12.少し早い休憩をいただきました。
食堂に移動してお昼ご飯だ。今日のメニューは何かな聞かない。
出されたのはパニーニだった。生ハム……?とチーズ、野菜が挟まっていて美味しい。昨日もサンドイッチだったよな。そういうのしか出ないんだろうか。
「サンドイッチ系が多いんですね」
「そうね。昼食は手早く食べられるものが主だけど夕食はリゾットとかパスタとかも出るわ」
「そうなんですね」
いいな、と思ったけど夕飯の時間まではいないのでそれを食べる機会は来ないのだろう。
「今日は材料聞かないのね」
「あー……聞いたら食べられなくなりそうで……」
「ふふ。今日は普通に豚肉よ」
「そうなんですね!安心して食べられます。というか……豚、いるんですか」
「いるわよ?人間界にいるものはいるわ。逆にこちらにいるけど人間界にいない、っていうのもいるけど」
こないだの双魚とやらがそうだろう。じゃあ牛とか羊もいるのか。
ということは牧場あるのかな。スローライフ出来るかもしれない。将来的に魔界で働くのってアリかなぁ……。こんな感じなら楽しそうだけども。人間って魔界にいていいものなのかなぁ。珍しいって言ってたっけかそういえば。
「……あの、マリーさん」
「なぁに?」
「人間って魔界で暮らせますかね」
「……住むってことかしら」
「はい」
「聞いたことないわね……。私も人間と会うのはサクちゃんが初めてだし。魔王様だったら過去に会ったことはあると思うけど」
「魔王様……?」
サタンとは別なのだろうかと思ったら「代々のサタン様よ」とマリーさんは言った。サタンて代替わりすんの?どういう仕組みなんだろう。
「後は……そうね、高位の方々なら契約や召還の関係で見たことはあるかもしれないわ」
「高位の方々……?」
「いわゆる貴族よ」
「貴族……」
魔王がいるんだからそこまでおかしい話でもないか。大臣とかそういう系もいるんだろうなぁ。って思うと私とんでもない所で働いていますね今更だけど!魔王直々の採用って思ったらかなりすごくないか私……。ただの日本人JKなのに……。
「昔は人間界と魔界、それから天界は行き来が容易だったらしいの」
ぽつりとマリーさんが話し始めた。そうなん?
「大体二千年近く前の事かしら。それまでは人間も天使も、行き来したり中には魔界に住む天使や、天界に住む悪魔。そのどちらもに住む人間なんかもいたわ。勿論人間界に住む天使や悪魔もね。けど、色々な争いがあって、それぞれに行く道は固く閉ざされたの。それからは皆、それぞれの世界で暮らしているの」
「…………」
「悪魔が人間界へ行くには魔王の力を使うか、召還に応じるか、ってだけだから……ここ二千年くらい人間って来てないんじゃないかしらねぇ……」
思いの外自分……と千春は希有な存在なんだと知った。そうなると魔界でスローライフは難しそうだな……。
「それに前も言ったけど人間の魂って美味しいらしいのよ。この城にいる分にはサタン様が事前に『人間を雇う』って周知させてくれたから大丈夫だけどそれを知らない悪魔からしたら……まぁ、美味しいんなら、って思うわよね」
「!?」
「魂だけならまだしも肉体付なんて、鮮度もいいでしょうし」
とても怖い話を聞かされている気がする。食べられる目で見られるのがこんなに怖いと思わなかった。
「…………あれ、魂は……ある、んですか?」
「取り扱ってるお店もあるけど高価ね」
「珍味、的な?」
「そんな感じかしらね」
「……ちなみにマリーさんは食べたことは……」
「無いわよ?大体の悪魔もそうめったやたらに食べられるものでもないし。あるとすればさっき言ったように契約した悪魔か魔王様か、あとは貴族かしらね。お金持ちなら多分」
「あっそうなんですね!」
一気に安心した。そうそう食べられるわけでもなさそうだ。いやそれだけ希少価値が高いならむしろ危ないのかしらもうよくわからない。
とりあえずはサタンがいるから大丈夫ってところだろうか。ていうか私の魂サタンとこあるから大丈夫なのでは。
「昔は人間もよく悪魔を召還してたから下級悪魔でも魂を食べられたって話だけど……そういえば最近の人間って悪魔崇拝してないの?」
「んん……。してないわけじゃないです。けどそういう悪魔とか天使とかはおとぎ話の生き物だってなってるんで……してないって言ってもいいのかもしれませんね」
「そうなのね。道理で召還なんかも殆ど無いわけね」
「そうですねー。面白半分とかが多いと思います。友人……書庫にいる子なんですけど、あの子はガチですね。めっちゃ魔女とか詳しいです」
「へぇ……。その子に生贄にされたって聞いたけどまだ友人って呼ぶのね」
「あー……まぁ、幼なじみなんで。それに彼女のおかげでこんな経験させてもらえてるって思ったらそこまで怒れなくて」
「いい子ねサクちゃんは」
「……というか、魂人質にとられてまして。生贄にされたことよりそっちに怒ってますね」
「そうだったの?」
「サタンが謎の手際の良さで蝋燭に移しちゃったんですよ……。それで食べられたくなかったら働けって」
「サタン様、ね。気を付けなさい?」
「は、はい。すみません……」
「じゃあサクちゃんが働かせてくれって言ったわけじゃないのね」
「はい。向こうが勝手に」
「そうだったのね。……だとしたら、やっぱりサタン様は余程サクちゃんの事気に入ってるわね」
「そうですか?」
「そんな交換条件出すくらいですもの。ここで食べるのは惜しいって思ったんじゃないかしら」
言われてみるとそうなのだろうか。こんなJK生かしたところで何か面白いことあるかなぁ。考えられるのは三年経たずにどっかで失敗とかを理由に食べちゃう感じだけど。
そんでその時の絶望の顔が見たかったとか言ってくるんだろ、と言いたいけどサタンってそんな風にも見えないんだよな。よくわかんない。
「さ、そろそろ戻って続きしましょうか」
「はい」




