16.家令さんは大変なようでした。
「……そろそろ戻ります」
「はい、サタン様」
「あ、はい」
急に消えるサタン。どうしたんだろう。と思ったらばぁん、とドアが開いた。開けたのはリュカさんだった。リュカさんの表情は険しく、めちゃくちゃ怖い。ヤバい、体育の先生より遙かに怖い。
リュカさんは無言で入ってくると部屋をきょろきょろと見回した。
それを見て察したようにマリーさんは「……サタン様ならついさっきお帰りになったわ……」と呟く。
「…………」
無言のリュカさん。入ってきた時より険しさが増している気がする待って怖い何で私睨むの何で。
「……マリー、掃除する場所をもう少しサタン様の部屋の近くに出来ないか」
「まだ無理ね……。せめて半年、欲を言うなら一年は欲しいわ」
「……………………」
リュカさんの顔がどんどん険しくなっていく。人間ってこんな顔になるの、って思ったけどこの人悪魔だった。とはいえ。
「……少しサタン様と話してくる」
「行ってらっしゃい……」
背中に激怒のオーラを出しながらリュカさんは去って行った。サタンマジ仕事して。
「……あ、あの、マリーさん……私のせいですかね……」
「……サクちゃんは心配しなくていいと思うわ……」
「でも……」
「話してみるって言ったし、きっと大丈夫よ。さ、続きしましょう」
「はい……」
◆◆◆
引き続き掃除をして、マリーさんが「そろそろお昼にしましょうか」と言った。
「はい」
疲れたーと思いつつマリーさんと食堂に向かう。すると食堂の前にリュカさんがいた。めちゃくちゃ険しい顔をしているがサタンとの話し合いはどうなったんだろう。まさか決裂?
「あら、リュカ。どうしたの?」
「二人とも、来い」
マリーさんと顔を見合わせる。よくわからないけど行かないといけないらしいので、二人してリュカさんの後をついて行く。
リュカさんは何も言わないがやっぱりその背中は怒っているようだ。どこに連れて行かれるんだろう。だけどそれを聞く勇気は無いので無言でついて行く。
ついたのは、何か大きな部屋だった。
「サタン様、連れて参りました」
「ああ、来ましたか」
どうやらサタンの部屋だったらしい。……サタンの部屋というか、食事をとる為の部屋だと思う。大きな机の、お誕生日席と言っていいんだろうか、端にサタンが座っていた。
何で連れて来られたんだろうと思っているとサタンはにこにことしたまま言った。
「一緒に昼食をとりましょう、ということで呼びました」
「…………」
思わずマリーさんの方を見る。マリーさんも驚いているらしい、目を丸くしていた。その横のリュカさんはひどく嫌そうな顔をしていた。
「というわけで、かけなさい。マリーもですよ」
何でそうなった、と言いそうになって耐える。下手な事を言うと怒られそうだ。
「リュカは下がりなさい。終わったら呼びます」
「……かしこまりました」
頭を下げてリュカさんが部屋を出る。出る間際、小声で「粗相したら殺す」と言われたのでとても怖い待って何それ怖い。
「マリー、サク。座りなさい」
「失礼いたします」
す、とマリーさんが椅子に座った。「サクちゃんも座りなさいな」と言われたのでマリーさんの隣に座る。
「楽にしていいですよ。二人とも。特にサク」
「え」
「リュカはいませんし、普通にしてなさい。何をしても粗相とはとりませんし、口止めしますから」
「…………」
ちら、とマリーさんを見る。「サタン様が仰るから、その通りになさい」と言われた。
「……わかりました……」
「では食事にしましょうか」




