第1話「不気味な赤子のお母さん」
コンコン。ガチャ。ギィィ。カランコローン。
「ソーダさん。相談があります」
「こんにちは。今日はどうなされました?」
「実は……うちの赤ちゃんが不気味なんです」
(むぅ?)
「まるで泣かないし、大人のように物静かで」
(むむむ?)
「魔力まで膨れ上がっているし、なにかじっくり考え事してる雰囲気なんです!」
(ははーん。“あのパターン”ねっ!)
「お母さま、ご安心ください。世の中には早熟で聡明な赤ちゃんもいるものです。お子さんもおそらくその一人ですから、なにも不気味がることはありません」
その人きっと、不慮の事故でこっちの世界に来てしまった大人の転生者さんね!
たぶん赤ちゃんのころから魔力をこう、なんかうまいこと練っているんだわ!
いずれ魔法無双をしたいはずだから、ここは家庭環境を整えてあげるべきね!
才色兼備のソーダさんらしく、今日もバシッとサポートしてあげなくちゃ!
「ほ、本当ですか! 私ったら不気味だなんて思ってしまって……恥ずかしい」
「言葉や感情を理解できる赤子もいますから。温かく見守ってあげてください」
「目線がやたらと本や地図に向いているのですが、それも見せたほうが?」
「ええ、もちろんです。できればご家族や周囲の皆さまも一緒にご協力ください」
「周囲の人たちも、ですか?」
「はい。理解のある大人たちがいれば、知育の大切さも共有できますから」
「そうなんですね。分かりました。ありがとうソーダさん」
「いえ、お仕事ですから。今日も健やかな一日を」
~~~後日~~~
ドドドド! ガチャ! バタン! カランコローン。
「おいっ! ソーダっ!」
「ひぃっ! 生活課の鷹夜くん!」
「ホークナイトだ。お前は一体なにを相談されたんだ!」
「……私ぃ、またなにかやっちゃいました?」
「例の赤ちゃんの転生者、環境が整いすぎてやる気なくしたぞ!」
「ええー……」
生活課の鷹夜くんによると、例の赤ちゃんは家族と周囲の理解があまりに協力的すぎて「五歳児で世界最強の魔法使いクラス」になってしまったらしい。
そのせいで力を誇示するどころか達観しすぎて「人類とは地球の回転に等しい」などと女神さまを論破すると、老賢者としての隠遁生活を計画しはじめたとか。
「お前さあ。べつに転生者自身が環境を最適化するのは構わねえんだよ」
「はい……」
「けどさあ、周囲まで全面的に協力すると、楽しすぎで目標が保てねえんだよ!」
「はい……」
「これじゃあ巻き込まれ系イベントでもしないと、森の賢者になっちまうよー」
「はい……」
「領主や司教だってしぶしぶ悪役やってくれてんだから、少しは考えろ!」
「しゅびばしぇん……」
結局、生活課主導による「引率系ヒロインになってくれそうな人の調査・誘導」「何名かの悪役エキストラさんの協力(日給1万2000円相当)」で、五歳児の転生者さんにはもっと異世界生活を精力的に楽しんでもらうことになった――。
――――――――――――――――――――――――――――――
ここは皆さまに親身に寄りそう「ソーダさんの生活相談所」。
隠している本当の名は、「日本異世界転生者管理局相談課」。
日本発の異世界転生者に快適な人生を送ってもらうべく、
現地の方々にも無用な混乱を与えないよう調整するべく、
空間や時間などといった細かいことはぜーんぶすっ飛ばして
超未来の日本の超技術で、異世界を日夜サポートしております。
でも、サポートしすぎのソーダさんは管理局の悩みものです。