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カノジョとカレシ

初デートとクソダサ私服カレシ

作者: Wana-wana

私こと、佐伯加奈のカレシである伊豆野卓也という男は、モテそうな要素が揃っている。

まず、容姿が整っている。性格だってすこし世話を焼きたがるところもあるが、優しさの範疇に収まる。運動もそれなりにこなすし、身長だって(私はこだわらないが)平均以上の高さがある。無論、完璧超人などではなく猫舌とか朝に弱いとかそんなところもあるけれど、それくらいは恋する乙女フィルターならば可愛いと変換されるだけだろう。なんせ、顔が良いから。

実際モテた、らしい。大学生になるまではというただしつきだが。

ところで話が変わるが、日本の学校には制服という文化がある。それには、一目で所属が分かるようにするとか、仲間意識を持たせるとか、色々と役割があるのだが、一部の生徒には違う意味があると思うのだ。

それすなわち、いちいち服を考えなくても良いということと、センスのなさが覆い隠されるという、衣服に興味のない生徒にとっては絶大なメリットが。まあつまり、


「なあ、卓也」

「どうかした?」

「お前、高校生に戻らないか?」

「ちょっとなに言ってるか分からない」


卓也の今日の服装は、ズボンは高校時代の体操服で、Tシャツは無地の白いよれよれの良く分からない奴だ。多分、ゼッケンを剥がした体操服だ。

こいつは、この服で電車に乗ってわたしのうちまで来てくれたらしい。TPOの概念は、こいつにはないのだろうか。そう、なにを隠そうこの男はクソダサ私服なのだ。

私のことを可愛そうなものを見るような目で見つめてきたので、私は卓也をごみを見るような目で見つめ返した。


「提案というか、命令なんだが」

「拒否する」

「この件については、拒否権はお前にない。服を買いに行くぞ」


私はこいつのカノジョなのだから、口出ししても許されるはずだ。本人にこだわりがあって着ているならともかく、興味がないためにせっかくの素材を殺すのはもったいなさすぎる。あと、公共の場に、よれよれの体操服を着ていくような成人男性はもはや公害だと思うのだ。


「えー?」

「だめか?」


最近、気づいたのだが、卓也は押しに弱い。だから、こういう風にお願いすれば、


「う……加奈さあ、それわざと?」

「何のことだ?」


私には、別にやましいところはない。というか、本当にお願いしているだけなんだけど。


「あー、うん。加奈だもんね……」

「どういう意味だ?それで、どうだ?」

「今日これからは、嫌だから来週で……」


やった。

そう言うわけで、来週末の予定は決定した。


楽しみがあると、時が過ぎるのはあっという間だ。


「あぁ、朝か……」


そんなこんなで、週末がやってきた。昨夜は、遅くまでP値が言うことを聞いてくれなくて、一生数式をいじっていた。おのれ、統計学……。

さて、一通り恨みははいたので、支度をしなければ。

適当に朝食を食べて、鏡の前に立つ。

せっかくだし、髪はすこし巻こうか。そんなことを考えながら、鏡の中の私の口元は綻んでいる。あいつと出掛けるのに、何故こんなにもワクワクしているんだろうか。すこし考えて、答えが出る。


「そうか、初デートだ」


そうなのだ。あいつのカノジョに、なってから初めてのお出掛けだ。

嫌が応にも、思い知ってしまう。

私は、あいつが、卓也が好きなのだと。


「気合い入れよう」


あいつのために。



◇◇◇

待ち合わせ。予想通り、あいつの方が先に来ている。こういうところは外さないのだ。つくづく服装以外は、欠点のない男だと思う。


「待たせた」

「待ってないよ……うん、可愛い」


期待していた言葉をさらりとくれる。嬉しいけれど、腹が立つ。なので、手を繋ぐふりをして、思いっきり握った。


「照れてる?」

「分かってるなら口にするな」


今日も今日とて、卓也の私服はクソダサい。私はそんな世界一愛しいカレシの腕にするりと自分の腕を絡める。


「じゃあ、行くぞ」

「はいはい」


今日は間違いなく良い日になる。

私は、カレシの横顔を覗き込みながらそんなことを思った。

「だめか?」上目遣い(一コンボ)袖掴み(二コンボ)ギャップ(三コンボ)

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