、執事のロイクには内緒で作りたいです。シュトレンはロイクの好物なのですよ」


 シュトレンはドライフルーツなどを練り込んだ甘い菓子パンだ。見た目は焼き上がった平たいパンに近いケーキの様な物で、上に沢山の粉砂糖がかかっている。


「まぁ、イメルダお嬢様はお優しい。簡単にできるレシピを考えておきます!」


 片付けが終わる頃、辺りにクッキーが焼き上がった甘い香りが漂う。

 まだ毒は入れていないが、ザーグベルト王子に早く食べさせたいと、イメルダは気持ちが昂る。


 そして私の受けた心の傷と同じ様に、苦しむがいいわ――

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