5.お昼ご飯をいただきました。
マリーさんにお城を案内してもらった、んだけどめちゃくちゃに広い。さすが魔王城。
城自体も大きくて色んな部屋があった。それぞれに説明をされながら、またここでの仕事は、とか説明もされた。
説明されたのはメイドの仕事だけじゃなかった。もしかしたら手伝ってもらうことがあるかもしれない、とか知ってて損は無いとかそんな感じで全体的なお城のあれこれを説明してもらった。
一応メモを取りながら歩いてみたけどさっぱり覚えられない。でもそのうち慣れるわよーと優しく言ってもらえたのでよかった。
途中書庫を案内してもらったら至極いい笑顔で本の整理をしている千春……プリムを見た。幸せそうだったので声は掛けないでおいた。あんな笑顔初めて見たかもしれない。
それにしても広いお城だ。学校の倍以上あると思う。多分これ迷子になる。多分でもないな。絶対か。
けれど暫くの間はマリーさんが一緒にいてくれるらしいので安心した。それなら大丈夫だろう。
あとすれ違う人達に興味津々、という目で見られた。マリーさん曰く、『生きてる人間が枷も無く歩いているのがとても珍しい』らしい。
現代日本なら家畜とかが飼い主無しでうろついてる感じだろうか。そりゃ珍しいか。……いきなり捕まって食べられたりとかそういうことにはならない、よね?不安だ……。
「ちょっと遅くなっちゃったけど、お昼にしましょうか。続きはご飯食べてからね」
「はい」
やった。休憩だ。さっきも言ったけど城はかなり広かった。それを案内されたもんだから結構疲れた。休みは家に引きこもってばかりの帰宅部にはなかなかにしんどい行程だったと思う。お腹空いたー。
マリーさんに連れられて、食堂に着く。学食みたいだな。大きな机がたくさんあって、調理場の前はカウンターになっている。
セルフサービスで、カウンターから色々受け取っていくらしい。今日のメニューはサンドイッチと魚のスープだった。あと飲み物と果物。……よかった普通の見た目してる……!!
よくマンガなんかで見る魔界の食べ物っておどろおどろしかったりするからちょっと不安ではあったんだけど至って普通の見た目だ。よかった。
トレーを持ってマリーさんと向かい合わせに座る。
いただきます、と手を合わせてサンドイッチを囓った。柔らかいパンに、野菜。それから……肉?何だろこれ。今一つ食べたことが無い食感だ。味は割とあっさりしている。
ちら、とマリーさんを見ればマリーさんも普通に食べている。別に変なものではないと思うんだけど……聞いてみよ。
「……マリーさん、これ、何のお肉ですか?」
「蛇よ」
「………………」
「蛇。人間界にもいるでしょ?」
「……はい」
「蛇を開いて蒸してスモークして、クリームチーズとレタスとオニオンスライスと一緒に挟んだサンドイッチね。よく出るメニューよ」
「……左様でございますか……」
思考が停止している。マリーさんの言葉に相槌をうつしか出来ない。だって蛇て。そんなもん挟まってるなんて思わないじゃん……!!
私の様子に何か感じるものがあったのか、マリーさんは首を傾げた。
「人間って蛇食べないのかしら?」
「……国とか文化によりけりですけど私の国では多分食べないです……」
「そうなのね。……ちなみに双魚は?」
「そうぎょ……?草に魚って書くやつですか?」
「双生児の双に魚よ。頭が二つある魚なんだけど」
「……そもそもいません……」
「あら。目玉が四つあって美味しいのよ」
「……ゼラチン質ですもんね……」
「是非食べてみて。美味しいから」
マリーさんは無邪気に言って、スープを指した。ただの白身魚だと思っていたけれどもしかしなくともこれがその双魚とやらなのだろう。目玉は入ってないといいな……!!
よく、テレビで異文化交流の為に現地のあれやこれやを食べているのを面白おかしく流しているが、実際目の当たりにするとどうしようもなく笑えないしあんなリアクションはとれないと知った。
彼らにはそれが普通だし、善意で出されてるしで変な反応をするわけにもいかない。特に今は命を人質にされているわけだし。
と、なると平静を装って食べる以外の選択肢なんて無い。というかこんなとこでこんな異文化交流するなんて思わなかった!
意を決してスプーンを持った。サンドイッチは一旦置いた。
どきどきしながらスープをすくって飲んでみる。……意外と普通のトマト味だった。何か……何だっけこれ食べたことある味だな……?
「お口に合わないかしら」
「……いえ、美味しい、です」
「それならよかったわ」
嬉しそうなマリーさん。そこに悪意なんて欠片もない。と思うともう何も言えない。……次からこれ何ですかって聞かないようにしよう……。聞かなければ食べられる、だろう。多分。