56.サタン様に会いました。
何時間経っただろう。マリーさんとファリによって私は素敵にドレスアップされていた。本当ならよく見る『これが……私……?』なんて言おうかと思ったけどそんな気分でもなかった。もう疲れた。
今日は遅く来たのにもう帰りたい。まさかここまでされるとは思わなかった。
「これでいいかしらね」
「ええ、完璧だと思います!」
「…………というか、私着いたら即体調不良のフリしろって言われてるんですけど」
「それはそれ、これはこれよサクちゃん」
「魔王様の隣に立つのに適当な格好なんて許されるわけないでしょ?」
「はい」
二人が強かった。もう好きにしてくださいませと諦めていたけれど二人ともよくやるなぁ。私じっとしてるだけでこんなに疲れたんだから二人も疲れたんじゃないかなと思ったけどとてもやりきった顔をしていた。満足そうだ……。
「時間も丁度いいし、そのまま出る感じかしらね」
「頑張ってね」
「……はい」
二人とサタン様の部屋に移動する。ハイヒールがすごく歩きにくい。かくかくぎこちなく歩いているとマリーさんにとても不安そうな顔をされた。
「……大丈夫?」
「あんまり……」
壁に手をつきつつよちよち歩いているとファリが手を繋いでくれた。
「……着替えより歩く練習させるべきだった気がします」
「そうね……」
とはいえ今更だわ、とマリーさん達に言われつつサタン様の部屋についた。扉を開けるとリュカさんとサタン様が何かを話していたらしいが、扉の音にこちらを見た。
「…………」
「…………」
リュカさんもサタン様も無言で固まっている。マリーさんが「サクちゃんの準備、整いました」と言ってやっとサタン様が「……はい」と頷いた。
「とても、よく似合っています」
ふい、とサタン様が立ち上がり寄ってくる。いつもの謎のローブではなく、深い紺色のスーツ……タキシードって言ってたっけか。違いはよくわからない。
「…………」
何故かサタン様は私の周りをうろうろとして、じっくり眺めてくる。やめてくんないかな恥ずかしい!
「あ、あの?サタン様?」
「……はい」
「何かありましたか……?」
「……いえ」
そうは言いつつもサタン様は私を見続ける。似合ってないなら素直に言って!でもマリーさんとファリが頑張った結果だからあんまり言われるのも微妙だな……。
「サタン様。そろそろお時間が」
「……ああ、はい。……行きましょうか」
「はい」
すっとサタン様が手を出す。首を傾げると「エスコートされるものですよ」と手を取られた。
「あっ」
びっくりしてバランスを崩すがサタン様が支えてくれた。そうしてそのまま抱き抱えられる。
「えっ、あの」
「…………このまま行きましょうか」
「それはちょっと!」
恥ずかしいことこの上ないです!と言うと「ではこうですね」と下ろされてサタン様と腕を組むようにさせられる。
「…………」
がくがくします、と思いながらしっかり体重をかけるがサタン様は特に何も言わない。いいんだろうか。普通軽く腕を組むだけなんじゃないのだろうか?とはいえどうしようもないのでそのまま歩く。
「……抱えた方が早いですね」
「すみません……」
頑張るんで!と言うと「ゆっくりでいいですよ」と頭を撫でられる。
「いっそこのまま行かないという選択肢もありますし」
「それは選んでいい選択肢なんですか……」
「あんまりよくないですが選びたい選択肢です」
「大変ですね……」
「……そう言ってくれるのは貴女だけですよ」
ぽつりと言ったサタン様の声はどこか寂しそうだった。




