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35.急に追い返されました。


連れて来られたのはバルコニーだった。椅子と丸いテーブルがあって、ユベールさんがお茶を出している。ユベールさんに軽く頭を下げつつテーブルの近くに立つ。座っているのは優しそうな男の人だった。

「すみません、中座してしまって」

「構わないよ。その子が?」

「はい。最近雇いました。人間のサクです」

「……サク、です」

よくわからんけどとりあえず頭を下げる。男の人は「俺はパイモン。サタンの友人だよ」と微笑んだ。黒い髪をオールバックにしていて、濃い紺色……紫?のスーツを着ている。優しそうだけど何となくかっこいい。何ていうんだろう、落ち着いた大人の男性って感じだ。バーでゆっくりお酒飲んでそう。

それに比べるとサタン様は近所のお兄ちゃん感がある。ちょっとお茶目というか面倒というか。慣れてるからだろうか。

「同席させても?」

「ああ。俺も人間に興味はあるから」

「というわけで掛けなさい」

「え、いえ、そういうわけにも……?」

「ベリアルとは一緒に食事もしたんだろう?なら俺とお茶するくらい許してくれないか?」

ふ、と優しい笑みで言われた。やだかっこいい。「じゃあ……ちょっとだけ……」と座ってしまった。

「…………」

何となくサタン様がこっちを見ている気がするけど気にしない。

「失礼します」

「あ、ありがとうございます」

ユベールさんがお茶を出してくれた。よくよく考えると私メイドなんだよな……何してんだろう……。こんなんでいいんだろうか……。

「サクは今日は仕事じゃないんだろう?」

「え、は、はい」

急に話しかけられて焦る。するとパイモン様(って自然に呼んでしまえる。すごい)が「今日は休みだって聞いたから残念に思ってたんだけど……会えて嬉しいよ」と言ってくれた。やばい。かっこいいこの人。ベリアルと違う方向でチャラいんだけど嫌な感じがしない。

この人はきっといい人、と勝手に思っているとサタン様に言われた。

「……サク、そういえばそれ、何ですか?」

サタン様の視線の先には膝に乗せていたコンビニの袋。すっかり忘れてた。

「あー、勉強教わったお礼っていうか……すみません、こんなのしか買って来れないんですけど」

言いながら袋をテーブルに乗せる。パイモン様も「何だい?」とのぞき込んでくる。

「スナック菓子ですね。サタン様の好みがよくわかんなかったんで適当に」

「へぇ……」

買って来たのはポテチとかチョコ菓子とかそういうものだ。冷静に考えると年上男性にこのチョイスはおかしかった気がする。せめてティラミスみたいなケーキ系のがよかっただろうか。でもそういうの多分コックさんとかが作るんだろうしな。それならいっそこういう絶対お城じゃ出ない物でよかった気がする。

「食べてもいいですか?」

「い、いいですけど……」

テーブルにはお茶と一緒に出されていたのだろう、可愛い色をしたマカロンが乗ったデザートプレートがいる。その横にこんなコンビニ菓子を並べていいんだろうか。

けどサタン様は嬉々としてお菓子を出す。パイモン様も「俺もいい?」と手を伸ばした。

「ど、どうぞ……」

「これは何だい?」

「チョコですね……」

ピンクの小さいパッケージをパイモン様が手にする。サタン様が「君のじゃないです」と言って奪っていたので焦った。何か機嫌悪くなってる……?

「そもそもこれはサクが私に買って来てくれた物ですよ」

「でもサクはいいって言ってくれたよ?」

「…………」

じろ、とサタン様に見られた。私がいいって言うべきじゃなかったな、と慌てて「こ、今度来る時何か買って来ますから……」と誤魔化した。

「……それならよしとしますが……約束ですよ」

「はい……」

お小遣い……と切なくなる。ここでバイトしてるってもお金貰えるわけじゃないもんな。テストの点よかったらお小遣い上げて貰えないか相談してみようかしら……。

「……ああ、美味しいね」

「そうですね」

中身をプレートの端に出して、もくもく食べる二人。大の男二人がチョコ摘んでるの見ると可愛いな何か。

「美味しいならよかったです」

「他のも食べていいかな」

「ダメです」

サタン様が即答で止めた。子供か。……ああ、うん。子供っぽかったわこの人。人じゃないけど。

「つれないねぇ。そんなにサクが好きか?」

「…………」

軽く言われた言葉に何故かサタン様が固まった。そして私を見る。何ですかその反応。私の事気に入ってるんだから連れ回すしよく寄って来るんでしょ?と思いつつ首を傾げる。

「…………そう、ですね」

「今自覚したのかお前は」

「?」

「……サクの方は……そうでもないのか」

「何がですか……?」

「……サク、そろそろ帰りなさい。お菓子はいただいておきます」

「え」

「試験終わったばかりで疲れてるでしょうから戻って休みなさい」

「は、はい?」

「ちょっと失礼します」

腕を掴まれて立たされたかと思うとそのままずるずると引きずられ、サタン様の部屋に連れて行かれた。

「あ、あの?」

「…………また、土曜に」

「は、はい」

ぽい、と投げられるようにされて、気付いたら自分の部屋だった。追い返された……。それにしてもだいぶ珍しい反応をされた。何だったんだろう。好きかって言われた後からだよな。今更そんなこと考えるまでも……。

「……ん?」

考えるまでもないはずだ。だって私はサタン様に気に入られてるから、それはつまり好きって事だと思う。でも、その好きはどういう好きだろうか。サタン様の反応、あれは恋愛的な好きとか、そういうのじゃ……。

「いやいやないない」

ぶんぶんと首を振る。あるわけないでしょ。……ない、よね?


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