50.ほんの少し、苦手意識が減りました。
休んだり途中出してもらったお菓子をつまんだりして、一日が終わる。夕暮れの魔界は綺麗だ。
「今日はこのくらいにしましょうか」
「ありがとーございました……」
疲れた、と机に突っ伏す。一日数学漬けというのは厳しい。しかも一日やった割にそんなに進んでないっていうか量が多い。暫く数学漬け、でもそれも嫌だから今度は気分転換に違う教科にするか……。
「というか、何故数学だけ持って来たんですか?」
「へ?」
「好きな国語なり何なり持ってきて交互にやるとか、そういったことも出来たでしょうに」
「あー……何て言うんでしょう。一点集中型といいますか。下手に時間が経つと忘れてしまうというか」
「ああ……」
確かにテスト勉強の時に散々教えた筈の公式が抜けていましたねと言われた。そうです用済みだと思った記憶はどんどん消えていくんです。
「……ですがそれだと休み明け困りませんか」
「困るとは思いますけど……まぁ、何とか」
今までもこんな感じだったから多分大丈夫ですよ、と笑う。
「貴女がいいならいいですが……。それでは身についたとは言えませんね」
「いいですどっちみち大人になったら使わないし」
子供の常套句である。『将来それ何の役に立つんですかー』的なあれだ。サタン様は苦笑しながら「使うかもしれませんよ」と言う。
「使わなくないですか?こんな因数分解とか。九九くらいならともかく」
「今はそうかもしれませんが、いずれ役に立つかもしれませんよ」
勉強とはそういうものです、とサタン様は私の頭を撫でた。
「一つしか使い道が無いなんてことはありませんから、頑張りなさい」
「……はーい」
教え諭すような優しい口調。この人は本当に悪魔なんだろうか、時々わからなくなる。悪魔と、魔王という名前に引っ張られすぎているのはわかるけど、それにしても悪魔らしくない。
「どうかしましたか?」
「……何でもないです」
いたことはないけどよくマンガである近所の優しいお兄ちゃんってこんな感じかなぁ、なんて思うのだった。




