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62.攫われました。

掃除は手が足りているとのことだったのでマリーさんとケルベロス様と遊ぶ事になった。わーいもふもふ。

撫でていると「わふ」だの「きゅーん」だのと鳴いていてとても可愛い。ボールで遊ぼっかーと言っていると遠くからマリーさんを呼ぶ声がした。

「あら……どうかしたのかしら。ちょっと行って来るわね」

「はい」

マリーさんも忙しそうだ、と思うとただ遊んでいるだけの自分の存在が申し訳ない。何かあったら手伝わせてもらおう……。

「サクちゃーん」

呼ばれたので振り向くとファリが手を振りながらこちらに来ていた。

「あ、ファリ」

どうしたの、と言うより先に何故かケルベロス様がスカートの裾を噛んだ。ぐい、と引っ張られる。

「?」

「サクちゃん、マリー……さんがちょっと来てくれって」

「ああ、うん」

わかった、と行こうとするけどケルベロス様が裾を噛んで離してくれない。更には唸り始めた。

「あれケルベロスくんどうしちゃったの」

ファリが怖い、と言うように一歩下がった。……ん、ケルベロス“くん”?様付けしないの?というか、ファリって私の事サクちゃんなんて呼ばなくないか?

あれ?と思っているとまた「サクちゃん?」と言われた。隣では未だケルベロス様が唸っていて、何かがおかしい。

困惑しているとファリが一歩、こちらに近付いた。そうして舌打ちすると溜息を吐いた。え、何でっていうかファリってそんな子じゃないよね……?

「……ああ、もうしょうがないなぁ。もっとスマートにいきたかったのに」

「え……」

がしがしと頭を掻いたかと思うとファリの姿が変わる。そこに立っていたのはファリではなく、ベリアルだった。

「何、で……」

ケルベロス様が唸っていた理由を理解した。これはまずい気がする、と逃げようとしたが無理だった。魔術でも使ったのだろう、ベリアルは私を背後からしっかりと腕の中に納めていた。

「や……っ!」

叫ぼうとした口を押さえられる。

「心配しなくていいよ?イイトコに連れてってあげるからね~」

いつもの軽い調子で言いながら、ベリアルはそのまま私を連れて移動してしまった。


◆◆◆


「あ、ごめん」

ベリアルの声に目を開けると空中だった。って、いうか、落ちてる!?

「ぅわ、え、何、何で!?」

「ちょっと目測誤っちゃった」

そう言ってまた移動する。今度はどこかに落ちた。バランスを崩してベリアルと倒れ込む。

「痛っ……」

「ごめんごめん。大丈夫?転移って地味に難しいんだよねー」

「…………」

そういえばサタン様もそんな事言ってたっけ……。あれ本当だったのかってそこじゃないわ。

「ど、どこですかここ!」

「秘密~」

はいどうぞ、とソファーに座らされる。部屋の中はぬいぐるみや人形、花で飾られ、テーブルには色とりどりのお菓子が並んでいる。可愛らしい部屋だ。こんな状況でなければはしゃいだかもしれない。

「今日からここがサクちゃんの部屋だよ」

「な、何言って……」

「ほら、前に言ったでしょ?可愛い部屋用意しておいたって」

確かにいつぞやそんな事を言っていたか。まさか本当だったとは。

「見て見て大きいテディベア。もふもふで可愛いよ」

ベリアルの方を見ると確かに大きなテディベア、私よりも大きいのがいた。ベリアルはそれを抱えて私の隣に置く。

そしてにこにこと「お菓子もあるからね?もう帰りたくないでしょ?」と言った。そんなことあるわけないだろう。

「か、帰してください!」

「何で?」

「何でって……」

「ここにいればもうメイドなんてしなくていいんだよ?あ、勿論可愛いドレスも用意してあるから!」

ベリアルがクローゼットを開けるとそこには色々なドレスが詰まっていた。「サイズは多分合うと思うけど試着してみて」と一枚出してくる。

「い、嫌です」

「どうして?……そんなに、サタンがいいの?じゃあ、ほら」

言い終わるか終わらないかくらいでベリアルの様子が変わる。それはサタン様そっくりで、気味が悪くなった。

無言で後退るとベリアルは「んー?別にサタンじゃなくてもいいのかな?」と元の姿に戻る。

「……と、とにかく、帰して、ください……」

「……サクちゃん、本当に帰りたいの?」

「は……?」

「だって、ここにいれば綺麗なドレスも可愛いドレスも着放題だし美味しいお菓子も食べ放題。一日楽しい事だけして過ごしてればいいんだよ?それが嫌って事、ないでしょ。人間なんだから」

「…………」

「人間は怠惰で愚かで欲望に弱い生き物だろう?だからこういう何もしなくていい部屋を作ってあげたのに」

そう言うベリアルの表情は至極真面目で、何故私が嫌がっているのか本当に理解出来ないといった様子だった。

「あ、もしかして何か足りない物あった?ごめんねよく知らなくて。欲しい物あったら言ってよ。何でも用意するからさ」

「……帰りたいです」

そう呟くとベリアルが黙る。さっきまで笑っていた筈の顔には何の表情も無い。その無の感覚が怖くて身を竦めた。

「……そう。でも、ダメ。キミはもう僕だけのモノなんだから」

「そんな……!!」

「そうだね、新しい環境に慣れるのに時間がいるよね。暫く一人にしてあげる」

「え……」

「一人でゆっくり考えるといいよ。どうせここからは逃げられないから。じゃ、またね」

「え、あ……」

ぱ、とベリアルが消える。移動したのだろう。後を追おうにも追えない。完全に姿は無い。

「……どうしよう……」

窓があったので外を見たが、ひどく高いところにあるということしかわからなかった。周りには何も見えない。まるで塔の上にいるようだ。

「……ここどこなんだろ」

何も言わずに消えたな、と部屋をうろつく。それなりに広くて、お風呂やトイレなんかもあった。けれど外に出る扉は無かった。閉じ込められたのだと漸く実感する。

「…………」

どうしていいかわからず立ち尽くす。助けを呼ぼうにも連絡なんてとれない。というか誰に助けを求めればいいんだろう。……サタン様?

というか、サタン様なら私がいなくなったってわかったら放っておいても助けに来てくれるんじゃないかな。サタン様だし。私の事好きだし。

うん、きっと助けに来てくれる、と楽観的に言いながらソファーに座った。けれどすぐに不安に押し潰されそうになる。

本当に助けに来てくれるか?そもそも私がいない事にいつ気付く?気付いたとして、そのまま放っておかれる可能性は?いなくなったならもういいとか、そういう風に思われたりはしないか?そうなったら。

ぐるぐると考えて、鼻の奥がつんと痛くなった。視界が滲んで、ぽたりと涙が落ちる。

「……っ」

こんなことで泣くなんて、と袖で拭うが止まってはくれない。怖い。助けて。サタン様。

散々邪険にしておいて、自分が困ったら頼るなんて都合がよすぎる。けれど今の私に出来るのは泣くか祈るかくらいだ。祈る相手が神ではなく魔王だなんて皮肉だと、頭の端で考えた。


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