69.更に思い悩みました。
たっくんが黙々と魚を釣っているのを眺める。結構釣ってるな。きっと彼女さんに送るのだろう、たっくんは魚を釣っては写真を撮っていた。
「それ全部送るの?」
「一番でかいやつ送るっつか見せる」
「ああ……」
だからたまに撮らない時もあるのね。というか何枚も撮るのね。
日もだいぶ傾いてきていて、ちょっと暑さが和らいだと思う。結局千春からは連絡来ないか、と帰ろうとしたらスマホが鳴った。見ると千春から返事が来ていた。こちらの状況を鑑みて、向こうも返信は出来たらでいいよ、と頭につけて長文を送ってきてくれた。
「お、彼氏から来た?」
「友達だって」
そこの誤解は解けないままなのだろうかと返事を読む。まず私がクビになったことは知らなかったらしい。ただ、サタン様に契約の内容を少し変えたいと言われた、と。
そもそも、契約はどんなものだったかと思えば千春の魔力の代償が私で、その命をとらない代わりに私が労働するというものだった。
それが私と同じように労働で対価を払うことにしたらしい。理由は教えて貰えなかったから不思議に思っていたけどそういうことだったんだねと納得してくれた。
なので千春の手鏡は普通に使えているらしい。だから貸すのも構わない、と言ってくれた。それを見てとても安心した。これでもう一度魔界に行ける、と思ったものの千春からの最後の一文に思考が止まった。
『それで魔界に行ってどうするの?』
どう。どうもこうも、行って……あれ、本当だ。行ってどうするんだろうか。またメイドやるの?ここで働かせてくださいって言うのか私?散々嫌だみたいなこと言って今更?って顔されそうだな……。大体またメイドやらせてくれるのか?一度クビって言われたのに行っていいものなんだろうか。
どうしよう、とスマホを握って固まる。幸いか、生憎か、アンテナはまた消えていた。それを口実に返事は後にしようと思う。
「何、別れ話でもされたの」
「だから友達だって……」
たっくんの声に我に返る。別れ話の方がいっそわかりやすくていいんじゃないかとすら思えた。
「俺そろそろ帰るけど慰められたいなら早めに言えよ」
「だからそういうんじゃないってば……」
苦笑しつつ立ち上がるとたっくんが魚を分けてくれた。「釣りすぎた」と言いながら。
「今いんの五人?」
「うん。ありがとう。多分明日野菜持ってく」
「西瓜がいいって言っといて」
「わかった」
ちゃっかりしてるわ、と笑いながらたっくんと別れて帰り道を歩く。まだ残る日差しは暑い。魔界は温度変化無くてよかったな、なんて、また思い出してしまった。
(……どうする、か……)
思い出す度考えても、やっぱり答えは出なかった。




