33.サタン様に勉強を教わることになりました。
学校も終わり、帰宅した。そして母さんに「勉強するから出てくるまで放っておいて」と頼んで部屋に戻る。
教科書とか全部持って行くのは面倒だな。……現国と古典持ってこ。わからないでしょう西洋の悪魔が。
これでわからなければやっぱ無理じゃないですかーと見てもらう約束を無かったことに出来るのではという魂胆である。いくら頭良くても限界ってあるよね。異国の昔の言語とか無理でしょ。……何で今日本語で会話成り立ってんのかよくわからないけど。
鞄に適当に詰めて、肩に掛ける。そしてやっと買って来たスタンドを使って手鏡を固定した。うん、楽でいいなこれ。色の変わった姿見に手を差し込んだ。
◆◆◆
「ああ、来ましたか」
「来ました……」
いつものようにサタン様の部屋だ。サタン様は大きな机に向かっていて、横にリュカさんが立っている。
「椅子を用意させましたよ」
こっちにいらっしゃい、とサタン様が隣を叩く。リュカさんが「お茶の用意をさせてきます」と部屋を出て行った。
「いつもと服が違うんですね」
「え?ああ、今日は面倒だったんでそのまま制服で来ました」
「そうですか」
物珍しい、とでもいうようにサタン様が目を細めた。そういえばサタン様の服って謎の、ローブっぽいもので見えないんだよな。下何着てんだろ。何も着てない、というかこれが普通に服に当たるんだろうか。わからん。
サタン様の隣の椅子に座る、けどここ仕事の邪魔じゃないんだろうか。リュカさんに怒られないかしら。いや何も言わず出てったけど。
「さて、何を持って来ましたか?」
「て、いうかサタン様お仕事は」
「粗方片付けました。休憩がてら君の勉強を見るということで」
「リュカさんよく怒りませんね……」
「若干嫌そうな顔はされましたけどね。私の方が偉いので」
「そうですか……」
リュカさんも大変だなぁ、と思いつつ勉強道具を出す。現国と古典の教科書とかに筆箱だ。
「わかります?古典とか」
「初めて見ますね」
サタン様が古典の教科書をぱらぱらとめくった。わかるんだろうか。
「……試験、というのは記述ですよね」
「当たり前じゃないですか……。え、こっちって記述じゃないのとかあるんですか?」
「教科によっては口頭で行うものもありますよ。詩の暗唱や呪文の詠唱などです」
「現代日本でそういうのは多分やらない気がしますねっていうか小テストくらいのあれかと」
百人一首は暗唱あったけど授業の合間のテストって感じだったしな。そんなに重要ってわけでもない。
「そうですか。では始めましょうか」
「はぁ……。……あ、七時には帰りたいです」
「わかりました。他には?」
「……本当に古典とか、わかるんですか?」
「要は古い物語の読解でしょう?多少言語が違うくらい、どうということはありませんよ」
「そ、そうですか……」
本当にわかるんだろうかと思いながら、ノートを開いた。
◆◆◆
結論から言うと、サタン様の教え方はわかりやすかった。古典も現国も、妙にわかりやすかった。古文だけじゃなくて漢文もいけた。ていうか初めて見たので何でそんなわかんのこの人。人っていうか悪魔。
時計の針がそろそろ七時を指そうという頃、「そろそろ時間ですね。片付けましょうか」と言われた。
「はい……」
「私の教え方はどうでしたか?」
「…………わかりやすかったです」
「それはよかった。……大方、これならわかるまいと匙を投げると思って持って来たのでは?」
「…………」
「それに、君はこの科目得意でしょう?」
バレてたか、と視線を逸らす。本を読むのが好きなのもあって、国語系は得意である。
「明日は苦手な物を持って来なさい」
「はーい……」
しかし教え方がわかりやすかったので数学とか持ってきてもよさそうだなと思った。我ながら現金である。
「それではまた明日」
「はい。ありがとうございました」
頭を下げて、帰ろうとする。リュカさんがいたので「お茶とお菓子ありがとうございました」とお礼を言っておいた。
「別にお前の為じゃない。サタン様がご所望だったからだ」
「そ、そうですか……」
やっぱり嫌われている、と思いつつ愛想笑いしてお暇した。




