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6.家令さんに会いました。


「マリー」

「あら、リュカ」

雑談をしつつ食べていると、マリーさんが声を掛けられていた。話しかけたのはかっこいい男の人だった。執事だろうか、スーツ姿で背が高い。白髪のオールバックだけど若い男性だ。……今更だけどここ魔界なんだよな。ってことはマリーさんもこの人も悪魔なんだろうか。その辺一切考える暇無かった……。

「……それは?」

男の人はマリーさんの隣に座ると私を見た。

それ扱いにちょっと苛ついたけど明らか逆らったらヤバそうな人なので言えない。

とりあえず自己紹介、と思ったらマリーさんが言ってくれた。

「この子はサクちゃんよ。サタン様が仰ってたでしょう?今日から書庫とメイドに人間の女の子が入るって」

「あぁ……」

「よろしくお願いします……」

頭を下げたらどうでもよさそうな顔をされた。多分この人は他人に興味が無い。そういうタイプだ。

「本当は城の案内がてら、貴方に挨拶に行くつもりだったんだけど……貴方忙しいから……どこにいるかわからないし……」

「いつものことだろう」

「そうだけどね」

親しそうに話す二人。友達、って感じでもないけど恋人って雰囲気でもない。長年一緒に勤めてるとかだろうか。一人蚊帳の外にいつつサンドイッチをもふもふ食べる。蛇ということを忘れていれば食べられる。一瞬思い出しちゃうけど。

「サクちゃん、この子は家令のリュカよ」

「は、はいっ」

急に振られてびっくりしているとリュカさんは「……何か粗相があれば即刻処断する。そのつもりでいろ」ととても低い声で言った。やっべぇ超怖い。

「もう、リュカったら。初日なんだから優しくしてあげて?」

「俺は反対なんだ。人間を城に入れるなど」

「でもいい子よ」

「数時間で何がわかる。サタン様に仇なす可能性が無いとは言えない」

「大丈夫よねぇ、サクちゃん」

「はぁ……」

仇なすってどうやるんだよ。魔王でしょ?どうしようもないでしょ。思っているとリュカさんも「……まぁ人間がサタン様に何か出来るわけがないか」と呟いた。そうですよ。ええ。

「それじゃ私達は行きましょうか。サクちゃん食べた?」

「あ、はい」

「おかわりいい?」

「大丈夫です」

「そう。じゃ、行きましょ。じゃあね、リュカ」

「あぁ」

どうしよと思って軽く頭を下げ、マリーさんの後をついて行く。食堂を出て、またどこかへ向けて歩いて始めた。

「えぇと、それじゃあ今度はこっちの方ね。主に魔王様のお食事を作る厨房なんかがあるわ」

「はい……。……あ、あの、聞いてもいいですか?」

「なぁに?」

「マリーさんもリュカさんも、というか、このお城にいるのって皆悪魔なんですか……?」

「そうよ?」

それが当然でしょ?みたいな顔をされた。とはいえマリーさんの頭に角は無い。人間と同じに見える。リュカさんも確か無かったはずだ。でもサタンはあったよな。

私の視線で言いたいことをわかってくれたのか、マリーさんは「角は術で隠してるのよ」と言った。

「何でですか?」

「角は力の象徴だから、サタン様にお仕えしている身で力を誇示するのはよろしくないの」

「はぁ……」

わかるようなわからないような。不思議そうにしているとマリーさんは苦笑した。

「そうねぇ。人間はそういう器官ないものね。……物凄く乱暴な例えになっちゃうけど、常にナイフ持って見せびらかしてる感じかしらね」

「あぁー……」

そう言われると何となくわかる気がした。

「あ、でも。騎士団なんかは角を出しているわ」

「そうなんですか?」

「ええ。サタン様をお守りする存在だから、そこは力を見せてくれないと危ういもの」

「成程……」

ただ生えてるだけのものってわけじゃないんだな……。悪魔って大変。

「あ、あと、家令って何ですか……?」

「簡単に言うと使用人で一番偉い人ね」

「へぇー」

道理でめちゃくちゃ怖かった。偉い人だったのかリュカさん。

「ちなみに二番目に偉いのが私」

「そうなんですね!?」

「そうよー。だから貴女に色々教えてるのよ」

「ありがとうございます……」

「これも仕事ですもの。気にしなくていいわ。更にちなむとリュカは私の弟」

「えっ」

「弟。って言っても母が違うんだけどね」

「あ……え……はぁ……」

反応に困る。何て言えばいいんだ。ていうかどういう感じで同じ職場で働いてるんだ。さすがにそこまで突っ込んだ質問は出来ないので「そうなんですね……」としか言えない。

「……人間ってずっと同じ相手と結婚し続けるんだったかしら」

「絶対じゃないけど……大体……基本はそうです」

「悪魔は割と離婚と再婚が多いのよね」

「そ、うなんですね……?」

「愉しい事が好きだし、あんまり我慢もしないから」

「あー。悪魔ですもんね」

「そうそう。だから結構あるわよ親が違う兄弟」

「そ、そうですか……」

あんまり深刻に考えなくてもいいわよーとマリーさんは言ってくれるけどそういう文化で育ってないからさぁ……。

「人間界とは違うことだらけかしら」

「……はい」

「もう嫌になっちゃった?」

「…………」

マリーさんの言葉に自問自答する。色々驚いてるばかりで、嫌ではない。それにまだ初日だ。これくらいで異世界に行きたいと思っていた人間が音を上げるわけにもいかない。

「……色々、知らないことを知れて楽しいです」

そう答えるとマリーさんは一瞬目を大きく開いて、「それならよかったわ」と微笑んだ。



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