31.呼ばれ方に拘りがあるようでした。
「わふ」
小屋を出る私の後をケルベロス様がついてくる。そして何故か魔王様もついてきた。
「?」
「どうかしましたか?」
「いえ、何で…………ああそっか、仕事無いんでしたっけ」
「暇人みたいに言わないでください。ちゃんと済ませたんですから」
「す、すみません……」
ということはもしかしなくても今日は一日くっついて回るつもりだなこの魔王。二人っきりじゃないだけマシかな。ケルベロス様いるし。
「それに君が迷子になってはいけませんからね」
「大丈夫ですよ」
「庭を歩いたことが?」
「……最初に案内してもらったくらいですかね……」
「迷ってしまいそうですね。帰れなくなってしまうかもしれませんよ?」
「その時は魔王様が探しに来てくださいよ」
そう言うと何故か魔王様が黙った。甘えるなとか思われただろうか。魔王様の方を見れば魔王様は変に真顔で私を見ていた。思わず足を止めるとケルベロス様が早く行こうというように袖を引く。でもこの人放ってけないじゃん?
「魔王様?」
「……何故、そう呼ぶんですか?」
「へ?何でって……魔王様だから?」
「…………サタンで構いませんよ」
「いや様付けた方がいいですし……」
「だったら、サタン様でいいのでは?」
「魔王様の方が言いやすいんで……」
「ではサタンでいいです」
「だから様をですね」
「付けなくていいです」
「えぇ……。ケルベロス様に様付けるんですから様いりますよ」
「いりません」
「…………」
「…………」
謎に無言で向かい合ってしまう。ケルベロス様はうろうろとして、私達のことを心配そうに見ている。
「どうせ他に誰もいないんですからいいでしょう?」
「……リュカさんの前でうっかりサタンって呼んだら殺されそうなんで……」
「止めますよ」
「そういう問題じゃないんですけど……。…………そ、そんなことよりケルベロス様と遊んで来ますね!」
埒があかない気がしたので逃げることにした、と言っても背後にいるけど。
ケルベロス様は取って来いとか出来るのかな。一応「投げるよー」と目の前でボールを振って、放り投げた。
ケルベロス様はまるで普通の犬みたいに駆けて行く。そしてすぐにボールをくわえて戻ってきた。犬だ。右端の頭がくわえていたボールを受け取りつつ撫でてやる。可愛い。
「じゃあもっかい行くよー」
「わふ」
えい、と出来るだけ遠くに投げてやる。帰宅部だし運動は苦手だしなのでそんなに飛距離は出ない。ケルベロス様の身体は大きいので、あっという間にボールに追いつき、すぐさまUターンしてくる。
今度は真ん中の頭がくわえていた。順番制なのだろうか。ボールを受け取り、また投げようとしたら「貸しなさい」と魔王様に取られる。
「え」
何かを言う暇も無く、魔王様はボールを遠くに投げてしまった。私なんかよりずっと遠くに飛んでいったボ
ール。ケルベロス様はダッシュでボールを追いかけていく。あれは暫く戻って来れないのでは……。
結局魔王様と二人きりに戻ってしまった。と思ったら魔王様が言う。
「……君に魔王様と呼ばれるのは何だか嫌です」
「はぁ……?」
「サタンとは呼んでくれませんか」
「…………」
物凄くしょんぼりした様子で言われた。別に何もしてないのにこっちが悪いことをしているような気分になる。
「…………サタン、様」
「はい」
何でか嬉しそうに笑うサタン様。そんな顔されたら魔王様って呼びづらい。ころころ呼び方変わって面倒だけどもそんな事を言ったらまた面倒臭そうだし。
仕方ないから従うか、と思うのだった。




