17.サタンと昼ご飯を食べることになりました。
「ユベール」
「はい」
す、と出てきたのは白髪の男性だった。おじいちゃん、という歳だと思うんだけどスーツを着ていて、背筋がまっすぐでとてもかっこいい。
「サクに会わせるのは初めてでしたね。彼はユベール。執事です」
「初めまして」
ユベールさんは胸に片手を当てて、頭を下げる。なので私も慌てて頭を下げた。
「あ、は、初めまして。サク、です」
ユベールさんは穏やかな目で微笑んだ。優しそうな人だ。
「それではお食事をお持ちします」
ユベールさんはすたすたと部屋を出ていくが、あれ、どんなものが出てくるんですかこれ?テーブルマナーとかわかんないよ私?マリーさんの方を見るがマリーさんは普通に座っていた。いやそりゃマリーさんならそういうの完璧そうだけど!
ユベールさんがサタンの前にお皿を置いた。乗っているのはサンドイッチのようだ。
少しして私とマリーさんの前にもお皿が置かれる。こちらにも見慣れた感じのサンドイッチが乗っている。あと何かのスープも出てきた。よかった。下手にナイフとか使うものじゃなくて。
「どうぞ、食べなさい」
「いただきます」
食べていいらしいのでいただくことにした。手を合わせてからサンドイッチを口に運ぶ。今日は野菜とフライのようなものが挟まっていた。何なのかは聞かない怖い。
「マリーもどうぞ」
「……ありがとうございます」
マリーさんもサンドイッチを手にする。というか今更だけどサタンより先に食べ始めてよかったんだろうか。絶対よくなかった気がする。……何してもいいみたいなこと言ってたしいいかな……。
「……というか、何でいきなり一緒に昼ご飯なんですか?」
ふと気になったので聞いた。マリーさんの様子からしても朝から決まってたわけではなさそうだ。となるとかなり唐突ったんじゃないだろうか。
サタンはふふ、と笑いながら答える。
「リュカに怒られました。君の様子を見に行きすぎだと。これ以上仕事が滞るようならサクを不穏分子として排除すると言われてしまいました」
にこにこと言われたけどそんな顔で言うことじゃないでしょ!?排除って何!?何されるの私!?
「怖っ。何ですかそれ仕事してくださいよ!」
「そんなに溜めているわけではないんですよ?夜には片付きますし」
「そういう問題じゃないですよ……。ていうか何ですかその嫌な連帯責任」
「リュカがだいぶ本気の目をしていました。あのような目は初めて見ました」
「怖いわ!聞きたくなかったんですけど!?」
「大丈夫ですよ。多分」
「とりあえず仕事してくださいマジで」
「ええ。ですからこうやって時間をとることで多少様子を見に行くのを減らそうかと」
「ああそうですか……。てか何でそんな来るんですか?サボってそうに見えます?」
「そういうわけではありませんよ。ただ気になるだけです」
「何でですか……」
「何か面白いことしていないかなと」
「してませんよ。ねぇマリーさん」
「ええ。至って普通に、真面目に仕事をしておりますよ」
「そうですか……」
何だか残念そうなサタン。何を期待されていたんだ私は。
「話している分には面白いんですがねぇ」
「仕事中は仕事しますよ……」
マリーさんもいるから仕事しますよと言えば「真面目ですねぇ」と言われてしまった。あんた私を何だと思ってたんだ。
「いい子を雇いました」
にこにことサタンが言った。人手に困ってたんだっけか。悪魔ってそんなに真面目に仕事しないのかな。マリーさんとかきちんとしてるけども。
「マリーもそう思うでしょう?」
「はい」
サタン様の仰る通りですとマリーさんもにこにこしている。何か恥ずかしいな。普通にしているだけなんだけど。
「さて、そろそろ仕事に戻りますか?サクは足りましたか?」
「は、はい」
「そうですか。午後も頑張ってらっしゃい」
「ありがとうございます……」




