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54.二人だけの秘密が出来ました。


「……サクは温かいですね」

「サタン様も温かいですよ?」

手遊びにサタン様の頭を撫でているがちゃんと温かい。というかそういえば。

「魔界って季節無いんですか?」

「無いですね」

「無いんだ……」

道理で夏場なのに暑くもないわけだ。元の世界だったらこれ暑いだろうなーとどうでもいいことを考える。

「あった方がいいですか?」

「うーん……春とか秋とかはいいけど夏と冬は暑いし寒いし……無くてもいいような……。あーでも夏休みとかクリスマスとかは楽しいしな……」

「行事と温度は関係無いでしょう?」

「まぁそうなんですけど、やっぱそれに合った気温だと気分も違うと言いますか」

「そうですか」

「……魔界ってクリスマスとか」

「あるわけがないでしょう」

食い気味に否定された。まぁ、そうだよな。神様の誕生日を何故祝うって話だよな。悪魔が。

「逆にサタン様の誕生日祝ったりとかはないんですか?祝日になったりとか」

「一応祝日ですよ」

「やっぱそうなんですね。魔王様ですもんね。……ちなみにいつですか?」

聞いたらお祝いしないといけない気もするけど聞くだけ聞いてみよう。もう過ぎてたりとかするのだろうか。

思ったけれどサタン様は視線を不安定に揺らしてなかなか言わない。唇がへの字になっていて、どうも言いづらそうだ。

「?」

「……十二月二十四日です」

「…………」

これは笑っていいんだろうか。いややめた方がいい、絶対。だって何かすごい顔してるもん。何と返そうか迷って、「まだ先ですねー」とだけ言っておいた。何と言うのが正解だったのだろうか。

「………………」

猫のようにサタン様が私のお腹に顔をすりつける。今更だけどこれどういう状況なんだろうか。急に冷静になると恥ずかしいぞこれ。

「……あ、あの」

「何ですか」

「そろそろ離してくれませんかね……?」

「…………」

「あっそうだ本読みませんか本。折角持って来たし」

「…………」

「何か言ってくださいよちょっと!?」

「……そういえば貴女は」

「はい?」

「…………いえ、何でもないです」

「何ですか……」

やっとサタン様が手を離してくれたのでまた椅子に座る。サタン様は変わらず窓枠に腰掛けたままだ。椅子一脚しかないからしょうがないけど持ち主であるサタン様に椅子を譲らなくていいんだろうかと思って、ここは何の為に造ったんだろうと気付く。秘密基地って誰かと遊ぶ為に造るものなんじゃないんだろうか。その辺の話はされなかったな……。

「ところでサタン様」

「何でしょう?」

「何で椅子一脚しか無いんですか?」

「…………」

「誰か呼んだりとかしないんですか?」

「……そういうつもりは全く無かったですね。一人になりたい時に来る所なので」

「お城のどっか空き部屋とかじゃダメなんですか?」

「はい。…………絶対に誰も来ない、私だけの空間が欲しかったので」

「はぁ……?」

「……城は、どこかしら誰かいます。そうなると私は“サタン”のままなので」

自分が自分でいられる場所、とかそういうことなんだろうか。それなら誰も知らない。誰にも教えていないのも納得する。

「……尚更私いていいんですか……。そんな大事な場所……」

「貴女はいいです」

割と即答された。まぁ勝手に来れないしなぁ。それならいいとかなのかな。そういう問題なのかどうかよくわかんないけど。

「誰にも言ってはいけませんよ」

「え?」

「戻ったらきっと、何処にいたのか聞かれるでしょうけれど、内緒にしておいてください」

二人だけの秘密です、とサタン様が口元に人差し指を当てた。子供っぽい仕草が何とも可愛く見えてしまった。

「……はい」

頷けばサタン様は何とも嬉しそうに笑うのだった。


◆◆◆


「そろそろ戻りましょうか」

日も暮れてきて、サタン様が言った。

「いい加減彼女も帰ったでしょうから」

「帰りましたかね……」

「どのみち貴女を帰さないといけませんしね」

どうせ夏休みだからちょっとくらい遅くなってもいいよと思ったけど言わなかった。それ言ったら何か面倒なことになりそうだ。

「それじゃあ戻りますよ」

「はい……って、あの」

「何か?」

サタン様がひょい、と私を抱え上げたのだ。いや確かにここ来る時も何か腕掴まれて来たけども!こう冷静な時にお姫様抱っこは恥ずかしい!!

「な、何でお姫様抱っこするんですか……」

「肩に担いだ方がいいですか?」

「……手、繋ぐとかじゃダメなんですか」

「…………腕だけ持って行ってしまうかもしれません」

「嘘ですよね!?」

「転移の術は難しいんですよ。慣れない者がやると壁や天井に埋まります」

「今までそんなこと言ったことないじゃないですか……」

「実は難しいんです」

にこにこと言うサタン様。その表情はいつものように底知れない感じで嘘か本当かさっぱりとわからない。

「というわけで、大人しくしていなさい」

「……っ!」

文句を言う隙も無く、気がついたら魔王城へと戻っていた。サタン様の部屋だ。

「サタン様!?」

そう声を上げたのはリュカさんだった。手にしていたであろう書類がばさりと落ちたのを見るとかなり驚いたらしい。

「一体どちらにいらしたんですか……」

書類を拾いながらリュカさんが問う。けれどサタン様は「ちょっと秘密の場所に」とにっこり言って私を下ろした。

「秘密の場所、とは」

「秘密です。ね、サク」

「は、はい……」

「…………」

リュカさんの視線が刺さる。めっちゃ見られてるけど言うわけにはいかないので視線を逸らした。

「……お戻りいただけたのでよしとします。サタン様、レヴィ様からこちらを預かっております」

リュカさんがサタン様に封筒を渡した。白い封筒で、赤い封蝋がしてある。うわー、かっこいい。

サタン様は机からペーパーナイフを取ると封を切った。そうして中から紙を取り出す。

「…………」

サタン様の表情が一瞬だけ変わった。眉間に皺が寄って、すぐに戻る。何が書いてあるんだろうか。

「……サク」

「は、はい」

「…………来週、金曜日ですか。少し遅く来ていいですから少し長くいることは叶いませんか」

「へ?」

「普段は十七時に帰していますが……そうですね、十八時半までいてもらうことは出来ませんか」

「それは……別に構いませんけど……」

それくらいならいいよ、と言えばサタン様は安心したようだ。リュカさんに「それまでに彼女用のドレスを用意しなさい」と言う。……ん?ドレス?

「ドレス、ですか。どのようなものを」

普通に承ろうとするリュカさん。若干不思議そうな顔してるけどそりゃするよね用途聞こうよ!?

「あ、あの、何でドレスですか?」

「…………これはレヴィ嬢からの招待状です」

「はぁ」

「来週、彼女の誕生日パーティーを開くと。なので貴女を連れて行きます」

「何でそうなるんです?」

「着いたら即具合が悪いフリをして倒れなさい。帰る口実になる」

「何ということを……」

最初から行かなければいいのではと言ったがそういうのはやっぱりダメらしい。「顔を出すだけでもしないと色々あるんです」と嫌そうに言われた。

「マリーさんとかでもいいんじゃ……」

「…………」

無言で見つめられた。嫌らしい。なので仕方なく「わかりました……」と呟く。

「はい。別に何かしてもらうわけではなく、適当に俯いていてくれればいいですよ」

「そんなんでいいんですか」

「ええ。『連れの具合が悪いようです』と言い張るだけなので」

「そうですか……」

サタン様がいいって言うからいいか、と色々諦めるのだった。


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