59.感傷に浸りました。
サタンは白いハイヒールを手に、ぼんやりと思考を巡らせていた。それを見たリュカが問い掛ける。
「サタン様、その靴は……」
「サクのです。脱いだまま、忘れて行きました。急いでいたようで」
「ああ……。……シンデレラのようですね」
時間に追われて靴を残すなんて、と続けて珍しくリュカが笑みを零した。
「……そうですね」
十二時の鐘の音でシンデレラは帰ってしまう。時間こそ違えど、慌てて帰る様はきっとよく似ていたに違いない。
だとすれば、自分は彼女を捜しに行かないといけないのだろうか?そんな事をせずとも彼女は自分からこちらに来るというのに。
物語の最後、彼らは結ばれるが果たして自分と彼女は。サタンはふっと未来に思いを馳せる。
数年の関係ではあるが、どうあるべきか、その後、一体どうなれるのか。サタンは一瞬思考し、頭を振って目を伏せた。
◆◆◆
帰宅した美夏は真っ先に風呂に入った。化粧を落とさず母の前に出るわけにはいかないと思ったのだ。
適当に「先にお風呂入るねー」と誤魔化して風呂場に向かう。母のメイク落としを拝借して化粧を落とした。
「……はぁ」
湯船に浸かり、息を吐く。散々着せ替え人形のように弄ばれ着いた先では突き飛ばされ。今日は濃い一日だった。温かな湯に疲労が溶けるようだと美夏は天井を仰ぐ。
「…………」
もう少し浸かっていたいが夕飯も出来ているだろうう。美夏は湯船を出て、身体を拭いた。
脱衣所にある鏡に自分が映る。思い出されるのは先程までの自分。マリーとファリに着飾られたあの姿はどこへやら。すっかりといつもの自分、ただの高校生だ。
見た目だけ思えばレヴィの方が圧倒的に優れているだろうに、サタンは何故ただの人間である自分を構うのか。ただの珍しさや非常食や、そういう感覚からは大きくかけ離れている気がする。
その答えをどこかで理解しながら、考えないように美夏は首を振った。そうして頭の隅に追いやる。
今日の夕飯は何だろう、と全く違う事を考えながらリビングに向かった。




