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26.サタンは偉い人でした。



「今日はこの子と一緒にやってもらおうと思うの」

マリーさんに紹介されたのは褐色の肌に黒髪をポニーテールにした元気そうな女の子だった。

「ファリちゃんよ。サクちゃんより後に入ったけど毎日仕事してるから経験値的にはファリちゃんの方がちょっと上かしらね」

「よろしくお願いします」

スカートの裾を摘んで、一礼するファリ……さん。同い年か年下にも見えるけど何歳だろうか。

「サクです。よろしくお願いします」

普通に頭を下げるとマリーさんは思い出したように言った。

「……サクちゃんに挨拶の仕方教えてなかったわね」

「挨拶……?」

「こう、スカートを摘んで片足を下げて屈んで頭

を軽く下げるの」

「…………」

言われるがまま、やってみた。今し方ファリさんがやったのを思い出しつつやってみたが「堅いわね」と苦笑された。

「でもそんな感じよ。今度からそうなさいね」

「はい」

「それじゃあ今日も客間のお掃除をお願いするわね」

「はい」

「はい」

「分担してもいいし、一緒にやってもいいし。それは二人に任せるわ。お昼に様子を見に来るから、とりあえずそこまで頑張ってね」

「はい」

「わかりました」

「もし何か起きたらファリちゃん、ランドリールームわかるわね?あそこまで来てくれるかしら」

「はい」

「それじゃあ頑張ってね」

そう言い残してマリーさんがいなくなる。……あ、いきなり二人きりにされたどうしよう。

人見知りですし陰キャですし。どきどきしながらファリさんの方を見るとファリさんはすごくきらきらした目で私を見ていた。

「!?」

「サクって人間なんだよねぇ」

「あ、はい」

「敬語じゃなくっていいよぉ。てか掃除しながら話そ。マリーさんに怒られちゃう」

「あ、う、うん」

「分担じゃなくて一緒にやろーよ一緒に」

「うん」

はたきを手に、ファリと話しながら手を動かす。何で魔界、それも魔王の城でメイドをしているのかという話をした。ファリは聞き上手なのか、思ったよりすらすらと話せる。コミュ力おばけだろうか。何か微妙にギャルっぽい。

「えー、じゃあサクって魔王様に魂抜かれてるんだー」

「うん……」

そんなテンションで言われると思わずちょっと引いた。何だその軽いノリ。私もちょっと忘れてたけども。

「でもいいなーそれだけ魔王様に気に入られてるってことでしょ?」

「そう……なのかな……」

「おや、不満ですか?」

ひょい、とサタンが現れた。突然出てきたもんだから、ファリが硬直していた。

「また来たんですか……」

「様子見です。今日はマリーとは離れているとも聞いたので尚更」

「リュカさんに怒られません?」

「休憩と言い張って来ましたので」

「早めに戻ってください」

「ふふ」

いつもの調子で話しているとファリが真っ青な顔をしているのに気が付いた。

「ファリ……?」

「な、何で、魔王様にそんな普通にしてるの!?っていうか魔王様に何その態度!?」

「え?」

何って言われてもいつもこんな感じだしな、とサタンを見る。サタンもどうかしたのかとファリを見ている。

「だ、だって魔王様だよ!?一番偉い方だよ!?なのに何でそんな!!」

「こんなんですよねずっと」

「そうですね。サクは常にこうですね」

「だってサタンが何も言わないし……」

「呼び捨て……!!」

「あっすいません」

マリーさんに散々言われたのになかなか直らない。脳内ではサタン呼びだからだろう。様は付けた方がいいですよねと言うと「別に構いませんよ」と言われた。多分ダメだと思う。呼び捨てといて何だけど。

「いくらお気に入りの人間っても魔王様にそんな態度って!!」

あわあわとしているファリ。それを見ている内にとんでもないことをしているのではないかという気分になってきた。

「ファリ、といいましたね」

「な、っ、わ、私のことご存知でらっしゃる、んですか……!?」

ファリがはわはわとしていた。そんなファリに「当然ですよ。入って日が浅いのによくやってくれているとマリーに聞いています」とサタンは微笑む。

「こ、光栄です……!!」

めちゃくちゃ嬉しそうに頭を下げるファリを見ているとつくづく私の反応がおかしいということを思い知らされる。サタンてすごい人……悪魔なんだな。よくよく考えたら魔王だったわ……。

「……魔王様って呼んだ方がいいです……?」

「サタンでいいですよ」

「様!様いりますって!!ていうか魔王様の方がぁ……!!」

大慌てのファリにサタンは苦笑した。

「そんなに堅苦しくなくていいですよ」

「そういうわけにはいきません!この世界を統べる魔王様に、そのような……」

しつこく食い下がるファリに、サタンは言った。

「ファリ」

「!」

名前を呼ばれただけだというのに、ファリは背筋を伸ばして黙る。

「私がいいと言っているんですから、そこまで重く考えずともよいですよ」

「……っ、は、い……」

ファリの声は震えている。余程怖いのだろうか。さっきまでの嬉しそうな様子とは正反対で、少し顔が青ざめている。

「わかればよろしい。では私は戻ります」

「はい」

「は、はい、申し訳ありませんでした……!」

深く頭を下げるファリに倣って一応頭を下げた。サタンに対して緩すぎよね私。サタン様……より魔王様の方が言いやすい気がするから魔王様って呼ぶようにしよう。

ファリはまだ放心状態なのか、呆然とサタンじゃない魔王様が去った方を見ていた。

「……ファリ?」

「!」

ファリの目の前で手を振ってみたらはっとしたように肩を掴まれた。

「……魔王様にあの態度は本当、よくないと思う」

「ご、ごめんなさい……」

「魔王様のお気に入りらしいとは聞いてたけどここまで気に入られてるとは思わなかったぁ……」

「そうなの……?」

「……人間界で一番偉い人って?」

「え。……誰だろ、……世界はわかんないけど……日本なら……首相とか天皇……?」

「その人達に今の態度、取れる?」

「無理」

不敬もいいところだと思う、即刻で何かしらの処分を受ける気がする。って思うと私本当ひどい態度だったな……!

「そういうこと!私が慌てまくった理由わかるでしょ!?」

「すごいわかった……。ごめん……」

「とりあえず、……様は付けよう」

「うん。魔王様って呼ぶ」

「それがいいと思う。っていうか、マリーさんとか何も言わなかったの?あんな態度で」

「様は付けなさいって言われたけど……態度はそうでもない……」

「嘘でしょ……リュカ様とかキレない……?」

「……嫌われてはいる……」

「だよね。……許されてるのは魔王様お気に入りだからかぁ……」

「…………今度から、気をつけます……」

「本当そうして……。こっちの心臓が保たない……」

はぁ、とファリが溜息を吐いた。今日は色々やらかしてばっかりだな……。申し訳ない。


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