22.結局お昼ご飯を食べることになりました。
どうしてこうなったんだろうか。私は目の前に出された何か高そうなよくわからない料理を見つめながら思った。
結局あのままサタンの部屋まで連れて行かれて昼食である。テーブルについているのは私とサタンとベリアル。この間サタンとご飯を食べた時より小さいテーブルを、三人で囲むような形で座っている。正直この距離感はどうなんだろうか。しかも今日はリュカさんはもちろんマリーさんもいない。
一応マリーさんは食事を出してくれる時にはいたが、ベリアルの「出来るだけサクちゃんに余計な気を使わせたくないからさ」という優しさなのか何なのかわからない言葉で追い出されてしまった。
前回いたユベールさんも料理を出したらそのまま下がってしまった。「飲み物くらい自分で注ぐからいいよ」とベリアルが言い張ったからである。
皆さんにどうも哀れみの視線を向けられたが本当、どうしたらいいんだろうかこれ。何でこうなったんだろうか。
「あれサクちゃん食べてないね。嫌いだった?」
「い、いえ……」
慌ててナイフとフォークを動かす。何で今日サンドイッチじゃないん?って思ったけどあれか、ベリアルいるからか。お客様用的なあれなんだろう。私のも同じにする必要はわからないけれども。
「サクちゃんって何歳?」
答えていいものなのだろうか。サタンをちら見すると「そういえば聞いていませんでしたね」と言ってきたのでどうやら言っても問題は無いようだ。
「……十六、です」
「十六。え、十六?二十年も生きてないの?すごいね」
「…………」
何が?聞きたいけど不用意に話しかけたくなくて黙る。こういう応対をしていていいのかどうかわからないけどサタンは何も言う様子が無いから多分いいんだろう。
「サクちゃん好きな食べ物何?」
「え……と……スパゲッティ……とか……?」
急に言われても反応しづらい。ぱっと思いついたものを言ってしまったけどよかっただろうか。
「僕も好きー。トマト派?クリーム派?」
「……トマト……です」
「そっかー。美味しいよねー。あ、美味しい店知ってるから今度一緒に行こうよ二人で」
がんがんくるこの人。出来れば行きたくない。二人とか嫌だ。思っているとサタンが「いけません」と言った。
「サタンに言ってないじゃないか」
「サクは私のメイドです」
「それでも休みの日くらいあるだろう?ねぇサクちゃん」
「えーと……」
こっちが休みだと学校があるからある意味休みが無い。けれどそれを言ったら余計に面倒な事になりそうだ……。
「……休みでも用事があるでしょう?サク」
「は、はい」
サタンの助け船に乗ったら「えーじゃあ普通にウチおいでよ」と言われた。普通って何だよ、と心の中で突っ込むとサタンも同じことを思ったのだろう。代わりに言ってくれた。
「普通にとは」
「ココ辞めてウチにおいでっていう。そしたら幾らでも連れ出せる」
「却下です」
「何でさ。大体サタンの意見は聞いてないよ。ねー、サクちゃん」
「…………」
振らないでください、と思ったけど言う勇気は無い。早く食べ終わって帰りたい。なので黙々と食べた。味なんかわからなかったけどこれ何だったんだろう。
「彼女は私のメイドだと言ったはずですよ」
「それでも決める権利はサクちゃんにあるじゃん?」
「ありません」
「うわ暴君。やっぱり血のせいかなぁ。ねぇサクちゃん」
「え、……」
急にそんなこと言われてもわかんないし困るし、とサタンを見た。サタンはとても嫌そうな顔をしている。……今更だけど魔王って何だろう。王様?それとも首相くらいの感じ?
悪魔はあんまり詳しくないんだ、と思いつつ黙ってしまった。するとベリアルが不満そうに言う。
「……やっぱさぁ、サタンいるからサクちゃんも楽しく話せないじゃん。どっか行ってよ」
「ここは私の城ですしサクは私のメイドです。何度言えばわかりますか」
ベリアルの言葉に即返すサタン。空気がとても殺伐とし始めた。止める技量があるわけでもなし、どうしていいかわからない。
「……サク」
「は、はい」
「食べ終わったなら仕事に戻りなさい」
「はい!」
やったー逃げれる、と思ったらベリアルに裾を掴まれた。
「あ、あの……?」
「僕が食べ終わるまで、いいだろう?客の相手も仕事の内だよ」
しつこいベリアルに苛ついたのか、サタンが立ち上がった。ベリアルの手を叩いて離させる。
「ダメです。離しなさい」
「痛っ、ひどくない?暴君すぎない?」
「うるさい。……ベリアル、キミも食べたら帰りなさい。そもそも何をしに来たんですか」
「言ったじゃないか。人間拾ったらしいから見せてもらいにって」
「…………」
「てっきり遊びか気まぐれかなーって思ったけど……そうでもないんだって思ったら欲しくなってきちゃった」
「……それはどういう意味ですか」
「他人の物って欲しくなるよねぇ」
「……サク、戻りなさい」
「は、はい……」
よくわからんが逃げた方がよさそうだ、と思ったので「失礼します」と言い残して逃げた。礼儀作法とか、知らん。
背中に「サクちゃんまたねー」と声を掛けられたが聞こえなかったことにした。




