8.家に帰りました。
マリーさんの部屋で着替えて、またサタンの部屋……とはちょっと違うらしいけどまぁサタンの部屋に行って、人間界に帰った。「明日はちゃんと八時に来るんですよ」と言われて。
そうだよなー。土日ってことは明日もだよな……。うう疲れた。疲れる。大人になりたくないでござる。
大人が皆して働きたくないとか学生はいいよなぁみたいなことを言う気持ちがわかったかもしれない。しかも今日はちょっと短かったのに疲れた。明日が怖い。
ベッドに転がり、ふと千春のことを思い出す。千春はどうだったんだろ。メールしてみよ。
「今日どうだった?」とメールを送って、ついでにSNSも眺める。疲れたよう。何か癒してくれるものないかしら。フォローしてる絵師さんのイラストを見たりしてちょっと気力を回復させる。
暫く待ってはみたけれど千春の返事は無い。ていうかお腹空いた……。昼ご飯は食べさせてもらったけど足りない。おかわり貰っとけばよかった……。
手伝うついでにつまみ食いでもさせてもらお、と部屋を出る。ちょうど母さんがキッチンにいた。
「今日のご飯何ー?」
「ポトフよ」
「じゃあ明日はシチューだね」
「そう。明後日はカレー」
「最終的にコロッケになるよね」
「楽なのよ。あんたもお父さんもご飯に頓着しないタイプだから助かるわー」
頓着しないどころかあなたの娘は蛇も食えるようになりましたよと言いそうになって耐えた。正気を疑われる。
って思うと元々ご飯に興味無いタイプでよかったかもなぁ。蛇とか食べれなかった可能性が高い。
「何の本読んでたの?」
「へ?えー……こないだ買ったやつ」
急に聞かれて適当に答える。読んではないけどこの間買ったのは買ったので嘘ではない。
「面白い?」
「それなり」
「読んだら貸して」
「ん」
うだうだ話して、間に味見と称してつまみ食いもさせてもらった。美味しい。そろそろ出来るかな、という頃、匂いにつられてだろう、父さんも部屋から出てきた。
「ご飯出来た?」
「もう少し。待ってて」
「んー」
腹減った、と言いながら父さんはソファーに座った。テレビを点けて、夕方のアニメ番組にチャンネルを合わせる。
母はラノベ、父はアニメ。二人ともマンガも好き。そんな親の影響で私はラノベもアニメもマンガも好きである。
……もし私が魔界に行ってる、って知ったらどんな反応するだろう。行きたいとか思うんだろうか。そういや口止めはされなかったな。……まぁ言ったところで頭大丈夫?ってなるだけか。黙ってよ。
「スプーンとか持ってってくれる?」
「うん」
言われた通り色々持っていく。ふとメイドってこういう準備もするのかなと思った。今日は案内だけだったけど明日からはちゃんと仕事をするんだろう。どんな仕事かなぁと、ちょっと期待して、ちょっと不安になるのだった。
◆◆◆
ご飯も食べてお風呂も入って。スマホを見たけど千春からの返事は無かった。どうしたんだろう。
もう一回送ってみようかと思った時だった。ぴこんと音が鳴って、返事が来た。
『返事遅れてごめんね。今日は本当楽しかった!美夏ちゃんは?』
笑顔の絵文字と共にそんな文章が返ってきた。よっぽど楽しかったんだろうな……。
なので私は案内だけだったけどとても疲れた、という話と、“サク”という雑な名前をつけられた事を報告しておく。それと勤務時間が八時から十七時になったのも。すると千春から『短くない?』ときた。
現代日本の勤務時間に合わせたはずなんだけど……?じゃあそっちは何時から何時なの、と聞いたら変な答えが返ってきた。
『朝出来るだけ早く起きて行って、気が済んだら、もしくは十三時間経過したら帰る』
「……何だそれ……」
実質時間の規定が無いってことじゃないか。何時間勤務する気……最長十三時間、か。休憩あんのかな。ていうか何で十三時間。
わからないので月曜学校で聞こうと思った。文字だとどうも意味がわからん。電話しようかとも思ったけど眠くなってきてしまった。
なので『そっかー月曜でもまた話聞かせてね。そろそろ寝るねおやすみー』と送った。もうすんごい眠い。寝……る前にアラームかけて……八時に行くから七時くらいに起きればいいよねぇ。よし。寝よ。
ぱた、とスマホを置いて、夢の国へ旅立つのだった。