24.結局何もわかりませんでした。
月曜日、千春の家に遊びに行って、聞いてみた。
「ベリアルってどんな悪魔?」
「どうしたの急に?」
「いや……こないだ来たんだけど何かすんごいチャラくて……」
「チャラいの?……本によってバラバラだしそもそも人間の書いた本ってアテにならないよ?」
「そうなの?」
「うん。サタン様がそうでしょ?優しいし敬語だし」
「確かに……」
想像していた魔王とは全然違う。傲慢でもないし優しいし。最初は怖かったけど……そういえば何で敬語なんだろう。この間聞けなかったしまた今度聞こう……。
「言われてるのとしたら……法律に明るいとか、炎の戦車に乗ってるとかかな」
「…………」
法律に明るいというのは無いような気がした。人を見た目で判断するのはよくないってわかってるけども絶対そういう感じじゃないと思う。
「あ、じゃあ魔界の本に何か書いてないかな」
「どうかな……。悪魔って言っても魔界だとそこに存在してるじゃん?だから当たり障り無いことしか書かれてないか、すっごく誉め讃えられてるかだと思うよ」
「そうかぁ……」
確かに今生きてる存在に対して変なことは書けないか。どんな人かわかれば対処法みたいなのもあるかなって思ったけどそう簡単にはいかないか。
「あと、悪魔って世襲制みたい」
「え?」
「魔界の本読んでたら同じ悪魔が違うことしてる、ってことがあって、ひどいのは戦争起こしてその後でその復興とかしてる悪魔がいたんだ。よくよく調べたら悪魔は世襲制だからそういうことになっちゃうみたい」
「へぇー」
「ちなみに今のサタン様は二代目だって」
「そうなんだ。何かの本に書いてあったの?」
「うん。先代のサタン様についての本がそれはもうたくさんあって」
「あるんだ……」
「まだ読み始めたとこだけど、先代のサタン様は結構暴君だったみたい」
そういえばベリアルが「血のせいで暴君なのか」みたいなこと言ってたっけ。サタンの父親がそうだからそう言ったのか。魔王なのに親がいるというのも何だか不思議だけど。
「暴君だし独裁気質だったからあんまり人望無かったって。その頃じゃなくてよかったね。その頃だったら即生け贄で終わりだったんじゃないかな」
「本当にね!?今更だけどあんたよくあんなことしたね!?」
「どうしてもやってみたくて……」
友人と言っているけれどちょっと考えを改めた方がいいんじゃないかと思ってしまった。そんな軽く言わないでよ本当。
結果的に生きてるからいいけどもし死んでたらどうしてたんだろうこの子……。その場合犯罪になるんだろうか、なんてどうでもいいことを考えた。
「あ、あと千春って聖職者に知り合いいない?」
「いないけど……何で?」
「いや、サタンがちょくちょく仕事の邪魔しにくるから何か効果あるもの手に入らないかなーと」
「……そもそも私魔女になりたいの。悪魔寄りだからね?その天敵である聖職者に知り合い作ると思う?」
「あ、そっか」
そりゃあ作らないわ、と納得した。じゃあもう諦めるか。サタンにも何もしないって言っちゃったしな。
「そんなにサタン様嫌なの?」
「嫌っていうか……掃除してるとこに話しかけられまくると邪魔」
「そ、そう……」
よくそんな態度でいられるね、と言われたけど私別に悪魔好きじゃないよ?悪魔好きなのは千春でしょうよ。
「じゃあもうサタン様と仕事の邪魔しないって契約結んだら?」
「対価いるじゃん……」
「一年くらい延ばすとか」
「何でそうなるの……。それくらいなら邪魔って言いながら頑張る」
「それもどうかと思うけど……サタン様怒らないの?」
「うん。邪魔だから座っててくださいって言ったら大人しく座っててくれたし」
「……サタン様になんてことを……」
「お、怒られはしなかった、よ?」
「……やっぱり美夏ちゃんサタン様に気に入られてるよねぇ。いいなぁ」
「千春もメイドすれば気に入ってもらえるんじゃないかな」
「……本は読みたいの……」
「だよね」
千春らしい、と笑う。なので「知識増やして魔王の右腕になれば?」と言ってみたらそれだ!という顔をされた。
「そうする。宰相目指す」
「正気?」
「うん。宰相は無理でも、それなりの地位になって私もサタン様に気に入られるように頑張る」
「頑張って……」
応援だけしてるわ、と言えば千春は満面の笑みを浮かべるのだった。




