9.皆思うところがありました。
夜、サタンは書斎で書類の整理を行っていた。家令のリュカがその傍らにおり、部屋の端にはマリーが控えていた。
「リュカ、これで終わりですか?」
「はい。以上です」
「そうですか。今日は多かったですね」
「お言葉ですが、日中あまり書斎にいらっしゃらなかったので」
「ああ、そういえばそうでしたね。サクの様子を見にうろうろしてしまいました」
「……サタン様」
「何ですか?」
「僭越ながら、やはりこの城に人間を入れるのは如何なものかと思います」
「契約してしまいましたからね」
「サタン様であれば破棄も可能では」
「…………サクが君に何かしましたか」
「……いえ。ですが、人間は何をするかわかりません」
「悪魔よりは単純でしょう」
「…………」
「それにあの子の魂は手元にありますからね。そうそう妙な真似はしないと思いますよ」
「ですが……」
「では、マリー」
「はい」
「君から見てサクはどうでしたか?」
「……人間とは初めて接しましたが……いい子だと思いますよ。素直な子ですね」
「そうですか。何か悪さしそうでしたか?」
「いえ?全く」
「それではマリーは、彼女を城に置くことについてどう思いますか?」
「サタン様の御心のままに」
「というわけです。二対一ですね」
「……いつから多数決に……」
「君の不安がわからないわけではないですが、何か起きてからでもいいでしょう。私はそうそう死にません。だから、……従いなさい」
「……っ」
「かしこまりました」
「……御意」
「それでは。リュカはもう下がっていいですよ。マリーは私の湯浴みが終わるまでいなさい」
「はい」
「……失礼いたします」
そんな会話があった事など、美夏は当然知る由も無かった。