32.したくないけど頼みごとをしました。
結局今日はずっとサタン様と一緒だった。いつもならもう少し離れてる時間があるものの、全然無かった。当然のようにお昼も一緒だったしケルベロス様の散歩もついて来られた。満足そうだったのでいいのかもしれないけど。
「今日もご苦労様でした」
「はい……」
庭が広かったのとほぼ一日動き回っていたので疲れた。じゃあ帰ろう、と思ったところで急に用事を思い出したのでサタン様に向き直る。
「どうかしましたか?」
「あの、ちょっとお願いがありまして」
「対価は寿命でいいですよ」
「重い!労働増えるとかじゃないんですか!?」
まさかの寿命を提示されて焦る。まさかここで寿命を持ってかれることになるとは思わなかった。折角死なない為にバイトしてるのに意味無くない?
おろおろしているとサタン様が笑いながら言った。
「聞いてから決めましょうか。どうしました?」
「実はもうすぐ試験がありまして」
「試験ですか」
「はい。なので……試験終わるまでお休みさせていただきたいんですけれど……」
「…………」
何かを考えるようにして、サタン様はマリーさんにカレンダーを持って来させた。
「試験はいつですか?」
「えーと……」
近付いてカレンダーを見せてもらう。そうして来月の頭の一週間くらいを指して「この辺です」と説明した。
「…………」
「試験終わるのはこの日なんで、この週の土曜からはまた来ますから……それまで休ませてもらえませんか?」
「…………」
カレンダーを見つめて黙るサタン様。ダメって言われたらどうしよう。どうしようもないんだけど。
「……プリムはそのようなことは言っていませんでしたが」
「あの子めちゃくちゃ頭いいんで……」
千春は見るもの聞くもの全てを魔術に持っていこうとするタイプだ。国語は勿論、数学は魔法陣を書いたり色々な計算に使うし、生物や化学、勿論科学なんて魔法の基礎学問のようなものだろう。魔法の本は大体英語だからそれを読むためにと英語も堪能だ。社会だけ微妙なところではあるが、暗記は得意だと言っていた。呪文よりだいぶ覚えやすいと。
なので千春はとても成績がいいんだけど私は平均ちょい下くらいである。現国と古典はそれなりに得意だけど。
「…………」
まだ悩んでいる様子でサタン様はカレンダーから目を離さない。嫌なんだろうか。……嫌なんだろうな。なので用意していた言い訳を付け足す。
「……もし、休ませてもらえなくて試験の結果悪かったら夏休みも来れなくなりますけどそれでもいいですかサタン様」
「それは……困りますね」
「というわけで休ませてください」
「…………」
やっぱりサタン様の嫌そうな気配は消えない。子供か。仕方ないな、と切り札のようにわざと考えるフリをしてから言ってみた。
「…………夏休み、週三で来ますから」
「本当ですか?」
ぱ、と明るい顔でサタン様が顔を上げた。お、いいのかそれで。予想はしていたけれど案の定。
「まぁ、夏休みなんで」
「……毎日は……」
「それは……宿題あるんで勘弁してください……」
「…………」
また悩むような顔に戻るサタン様。我侭というか何というか。でもこれ以上何か出来るわけでもない。切り札出すの早すぎたかしら。暫く無言の時間が続いて、ふと言われた。
「……休んでどうするんでしょうか」
「は?……いや……勉強するんですけど……」
「そう言いながら休憩と称して本を読み始めたり、気分転換と称して掃除や模様替えを始めたり、息抜きと誤魔化して出掛けて一日を潰したりしているのでは」
「何故わかる!!」
思わず言ってしまった。心当たりしかない。そうだよ大体そんな感じだよよくおわかりで!!
サタン様を見れば何かいいことを思いついた、というようににんまりと笑っていた。
「それでは試験が終わるまで毎日来なさい」
「は?が、学校あるし勉強しなきゃなんですけど……」
「学校が終わってからでいいですよ。どうせ友達の家や図書館で勉強するって言ってしないんでしょう?」
「見透かすのやめてもらえます!?」
「ですから、ここですればいい」
サタン様がここ、と言いながら机を叩いた。一瞬何を言われてるのかわからず固まる。
「ついでに勉強を見てあげましょう」
「……は?」
本当に何を言っているんだこの魔王は。何でそんなことを言い出したんだろう。思わずマリーさんの方を見たらマリーさんは何を思ったのか、とても嬉しそうに手を叩いた。
「それはいい案ですねサタン様」
「!?」
「よかったわねサクちゃん」
「え、いや……そういうわけにも……」
絶対リュカさん怒るって、と思ったもののリュカさんは部屋にいない。リュカさん止めてくれないかな!と思っていると「リュカにも言っておきますから大丈夫ですよ」と言われた。大丈夫なのか本当に……?
「では、そういうことで」
「え、決定なんですか」
「でないと休ませてあげませんよ。対価も寿命をもらいますよ」
「どっちみち来るんですね私……?」
「はい」
「…………」
「何か不満が?」
「……に、日本の高校生の勉強とかわかるんですか……」
「教科書と参考書、ノートも持って来なさい。普段の学習でどうにかなるでしょう?」
「…………」
この人多分頭がいい人だ、と思った。人っていうか悪魔っていうか魔王。学校の授業だけで充分って人は大体頭がいいんだ。
何か断り文句は無いだろうかと考えるが出てこない。結局、「それでお願いします……」と言うしかなかった。




