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46.少年と遊びました。



「……点数めっちゃよかった」

試験が終わって一週間程経った。答案が全部返ってきたのだが全て平均点を上回っていた。

元々得意だった国語はこれ以上上がらないのでよしとして、他の、特に数学がいい点数だった。初めて半分以上取れた!

なので母さんに見せたらめちゃくちゃ誉められたし、ちょっとだけお小遣いも上げてもらえることになった。どう考えてもサタン様のおかげです本当にありがとうございました。悪魔崇拝しようかなぁ。

そういうわけで今日はお礼の意味を込めてちょっと高め(と言っても三百円くらい)のお菓子を買って魔界に来たわけだが。

「サクさん?どうかしたんですか?」

「あー……いや、何でもない、よ……?」

私の目の前には金髪の少年。十歳くらいだろうか。白いシャツに黒の半ズボンを同じく黒のサスペンダーで吊っている。そして首にはリボンタイ。いわゆるいいとこのお坊ちゃんみたいな格好だ。

そんな彼、ヴィルくんと庭でまったりしている。何でこうなったのか、というのは朝のことだった。



◆◆◆



「あれ、今日はサタン様は」

いつもなら私が来ると玉座的なところでふんぞり返っているのに今日はいなかった。聞けば所用でいないのだという。

「……そういう場合って私の仕事は……」

「ええ、ちゃんとサタン様が用意なさってるわ」

それはそれで嬉しくないです、と言いたいのをこらえた。一体何をさせられるのだろう。

「今日のサクちゃんの仕事はね、お客様のお相手よ」

そうマリーさんが言って、出てきたのは前述の少年、ヴィルくんだった。サタン様の遠い親戚の知人の兄弟の知人の親戚らしい。それはただの他人ではないだろうか。……うん、どう考えても他人だ。

「初めまして、サクさん。ヴィルと申します」

「初めまして……」

胸に手を当て一礼をした彼は貴族の少年なのだろう、その仕草はひどく慣れているように見えた。

「今日はよろしくお願いします」

「は、はい」

「そんなに緊張しなくていいですよ。親戚の子供と遊ぶくらいに思っていただければ」

「…………」

ちら、とマリーさんを見る。マリーさんは「ヴィル様が

仰るならいいんじゃないかしら」と言った。本当?何かめっちゃ偉い人の子供だったりしない?大丈夫?

「というわけで、……後はよろしくねサクちゃん」

「え、マリーさんは」

「別で用事があるのよ。お昼はここにサンドイッチやクッキーの入ったバスケットがあるわ。こっちのポットには紅茶を作ってあるから、どうぞ」

「…………」

丸投げされている感が強い。本当に親戚の子と遊ぶ感じでいいんだろうか。私遊んでもらう側だったからよくわかんないんですけど。

おろおろしていると「それじゃ」とマリーさんは出て行ってしまった。いいのそんなんで。

「サクさん、……庭で遊びたいです」

「えっ、はい」

本人がそう言うならそうしよう、と二人で庭に出てきた。ついでに外でお昼にしたら楽しいんじゃないかとバスケットとポットも持って来た。前も思ったけど広い庭だよなぁ。森っぽいところも見えるけどあの辺どうなってんだろう。

「いい天気ですね」

「そうですね」

二人でてくてく城から少し離れた東屋まで歩いた。バスケットを置いてヴィルくんを見る。

「……何して遊びますか?」

鬼ごっこ?かけっこ?と聞いてみるが悪魔相手に出来るんだろうか。差が歴然としている気がする。確実に私負けるよね。ヴィルくんは空を見ながら暫し考え、言った。

「…………何をして遊ぶものなのでしょうか」

「…………」

遊びたかったのではないのだろうかと思っていると「あまり外で……いえ、室内でもですが遊んだ事が無くて」と彼は続ける。照れているようにも見えるけどちょっと恥ずかしそうな、不安そうな顔に見えた。

「……普段お家では何してるんですか?」

「……特に、何も。……そうですね。本を読んでいることが多いかと」

「そうなんですね」

あんまり外に出してもらえない感じなんだろうか。けどそんなこと聞くのも野暮というか空気読めないってなるから触れないでおこう。家庭事情とかそんな聞かれたくないよねぇ。初対面の人間に。

