4.着替えをいただきました。
「それじゃあ、まずは着替えましょう」
「はい……」
マリーさんと一緒に歩いてついたのは小さな部屋だった。
「普通は住み込みだから各自部屋があるんだけど、貴女の部屋は無いから私の部屋で着替えるといいわ」
「ありがとうございます」
マリーさんは黒いワンピースと白いエプロン、それからキャップに靴下、靴をくれた。うわぁ、メイド。ロングスカートなのでクラシカルなメイドさんである。……ミニスカとかじゃなくてよかった。
荷物はこの辺に置いておきなさいと言われたので鞄を置いて、着替え始める。
「それにしても、貴女人間なのよねぇ」
「はい」
「……よっぽど、サタン様に気に入られてるのね」
「え?」
「普通、悪魔にとって人間の魂はとても美味しいと言われているの。だから生贄の魂なんて絶好のご馳走よ。なのに食べずに働かせるんだから……相当気に入ってらっしゃるとしか思えないわ」
「そ、そうなんですか……」
「サタン様の前で何かした?」
「いえ、特に……」
強いて言うなら友人相手にツッコんでたら笑われました、というのは言えなかった。意味がわからないだろう。
「まぁサタン様、結構変わってらっしゃるところもあるから……余興か暇潰しかしらねぇ」
そんなもんで三年も働かされんのか私。嫌すぎる。てかもしかして失敗とかしたら食べられるんじゃないの?それに気付くと急に怖くなった。頑張ろう、本当……。
「……あの、キャップってどうやって被ったらいいですかね……」
「あぁ、貴女髪の毛あんまり長くないものね」
マリーさんに指摘された通り、私の髪は肩ぐらいだ。マリーさんは多分長いのだろう、お団子にして、そこにキャップをつけている。
「じゃあこっちにしましょ」
マリーさんが出してきたのはホワイトブリムだった。それをちょこん、と頭に乗せてもらって着替えは完了である。
「とりあえず、城内の案内かしらね」
「よろしくお願いします」
マリーさんについて部屋を出ると、そこには何故かサタンがいた。
「サタン様!どうなさったんですか!?」
マリーさんが慌てたように言った。サタンがいたのが予想外だったらしい。
「いえ、ちょっと様子を見に」
「まだ着替えただけですよ?」
「用事があったので、ついでです」
サタンはそんな風に言いながら私を頭の先からつま先まで、見た。多分二回見た。そうして「意外と似合ってますね」と笑う。喜んでいいのかこれ?
ていうか立ったサタン大きいな。首痛い。二メートルは無いと思うんだけど、私の背が低いのもあってめっちゃでかく感じる。
ローブ?マント?で身体の輪郭は見えないけど結構逞しかったりするんかな。角さえなければ優男に見えるけど。角と謎オーラで怖い人だって思えるけど。
「用事、とは……」
「もう済みました」
にこ、と笑うサタン。そして「今日は何をさせるんですか?」と何故か私の仕事に興味があるらしい。
「今日は初日ですので、城内を案内致します。実際の仕事は早ければ夕方、無理そうなら明日からにしようと思っております」
「そうですか」
「何か不都合はありますでしょうか?」
「いえ。君に一任しますよ。……それでは」
「はい」
ふい、とサタンは踵を返して歩いて行く。マリーさんが不思議そうな顔で私を見て、言った。
「よっぽど、気に入られてるのねぇ……」
「?」
気に入られてるのか?ただの物見遊山では?首を傾げたけどマリーさんは切り替えが早かった。「さ、行きましょうか」と歩き始めるその後をついて行くのだった。