「うーん、じゃあ、何かしてみたいこととかないですか?」

「してみたいこと……?」

「全力で走りたいとか草むらでごろごろしたいとか」

「ごろごろ……?」

「私小さい頃よく土手でやってたんですけど、こう、横になってごろごろ転がるっていう」

庭は少し丘のようになっているところもあるからやろうと思えば多分出来るんじゃないかと言えば「全部やってみたいです」と言われた。意外とアクティブな子なのかもしれない。

「じゃあ……走りますか?あっちの丘の上まで」

「はい」

よーしと思ったけどメイド服走れるかなこれ。結構スカート広がってるけど……まぁいいややってみよう。

「じゃ、いきますよー」

「はい」

よーいどん、と言いながら走り出した。スカートが思いの外絡まって走りにくい。ヴィルくんの方はまぁ走りやすいだろう、あっという間に走って行ってしまった。あと私普通に足遅かった。

走ると言うよりは早歩きくらいの感じでヴィルくんの待つ丘まで行った。ぜいぜいと肩で息をする私に「大丈夫ですか?」と困ったように言ってくれる。

「だ、大丈夫、です……」

鬼ごっこしなくてよかった。多分秒で捕まるし一生追いかけ続けないといけなくなってる気がする。

「早く走りすぎたでしょうか」

「いえ……私が遅いだけです……」

恥ずかしい、と思いつつ何とか息を落ち着かせた。丘は意外と見晴らしがよくていい風が吹いた。

「気持ちいいですねー」

「そうですね」

一息ついて、「転がりますか」と言うとヴィルくんは微妙な顔をした。

「転がる……」

そうかやったことないもんな。お手本を見せてみようというか私が実験台になろう。久しぶりだからちょっと怖いけど楽しそうでもある。最初怖いのに段々楽しくなってくるから不思議なんだよな。

「こういう感じで横になりまして」

「はい」

「……で、えい、と転がりま、すぅぅぅ」

「!」

ころころころと転がる。最初はゆっくりと、でもすぐに勢いがついて草の緑と空の青とがぐるぐる回って、わけがわからなくなっていく。

次第に速度が落ち、ころりと仰向けに転がった。ぐるぐるする視界に青空が回って見えた。

「サ、サクさん!」

何故かヴィルくんが普通に駆け下りて来ていた。心配そうな顔をしているのを見るとそんなにヤバそうな転がり方をしてしまっていたのだろうか。

「大丈夫ですよー」

へらへら笑うとヴィルくんは安心したように微笑んだ。そして私の頭の草をはらってくれる。優しい。

「あんな風になるんですね」

「はい。最初はどきどきするけどすぐ楽しくなりますよ。……やってみます?」

「……はい」

ちょっと不安そうではあったけどヴィルくんが頷いた。なので一緒に歩いて上り直す。そして一度腰を下ろし、おそるおそる横になった。

「……自分で転がらないといけないんですね」

「押しましょうか?」

「…………」

「そんな急に押したりはしませんよ。ちゃんと合図しますよ」

「……じゃあ、お願いします」

「はい」

ヴィルくんの背中に手を当てる。小さな背中から、緊張しているのだろう早めの鼓動を感じた。

「いきますよー」

「……はい」

「3、2、1、えい」

カウントダウンをしてからぐ、っと押した。ころころとヴィルくんが転がっていく。意外に悲鳴とかは無かった。けど大丈夫かなと一緒に駆け下りる。これ駆け下りる方が怖いな!

下まで転がって動きが止まる。そのままヴィルくんは動かない。あれどっか打った?嘘でしょ、と近付くとヴィルくんは放心状態になっていた。ぼーっと空を見上げて動かない。

「だ、大丈夫ですか!?」

揺すっていいんだっけ、頭打ってたらまずいよなと手をおろおろさせるとヴィルくんは起き上がった。

「……大丈夫です。ちょっとびっくりしてました」

「本当ですか?頭打ったりとかしてないですか?」

「ないですよ。どこも痛くありません」

「よかったー……」

何も無いなら安心だ、と胸を撫で下ろす。ヴィルくんはひょい、と起き上がった。

「もう一回やりたいです」

「楽しかったですか?」

「はい」

にこにこと笑ってくれたので本当に大丈夫らしい。じゃあもう一回、と二人で丘の上まで戻った。


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